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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第77話 腹の探り合いは性分じゃないんじゃが

 背後の木立から現れた男──ルークを、エルフたちは一斉に警戒した。


 空気が張り詰める。


 フレインが一歩前に出て、わしとルークの間に割り込むように立つ。


 その手は、いつでも弓を引ける位置にあった。


 ファルネスもまた静かに視線を向けておる。

 言葉は発さぬが、この場の主導権は未だあちら側にある。


「……誰だ、その男は」


 低く問うフレイン。


 その声音には、明確な敵意が滲んでおった。


「いやー、ひどいなぁ」


 ルークは肩をすくめる。


「初対面でその反応? ボクちょっと傷つくんだけど」


「ふざけるな」


 ドランが一歩踏み出す。


「ルーク! なんでお前がここにいる!」


「なんでって言われてもなぁ」


 ルークは困ったように笑った。


「呼ばれたから来た、って言ったら信じる?」


「信じるわけねぇだろ!」


 怒鳴るドラン。


 当然じゃな。


 わしも同意見じゃ。


「……で?」


 わしは一歩前に出る。


 フレインの横へ並び、ルークを見据えた。


「何をしに来た、ルーク」


「お、ボニフちゃんは話が早くて助かる」


 ルークは軽く手を上げた。


「さっきの続きだよ。助けてあげたでしょ?」


「……助けた、か」


 確かに事実ではある。


 あやつが現れなければ、わしらは無事では済まんかった可能性が高い。


 じゃが。


「その代わりに何を求める」


 わしは即座に切り返す。


 ルークの目が、わずかに細まった。


「やだなぁ、別に何も求めてないって」


「ほう」


「ただの善意。ボク、いい人だから」


「ほざけ」


 わしは短く切り捨てた。


 その瞬間、空気が一段冷える。


 ルークの笑みは崩れぬ。

 じゃが、その奥の温度が、ほんの少しだけ下がった気がした。


「……相変わらず手厳しいねぇ」


「当たり前じゃ。おぬしが何者か分からん以上な」


 わしは視線を逸らさぬ。


「教団の人間、なのは間違いないな」


「さぁね」


 ルークは肩をすくめる。


「そうでもあるし、違うとも言える」


「はぐらかすな」


「はぐらかしてるわけじゃないよ?」


 くく、と小さく笑う。


「ちゃんと答えてるつもりなんだけどなぁ」


 面倒な男じゃ。



(この反応……図星、か)


 完全な否定はせん。


 ならば、内部の人間であることはほぼ確定じゃな。


「さっきの仮面の男はどうした」


 話を切り替える。


「ヘマタイト、だっけ?」


「……名前まで知っとるか」


「そりゃあね」


 ルークは軽く首を回した。


「一応“同僚”みたいなもんだし?」


 場の空気が一気に張り詰める。


 フレインの指が弦にかかる。


 ドランが一歩踏み出しかけた。


「待て」


 わしは手で制した。


 まだじゃ。


「で、その同僚はどうなった」


「さあ?」


 ルークはあっさりと言った。


「途中で逃げられちゃった」


「……逃がした、の間違いではないのか?」


「ひどいなぁ」


 ルークは肩をすくめる。


「ボクだって忙しいんだよ? ああいう真面目くんの相手って疲れるし」


 軽い口調。


(完全に無傷、ではないな)


 外套の端がわずかに裂けておる。


 呼吸も、ほんのわずかに荒い。


 あのヘマタイトと、まともにやり合ったのは間違いあるまい。


「……おぬし、何者じゃ」


 改めて問う。


 今度は、逃がさん。


「ただの通りすがりの──」


「ふざけるな」


 被せて止める。


 ルークの言葉が止まった。


「わしは遊んでおる暇はない」


 静かに告げる。


「教団。そしておぬし」


「……」


「全て繋がっておる」


 ルークの目が、わずかに細くなる。


 じゃが、笑みは崩れぬ。


「そこまで分かってるならさ」


 軽く首を傾げた。


「逆に聞くけど──どこまで知りたいの?」


「全部じゃ」


 即答。


 ルークは一瞬、ぽかんとした顔をして──


 次の瞬間、吹き出した。


「ははっ、いいねそれ」


 楽しそうに笑う。


「嫌いじゃないよ、そういうの」


 ふと、その視線が横へ流れた。


 アリアの方へ。


「……」


 一瞬だけ。


 ほんの一瞬だけ。


 ルークの目から、軽さが消えた。


 すぐに戻る。


 何事もなかったかのように。


「……何じゃ」


「いや、別に?」


 ルークはにやりと笑う。


「元気そうでよかったなーって」


「……」


 わしは何も言わん。


(見たな)


 あやつは、何かに気付いた。


 それが何かは分からん。


 じゃが、間違いなく。


「ボニフ」


 アリアが小さくわしの袖を掴む。


 不安げな視線。


「大丈夫じゃ」


 短く答える。


 安心させるためではない。


 事実として、まだ“何も起きておらん”からじゃ。


「で?」


 ルークが軽く手を叩いた。


「尋問タイムは終わり? それともまだ続ける?」


「……まだじゃ」


 わしは一歩踏み出す。


「教団とは何じゃ」


「んー……」


 ルークは少しだけ考える素振りを見せた。


「ヤバい連中、かな」


「……それだけか」


「それ以上でも、それ以下でもないよ」


 軽く言い放つ。


「面白くないでしょ? ああいうの」


「面白いかどうかの話ではない」


「でもボクはそう思ってる」


 にこりと笑う。


「だから、ちょっとだけ気に入らないんだよね」


「……」


 その一言。


 軽く言ったようでいて──妙に、重い。


「まぁいいや」


 ルークはくるりと背を向けた。


「今日はこの辺で」


「待て」


 低く呼び止める。


 足音が止まった。


 振り返りはせん。


 じゃが、あやつは確かに止まった。


「まだ終わっておらん」


「……」


 わしは一歩、踏み出す。


「“適合体”についてじゃ」


 その言葉に──空気が、変わった。


 ルークの肩が、わずかに揺れる。


 次の瞬間、ゆっくりと振り返った。


 笑っておる。


 いつものように。


「……どこでそれ聞いたの?」


 声の温度が、僅かに落ちていた。


「答える義理はないな」


 わしは即座に返す。


「代わりに、話してもらうぞ」


「ははっ」


 ルークが小さく笑う。


 じゃが、その目は笑っておらん。


「強気だねぇ、ほんと」


 数歩、こちらへ戻ってくる。


 先ほどまでの“帰る気配”は、もうない。


「……いいよ」


 肩をすくめた。


「少しだけ、教えてあげる」


 その一言で──


 場の空気が、再び張り詰めた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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