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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第71話 知っているということは最大の攻撃じゃ

 魔物たちが去っていった森の外縁部には、まだ“異様な静けさ”が残っておった。


 風は吹いているのに、葉の揺れ方がどこか不自然。


 魔物の足跡は乱れておらず、まるで“列を成して歩いた”かのように一直線。


 アリアが不安げに口を開く。


「……ボニフさん。これ、本当に……スタンピードなんですか?」


「いや、違うの」


 わしはしゃがみ込み、地面に残った魔力の痕跡を指先でなぞった。


 魔力の流れが、一本の線のように“押し出されて”おる。


 自然の魔物の暴走では、こんな流れにはならん。


「魔物の意思がない。

 怒りも、恐怖も、縄張り意識も……何も感じられん」


「じゃあ……何が動かしてるんですか?」


「外部からの力じゃ。

 しかも複数じゃな」


 アリアとドランが息を呑む。


 調査隊のエルフも、険しい顔で頷いた。


「やはり……そう感じますか」


「うむ。魔力の“押し方”が一人ではない。

 質の違う魔力が、同じ方向へ向けて重なっておる」


 つまり──


 誰かが、複数人で魔物を誘導しておる。


 自然ではありえん。


 わしは立ち上がり、森の奥を見据えた。


「……これは、ただのスタンピードではないの」


****


 エルフの集落へ戻ると、ファルネスがすぐにこちらへ歩み寄ってきた。


「どうだった」


「良い報告ではないの」


 わしがそう言うと、周囲のエルフたちがざわつく。


 アリアとドランも緊張した面持ちで立ち止まった。


「魔物は誘導されておる。

 自然の現象ではない」


「誘導……? 誰がそんな真似を……」


「分からん。じゃが、複数じゃ。

 魔力の質が違う者が、同じ方向へ押し出しておる」


 ファルネスの表情が険しくなる。


「……まさか、教団か」


「可能性は高いの」


 ざわっ、と周囲の空気が揺れた。


 エルフたちの顔に、恐怖と怒りが混じる。


 六百年前の悪夢の話を思い出したかのように。


「じゃが、わしの知る限り……

 あれは“わしの薬”に似ておる」


「お前の薬?」


「うむ。六百年前、魔物をおとなしくさせる薬を錬成したじゃろう」


 ファルネスは、かなり昔の記憶を掘り起こし、合点がいったのか目を見開いた。


「……あの時のか」


「あれと似た“魔力の流れ”を感じた」


 エルフたちが驚きの声を上げる。


「だが方向性が違う」


 わしは指を一本立てた。


「わしの薬は“鎮静”。

 今回のは──"集める、凶暴化させる、そして誘導”じゃ」


「誘導?」


 ファルネスはぴくりと反応した。


 アリアが青ざめる。


「誘導ってことは、どこかにあの魔物の群れが集まるってことか?」


 ドランが腕を組みながらそう聞いた。


 わしは頷いて、ファルネスの机にあった地図を広げる。


「さっき外縁で確認した、魔物が集まっとる位置は──」


 わしは地図上に指を置く。


「この辺りじゃな」


 同行していたエルフ達が頷く。


「わしが感じた複数の魔力の線が」


 わしは地図をなぞり、五本の線を描く。


 一拍。


「今の五本の線を魔物側を通って延長すると──」


 わしがそれを示すと、ファルネスが立ち上がった


「……まさか!」


「……そう、"ここ"じゃな」


 わしは今度は地図上ではなく、足元を指さした。


 ファルネスの顔色が変わる。


「……まさか、狙いは我らの集落か」


「恐らく……じゃがな?

 ただ事実から見ればそうじゃろうな」


 その時、一人のエルフの青年が前へ出る。


「失礼、しかし先ほどの──

 ボニフ殿が昔使ったとされる薬を使えば魔物は大人しくなるのでは?」


 わしは、よくぞそこに気が付いたと感心をした。


 が、わしがどう説明をしたものか……と思案をしていたが


「それは、多分無理だろうな……」


 横からファルネスが青年の言葉を否定した。


「長老様?」


「あの時、ボニファティウスが言っていたな。

 他者の"本能や理性"を"捻じ曲げる"薬ではない──と」


「ボニファティウスの薬は、本能の中にある"安息への渇望"を刺激した結果に過ぎん」


「よくそんなこと覚えておったな……」


 ふん、とファルネスはわしの言葉を流した。


「つまりじゃな、今回の魔物達はそもそもその本能自体を捻じ曲げられとるわけじゃな」


「では今回では使えない、と?」


 わしは頷いた。


「まぁもしかしたら効果はあるもしれん。

 ただ今回だと捻じ曲げられた本能に対して訴えかけることになるでな。

 本来の効果通りに"鎮静"するか、

 より"凶暴"になるか」


「それは……使えないですね」


 青年エルフは納得したように礼をし、元の位置へと下がった。


(まぁ、こんな緊急事態でなければ試してみたくもあったがのぅ……)


 そんな不謹慎な事を考えながら、わしは顎をさすった。


「で?結局どうする?」


 ドランが難しい話が終わったと思ったか、そう切り出した。


「放ってはおけませんよね?」


 アリアもそれに続く。


「物は考えようじゃ」


 わしは周りを見回した。


「全く何も分からんところに襲いかかってくるならば対処は難しかろう」


 じゃが──とわしは続ける。


「事前に誘導される事が分かっていれば対策がうてるじゃろ?」


 アリア、ドランが頷き、ファルネスやエルフ達も決意を新たにした。


 そして、ファルネスが口を開く。


「じゃぁ、対策を打つにしろだ」


「ボニファティウス。

 お前の見立てで、その"誘導"が起きるのはいつだと思う?」


 そうじゃな、とわしは顎をさすり、手を離した。


「長くて五日」


「五日……」


「最短は?」


「……一日じゃ」

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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