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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
間章 長旅前の準備編

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第82話 異文化とは面白いものじゃ

 翌朝。

 まだ陽が昇りきらぬ時間に、わしら四人はラグナールの街へ向かった。


 旅の準備のための買い出しじゃ。


 ドランは元気よく歩き、アリアは欠伸をしながらついてくる。

 フレインはというと──


「……この密度で……生活が成立しているのですか……?」


 街の入口で、既に圧倒されておった。


「フレインさん、ラグナール初めてですか?」


「ええ……。森の集落とは……随分と……違いますね……」


 フレインは市場の喧騒を前に、目を細めて周囲を観察しておる。


 人の声、商人の呼び込み、荷馬車の音、焼き菓子の匂い──


 全てが新鮮らしい。


「ほれ、行くぞい。まずは保存食じゃ」


「は、はい」


****


 市場に入ると、フレインの“初めての人間文化”が次々と炸裂した。


「そこの兄ちゃん! 干し肉どうだい! 今なら二つで銅貨五枚!」


「……値段が……変動……?」


 フレインが固まる。


「交渉次第で変わるんだよ。ほら、こういうのは──」


 ドランが胸を張り、商人に向かって指を立てた。


「兄ちゃん、三つで銅貨六枚にしてくれ」


「お、分かってるねぇ! いいよ!」


「……本当に……変わった……」


 フレインは目を丸くしたまま動かん。


「フレインさん、ラグナールはこういうとこなんですよ」


 アリアが笑いながら説明する。


「……文化の差、というやつですね……」


 フレインは真剣に頷いた。


****


 次に向かったのは道具屋じゃ。


「火打石と保存瓶を……」


 わしが店主に声をかけていると、横でフレインが何やら見つめておる。


「……これは……?」


 フレインが手に取ったのは、金属製の折り畳み式の鍋じゃ。


「折り畳めるんですよ、それ」


 アリアが説明すると、フレインは驚愕した。


「……鍋が……折り畳める……?」


「エルフの国にはないのか?」


「ありません。鍋は鍋です」


「そりゃそうだろ」


 ドランが笑う。


「しかし……便利ですね……。文明の力……」


 フレインは鍋をそっと戻し、まるで神具でも扱うような慎重さじゃった。


****


 さらに歩いていると、子どもが駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、耳ながーい!」


 フレインの耳を指差して笑う。


 フレインは固まった。


「……っ……」


「フレインさん?」


「……どう反応すれば……?」


 アリアが吹き出した。


「普通に笑ってあげればいいんですよ!」


「……笑う……?」


 フレインはぎこちなく微笑んだ。


「……こ、こう……ですか……?」


「こわっ!」


 ドランが叫び、アリアが腹を抱えて笑った。


「フレインさん、優しいけど表情固いから!」


「……難しい……」


 フレインは困ったように眉を下げた。


****


 買い出しを終えた頃には、太陽はすっかり頭上にあった。


「腹減ったな。昼にしようぜ」


 ドランが伸びをしながら言うと、アリアも元気よく手を挙げた。


「賛成! あそこの食堂、前に行ったけど美味しかったですよ!」


 アリアが指差したのは、ラグナールでも評判の食堂らしい。


 わしらはそのまま店に入った。


****


 店内は昼時で賑わっておった。


 木のテーブル、香ばしい肉の匂い、客の笑い声──

 フレインは入口でまた固まった。


「……にぎやか……ですね……」


「フレインさん、ここは人気店なんですよ」


 アリアが笑うと、フレインはこくりと頷いた。


「席空いてるぞ」


 ドランが奥の四人席を指し、わしらは腰を下ろした。


****


 店主がメニューを持ってきた。


「今日は煮込み肉と野菜スープがオススメだよ!」


「煮込み肉……?」


 フレインがメニューを凝視する。


「エルフの国にはないのか?」


「ありません。肉はありますが……こんな……豪快な調理は……」


 アリアが吹き出した。


「フレインさん、煮込み肉は美味しいですよ! 柔らかくて!」


「……柔らかい……肉……?」


 フレインは未知の料理に対して、なぜか緊張しておる。


「じゃあ四つ、煮込み肉で」


 ドランが注文をまとめた。



 料理が運ばれてくると、フレインはさらに固まった。


「……これは……」


 湯気の立つ大皿に、ほろほろの肉と野菜。

 香りだけで腹が鳴りそうじゃ。


 フレインが慎重に一口すくった、その時──

 わしも同じく一口食べた。


「…………っ」


 フレインとわし、同時に目を見開いた。


「フレインさん?」


「……とても……柔らかい……」


「ボニフさんも?」


「……五百年前より……格段に……旨くなっとる……」


 アリアが吹き出した。


「いや……これは……驚嘆に値する……。

 肉の繊維のほぐれ方、香草の使い方……。

 保存技術の発達もあるのか……?」


「お前は料理学者かよ」


 ドランが笑う。


 フレインはフレインで、真剣な顔で頷いておる。


「確かに……素材の味が……生きています……」


「お前も評論家みたいになってるぞ!」


 ドランが突っ込み、アリアが腹を抱えて笑った。


「フレインさん、ボニフさん、真面目すぎるんですよ!」


「……真面目に向き合うべき味です……」


「……同意じゃ……」


「向き合うな!!」


 ドランの叫びに、店内の客がちらりとこちらを見る。


 フレインは気まずそうに背筋を伸ばし、

 わしはわしで、静かに二口目を味わっておった。


****


 食事を終え、店を出る頃には、フレインの表情はどこか柔らかくなっていた。


「……人の街の食事……悪くありませんね……」


「だろ?」


 ドランが肩を叩く。


「フレインさん、これからもっと色んな料理食べられますよ!」


「……楽しみに……しておきます」


 フレインは静かに微笑んだ。


 そしてわしは、空を見上げながら呟いた。


「……次はどんな料理に出会えるか……楽しみじゃの……」


 アリアが笑い、ドランが肩をすくめた。


****


 買い出しを終え、荷物をまとめて歩き出す。


「フレインさん、初めてのラグナールどうでした?」


 アリアが尋ねると、フレインは少し考えてから答えた。


「……賑やかで……驚きの連続でしたが……」


 そして、ふっと柔らかく笑った。


「悪くありませんでした」


 アリアは嬉しそうに頷き、ドランは肩をすくめた。


「まぁ、そのうち慣れるさ」


「……努力します」


 フレインは真面目に返事をした。


 わしは三人のやり取りを見て、口元を緩めた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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