表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/105

幕間6 焚き火の向こう側

 ボニフの衝撃の告白をしたその夜。


 宴の喧騒が遠のき、森は再び静けさを取り戻していた。


 エルフの集落の一角。

 客人用に用意された小屋の外で、小さな焚き火がぱちぱちと音を立てている。


 火を囲んでいるのは、アリアとドランの二人だけだった。


 フィオは既に眠っている。

 慣れ親しんだ森へ戻れた安心からか、今日はすぐに寝息を立てていた。


 ボニフの姿はない。

 どこへ行ったのかは分からないが、あの様子だと森でも見て回っているのだろう。


 しばらく、二人は無言で火を見つめていた。


 やがて──


「……ドランさん」


 アリアがぽつりと口を開いた。


「ん?」


「今日の話……どう思いましたか?」


 何の話かは言わなくても分かる。


 五百年前の錬金術師。

 賢者の石。

 時間を越えた存在。


 常識からかけ離れた話。


 ドランは頭を掻いた。


「どうもこうも……正直、全部は飲み込めてねぇな」


「……ですよね」


 アリアは苦笑する。


「いきなり“六百年前の本人です”って言われてもなぁ」


「普通なら頭おかしいって言って終わりだ」


「……でも」


 アリアは火を見つめたまま続けた。


「嘘をついてる感じ……しませんでしたよね」


 ドランは少しだけ目を細める。


「……ああ」


 一拍置いて、頷いた。


「少なくとも、あいつは“騙そうとしてる顔”じゃなかった」


 焚き火の火が、ゆらりと揺れる。


「それに」


 ドランは肩をすくめた。


「長老のあの反応だ。

 完全なデタラメってことはねぇだろ」


「……確かに」


 アリアは小さく息を吐いた。


 あのファルネスが取り乱した姿。

 あれを見せられては、否定しきる方が難しい。


「……なんか」


 アリアは少し困ったように笑う。


「すごい人だったんですね、ボニフさん」


「“だった”じゃなくて“今も”だろ」


「そうですね」


 二人は小さく笑った。


 しばらくして、ドランがふと呟く。


「最初はさ」


「はい?」


「正直、怪しいと思ってた」


 アリアは少し驚いた顔をする。


「え?」


「いや、だってそうだろ。

 いきなり現れて、訳知り顔で色々言ってきて、

 やたら強ぇし、妙に落ち着いてるし」


「……それは、まぁ……」


「しかも見た目はわけぇのにあの口調だぞ?

 普通警戒するだろ」


 アリアは苦笑した。


「確かに……」


「でもよ」


 ドランは焚き火に小枝をくべる。


「ミナのこともフィオのことも、あいつ本気で守ってた」


 ぱち、と火が弾けた。


「危ねぇ時も、迷いなく指示出してたしな」


 アリアの表情が、少しだけ柔らかくなる。


「……はい」


「だからまぁ」


 ドランは肩をすくめた。


「全部理解はしてねぇけど、

 信用してもいいかな、とは思ってる」


 アリアは少しだけ驚いたように目を瞬かせた。


 そして──


「……同じです」


 小さく、そう言った。


 風が静かに吹き、火が揺れる。


「正直……怖いです」


 アリアは膝の上で手を握りしめた。


「自分のことも、妹のことも、

 急に分からないことだらけになって……」


 その声は震えていたが、消えそうではなかった。


「ハイエルフの血とか……教団とか……」


 一度言葉を切り、深く息を吸う。


「でも」


 顔を上げる。


 その瞳には、迷いはあっても、折れはなかった。


「それでも、進まなきゃって思うんです」


 ドランは黙って聞いている。


「妹を助けたいから」


 一言。


 それだけで十分だった。


「……ああ」


 ドランは短く答えた。


「だったら行くしかねぇな」


 単純で、力強い言葉。


 アリアは少しだけ笑った。


「はい」


 そして、少しだけ視線を落とす。


「ボニフさん……」


「ん?」


「なんだかんだ言って、

 ずっと前を歩いてくれてますよね」


「まぁな」


「……あの人がいると」


 一拍。


「大丈夫な気がするんです」


 ドランは小さく鼻で笑った。


「分かる」


 即答だった。


「なんかよく分かんねぇけど、

 “なんとかするだろあいつ”って思えるんだよな」


「はい」


 二人は顔を見合わせて、少しだけ笑った。


 火は静かに燃え続ける。


 森の奥からは、遠くエルフたちの歌声が微かに聞こえていた。


 穏やかな夜。


 だがその裏で、

 確実に“何か”が動き始めている。


 その気配を、二人はまだ知らない。


 ただ──


「明日から、また忙しくなりそうですね」


「だな」


 短い会話。


 それだけで、十分だった。


 焚き火の火が、静かに揺れる。


 その向こう側には、

 まだ見ぬ未来と、避けられぬ戦いが待っている。


 それでも二人の表情に、不安だけはなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


次から間章となります。


明かされた教団の歴史。

物語はここから長い旅へと進んでいきます。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


※次回から毎日2話更新(12:00、21:20)に変わります。


よろしければブックマーク・評価をいただけると執筆の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ