第83話 孫持ちに驚くでない
続いてギルドへ。
ギルドの扉を開けると、いつものラグナールギルドの荒事の熱気を感じられた。
「ここが冒険者ギルドというものなのですね……」
フレインは既にその熱気にあてられているように呟く。
「特にここ、ラグナールは冒険者も多い街ですからね」
アリアが補足を入れる。
ギルド内の喧騒を抜け、受付へと向かう。
わしとしては、ミレイの列がよかったのじゃが……
「アリア!おかえり!」
受付まで着くとエルマが声をかける。
「えぇ、ただいま」
「ボニフと、ドランも久しぶり──」
エルマの視線が、アリア、わし、ドランに移り、
フレインで止まった。
「うわぁ……カッコいい……」
聞こえるか聞こえないかの言葉を漏らす。
わしにはしっかり聞こえたがのぅ。
「……誰ですか、あの方……?」
エルマが小声で、しかし明らかに気になって仕方ない様子でアリアに詰め寄る。
「えっと、新しく一緒に旅をすることになったフレインさんです」
「フ、フレインさん……」
名前を反芻しながら、エルマの視線がちらちらと向く。
フレインはというと、姿勢を正し、軽く一礼した。
「フレインと申します。以後、お見知りおきを」
「は、はいっ! エルマです!」
勢いよく名乗り返すエルマ。
頬がほんのり赤い。
「よろしくお願いしますっ!」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
丁寧な返答。
その様子に、エルマは一瞬ぽーっとした表情を浮かべておるようじゃ。
が──
「ちなみに、こいつ孫いるぞ」
ドランが横から軽く爆弾を投げた。
「…………え?」
空気が止まる。
「……まご……?」
エルマの思考が追いついておらん。
「はい。孫が一人おります」
フレインが真面目に肯定した。
「………………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ギルド内に響く絶叫。
周囲の冒険者がちらちらと、こちらを見ておった。
エルマは口をぱくぱくと動かしながら、視線を彷徨わせておる。
「え、え、え……? でも、え? 見た目……え?」
「私はエルフですので」
フレインは淡々と返す。
追い打ちじゃ。
エルマは完全に処理が追いついておらんの。
「……えぇ……?」
そのまま、机に手をついたまま固まった。
「……で、じゃ」
わしは軽く咳払いをする。
「フレインの冒険者登録を頼む」
「……え……あ、はい……え……?」
返事はしたが、明らかに上の空じゃ。
ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「孫……いやでも……そんな……えぇ……?」
使い物にならんの。
****
「エルマ」
隣から低い声が飛んだ。
いつの間にか、ミレイが立っておる。
「業務中ですよ」
しかしエルマは聞こえていないのか、まだぶつぶつと呟いておった。
ミレイが深いため息をつく。
「……こちらで対応します」
ミレイが一歩前に出る。
慣れた動きで書類を取り出し、フレインに差し出した。
「冒険者登録用紙です。こちらに記入を」
「承知しました」
フレインは受け取り、目を通す。
そして、手を止めた。
「……職業、とは何でしょうか?」
「……はい?」
ミレイはフレインの持つ弓に気付いたようじゃ。
「弓を扱うのであれば“弓使い”などで問題ありません」
「なるほど……」
フレインはこくりと頷き、書き込む。
再び手が止まる。
「……年齢は、どの程度正確に記入すべきでしょうか」
「正確にお願いします」
「……あまり数えておらず……」
「大まかで構いません」
「……では、大まかに」
真剣な顔で記入しておる。
ミレイは淡々と見守り、エルマは横でまだ混乱しておる。
****
「記入完了しました」
「確認します」
ミレイが書類を受け取り、目を通す。
わずかに間を置き、頷いた。
「問題ありません。規定により、ランクはFからのスタートになります」
「Fランク……?」
フレインが小さく首を傾げる。
その瞬間。
「えぇっ!? Fランク!?」
エルマがバッと顔を上げた。
「こんなにカッコいいのに!? 絶対もっと上ですよ! Aランク! 最低でもC!」
「そのような規定はありません」
ミレイが即座に切り捨てる。
「で、でも!」
「ありません」
「うぅ……」
エルマが項垂れる。
完全に私情じゃ。
「フレインさん、ランクっていうのはですね──」
アリアが横から簡単に説明を始める。
「依頼の難易度とか実績で上がっていくものなんですよ」
「なるほど……段階的評価、というわけですね」
「まぁ、そんな感じだな」
ドランが頷く。
「……理解しました」
フレインは素直に受け入れた。
ミレイが金属板を差し出す。
「こちらが冒険者証になります」
「……これが……」
フレインはそれを両手で受け取った。
しばし見つめる。
「……身分を証明するもの、にもなるのですよね」
「紛失にはご注意ください」
「承知しました」
興味深そうに観察しておる。
受付の奥ではミレイとエルマが小競り合いをしておった。
「でもやっぱり納得いかないです……!」
「業務に私情を挟まないでください」
「だって……!」
「エルマ」
「は、はい……」
もっともエルマが完全に抑え込まれておるようじゃが。
わしはその様子を一瞥し、口を開いた。
「ミレイよ」
「はい」
「ゼノスはおるかの」
「……マスターですか」
ミレイは一度エルマを見て、小さくため息をついた。
「少々お待ちください」
そう言って奥へと向かう。
しばしの間。
エルマはまだぶつぶつ言うておる。
フレインは冒険者証を観察し続けておる。
ドランはそれを見て笑いを堪えておる。
アリアは苦笑いじゃ。
やがてミレイが戻ってきた。
「お待たせしました。通して良いそうです」
「うむ」
わしらはギルドの奥──マスター室へ向かった。
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