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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
間章 長旅前の準備編

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第81話 長旅は計画的にじゃな

 ファルネス、フィオらに見送られ、

 新たな同行者であるフレインを連れてわしらは戻ってきた。

 

 わしの家じゃ。


 そんなフレインはわしの家が珍しいのか、

 ロビーに足を踏み入れた瞬間、目を細めて周囲を見渡した。


「……これは……随分と……」


 言葉を選んでおるのが分かる。


「広いだけで、使っておらん部屋が多いだけじゃよ」


 わしが言うと、フレインは静かに頷いた。


「しかし……この規模の建物を個人で……。驚きました」


 真面目な顔で感想を述べるあたり、フレインらしいの。


 アリアがくすりと笑った。


「フレインさん、びっくりしますよねぇ。

 最初来たとき、私も“えっ屋敷じゃん”って思ったもん」


「俺もだな」


 ドランが同調する。


「しかし……なんつーか」


 ドランが以前寝室に使っていた部屋を見上げた。


「なんか……数日しか滞在してなかったが、帰ってきた感あるわ」


「あっ!私もそれ分かります!」


 ドランが肩をすくめる。


「埃っぽいのは相変わらずだがな」


「そこは……否定できんの」


 使っておらん部屋は掃除しておらん。

 必要な場所だけ綺麗なら、それで十分じゃ。


****


 客間に移動し、四人で腰を下ろす。


 アグリスを目指す旅路を前に、確認しておくべきことは多い。


 王都への旅、エルフの国。


 それと比べてもアグリスは国を隔てる程に遠い。


 かなりの長旅が予想されるのが分かる。


 それ故に準備は慎重にしっかりやっておかねばならぬ。


「さて。まずは旅の目的を整理しておこうかの」


 アリアとドランが姿勢を正し、フレインも静かに耳を傾ける。


「最終目的地は神聖教国アグリスじゃ」


 わしがそう言うと三人は強い目をして頷いた。


「じゃがフレインが言っておった通り、向かうには帝国──ヴァルディア帝国。

 ここを通る必要がある」


 フレインが再度背筋を正した。


「帝国では交易が盛んと聞いております。

 人族との接触を避けるエルフですら小規模ですが多少やりとりがあるくらいです」


 アリアやドランが「へぇ」と反応した。


「もしかしたら帝国で"教団"に関する新たな情報が得られるかも知れぬ」


「教団の真相に近づけば──」


「おぬしの妹……救出できる可能性は高いの」


 アリアが力強く頷いた。


「じゃが焦らぬ事じゃ」


 わしはアリアに向けて指を立てる。


「今焦ってアグリスに行こうとすれば準備不足で、わしらがくたばるかもしれん」


「そうなりゃ、妹さんや教団以前の問題ってことだな」


 ドランが同調し、わしが頷く。


「同意致します。

 急いては事を仕損じる、とも言いますからね」


「たぁー。かてぇよ。

 戦闘中じゃねぇんだから、今はもっと肩の力を抜いていいんだぜ?」


「いえ、私はこういう性分ですので」


 ドランは肩をすくめた。


 じゃが別にフレインを嫌っとるというわけではなさそうじゃ。


 そんなやり取りを見てアリアもくすりと笑った。


「分かってます。焦らずにしっかりと

 生きて、妹を助けますから」


 アリアは元気よく返事をした。


「護衛は任せとけ。旅は長ぇしな」


 ドランが腕を組む。


「……了解しました」


 フレインは礼儀正しく頭を下げた。


 この三人と旅をするのは、悪くない。


****


「では、必要な物資を洗い出すぞい」


 わしが言うと、フレインがすっと前に出た。


「保存食、水袋、火打石、簡易寝具、予備の弓弦、矢羽補修材、薬草──」


「待て待て待て」


 ドランが手を振る。


「一気に言うな!」


「……要点に絞ります」


 フレインは素直に修正した。


 アリアが小さく笑う。


「真面目だなぁ」


 温度差のあるやり取りに、アリアが肩を震わせて笑う。


****


 わしは厨房から持ってきた別のリストを広げた。


「ラグナールで買うものは……魔力触媒、保存瓶、馬車の補修部品。あとは──」


「旅用の服をもう少し欲しいです!」


 アリアが手を挙げる。


「俺は槍の手入れ道具だな。スタンピードで、かなり酷使したからな」


 ドランが続き、フレインは少し考えてから言った。


「私は……特にありません。が、矢はあればあるだけ助かります。

 最も道中自分でも作れますから負担になるようでしたら──」


「あーもう、いいっていいって」


 ドランが叫ぶ。


「必要なもんは普通に言った方がいいぞ」


「いえ、しかし……」


 フレインがそこまで言ったところで、ドランが手で制した。


「それが仲間っつーもんだ」


 フレインが少し目を丸くしたが、すぐに元の表情へと戻った。


「恐縮です」


 そう言い頭を下げた。


 ドランはフレインの態度を見て、まだ納得していない表情を浮かべたが、

 ふっと笑った。


「ドラン程砕けて欲しい……とは言わんが」


 わしはそう前置きし、


「あまり恐縮されると、わしらの方が気を使う。

 性分は変えんでもよいが、そこだけは善処してくれればよい」


 わしはそう告げた。


「フレインさん」


 アリアが続く。


「恐らく、長く苦しい旅になると思います」


 アリアはフレインをジッと見つめ、


「だからこそ、なるべく我儘を言ってください」


 アリアの力強く優しい目に、フレインは表情を和らげた。


「きょうしゅ……分かりました」


 という言葉と共に。


****


「では、明日の朝に出発する。今日は早めに休め」


 三人はそれぞれ頷いた。


「はい!」


「了解。……しかし寝具だけは最高級なんだよな、ここ」


「……ありがたいことです」


 フレインが静かに感謝を述べる。


 アリアはふわりと笑い、ドランは肩をすくめた。


 わしは三人を見て、わずかに口元が緩む。


 旅立つ前の夜としては、悪くない空気じゃ。


 四人の呼吸は自然に揃っていった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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