第75.5話 パイライトは笑う、赤鉄鉱の前で ※ルーク視点※
あーあ。
やっぱりこうなるんだよねぇ。
森の奥で、氷の魔力が暴れてるのを見た瞬間に分かった。
(あー、ヘマタイトだ)
あいつの魔力は、嫌でも分かる。
冷たいとか鋭いとか、そういう次元じゃない。
“感情のない魔力”って、ああいうのを言うんだよ。
で──
(よりによって、ボニフちゃんとアリアちゃんのところかぁ)
ため息が出た。
いや、出たフリをしただけだけど。
実際は、ちょっとワクワクしてた。
だって──
(ヘマタイト相手に、ボニフちゃんがどこまでやれるか見たかったし)
そんな軽い気持ちで近づいたら、
ボニフちゃんの肩に氷の棘が刺さってた。
(あー……これは、さすがにマズいね)
だから、声をかけた。
「はいはーい。お邪魔しまーす」
ヘマタイトの魔力が揺れた。
あいつが揺れるのは珍しい。
(あ、やっぱりボニフちゃんのこと“危険”って認識してるんだ)
ちょっと嬉しい。
いや、かなり嬉しい。
だって、ボクの“推し”が評価されてるみたいじゃん?
「何をしにきた、パイライト」
あー、出た出た。
その無機質な声。
「いやだなぁ、ヘマタイトちゃん。
協力しにきたに決まってるでしょ?」
もちろん嘘だ。
協力なんてする気はない。
(ボクには別の目的があるし)
ヘマタイトは任務のために動く。
ボクは"ソレ"のために動く。
そこが決定的に違う。
****
ヘマタイトが氷の矢を放つ。
ボニフちゃんじゃなく、ボクに向けて。
(あ、怒ってる)
珍しい。
ほんと珍しい。
ナイフで矢を弾きながら、ボクは笑った。
「今のボニフちゃんに、そんな問答する余裕、ある?」
ボニフちゃんはアリアちゃんを抱えて逃げる準備をしてる。
それでいい。
(ここからは、ボクのターンだから)
「パイライト、裏切るつもりか?」
ヘマタイトの声に、初めて“感情”が混じった。
怒り。
それも、深いところから湧き上がるやつ。
(あー……これは、楽しくなる)
「裏切るっていうか……まぁ、別に君には関係ないよ」
次の瞬間、ボクは姿を消した。
氷の盾が砕ける音が響く。
「──裏切りは許さん!」
「お? 初めてそんなに感情出したね?
ボクはそっちの方が好きだよ?」
ナイフが氷を裂く。
氷が空気を凍らせる。
ヘマタイトの魔力は、確かに強い。
まぁでも──
(ボクの方が速い)
それだけの話。
****
「ボニフちゃん! 今のうちに逃げろ!」
軽口じゃない。
本気の声。
ボニフちゃんはアリアちゃんを抱えて走り出す。
「恩に着るっ!」
その言葉に、ボクは少しだけ笑った。
(恩なんていらないよ)
(ボクはただ)
ヘマタイトが再び魔力を収束させる。
氷の結晶が空気を震わせる。
(さて……)
(ここからは、ボクと君の“個人的な時間”だよ、ヘマタイト)
ナイフを握り直し、ボクは笑った。
「さぁ、続きしよっか?」
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