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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第70話 宴は騒がしくも儚いものじゃ

 その夜。


 エルフの集落は、久しくなかった賑わいに包まれていた。


 木々の上に灯された光が揺れ、

 静かな歌声が風に乗る。


 フィオの帰還。


 それは、この森にとって──

 決して小さくない出来事じゃった。


 最初、エルフたちはわしら外の者に一定の距離を置いておった。


 森の外から来た者を簡単に受け入れぬのは、この種族の性分じゃ。



 フィオが笑顔を見せるたび、

 その距離が少しずつ縮まっていった。


「フィオ様……本当に……」


「大きくなられましたね……」


 エルフたちが口々に声をかける。


 フィオは最初こそ戸惑っておったが、

 やがて笑顔を見せるようになった。


「えへへ……ただいま!」


 その一言で、空気が一気に和らぐ。


****


「……すげぇな」


 ドランが酒を片手に呟く。


「完全に歓迎ムードじゃねぇか」


「当然じゃろ」


 わしは軽く笑う。


「フィオはこの森の子じゃ。

 無事に帰ってきたとなれば、こうもなろう」


 アリアは少し離れた場所で、その様子を見ていた。


 フィオが、エルフたちに囲まれて笑っている。


 その姿にほんの少しだけ、安堵の色が浮かぶ。


「……よかった」


 小さく、呟いた。


****


「で、ボニファティウスよ」


 ファルネスが酒を片手にやってくる。


「お前、あの後どうやって生き延びた」


「いきなりそこからかの」


「六百年ぶりだぞ?」


「わしとしては昨日の続きみたいなもんじゃがな」


「腹立つ言い方だな……」


 周囲のエルフたちがざわつく。


「長老様が……あんな砕けた……」


「人族とあの距離感……?」


 その反応に、わしは肩をすくめた。


「おぬし、相変わらず周りから固く見られとるの」


「誰のせいだと思っている」


「さぁの?」


 長老があれほど砕けた口調で話すのを、

 村の者たちはほとんど見たことがないのだろう。


 その光景が、彼らの警戒を一気に溶かしていった。


****


 宴は、しばらく続いた。


 笑い声が増え、

 酒が回り、

 緊張はすっかり解けていく。


 フィオもいつの間にか、エルフの女性に抱きかかえられ──


「……すぅ……」


 眠っておった。


「ふふ……寝ちゃいましたね」


 アリアが優しく頭を撫でる。


「ここなら、安心して眠れるじゃろ」


 わしが言うと、


「……はい」


 アリアは静かに頷いた。


 もう、無理に連れていく必要はない。


 ここがフィオの帰る場所なのじゃ。


「さて」


「ボニフさん?」


 わしが立ち上がると、アリアがわしを見上げた。


「何もない飲み直しじゃ」


 まだ飲むのか……と呆れる顔をするアリア。


 少し脇を見ると、ドランがエルフの青年と腕相撲をしておるのが見えた。


「おい、ファルネス。

 もう少し呑むぞ」


「あん?なんだ飲み比べか?」


「それもよいがな、今貼ってある結界術について──」


 わしが去った後の風に乗って

 「ボニフさんもちゃんと人間味があったんですね」と、

 柔らかく優しさが含まれたアリアの声が小さく聞こえた気がした。


****


 翌朝。


 わしらとファルネスが共に朝食を摂る。


 エルフの森にある木の実や野菜、森で採れた鹿の肉。


 それらを堪能し、森の外では味わえない澄んだ水を飲んでいた。


 その時。


 一人のエルフが、静かにファルネスの元へ近づいた。


「長老様」


 だが、その声色は昨夜までの空気とは明らかに違う。


 ファルネスの表情が、わずかに引き締まる。


「……どうした」


「外縁部の調査隊より、報告が」


 一拍。


「魔物の動きに、異常が確認されました」


 その言葉に。


 ファルネスの目が、静かに細まった。


「……そうか」


 短く、答える。


 じゃがその顔は、エルフを守る長老としての顔に切り替わっておった。


「……で、その異常とは?」


「はい。

 現時点では“スタンピードの兆候”と判断しております」


 アリアが息を呑み、ドランが眉をひそめた。


「スタンピード……?」


「ただ──」


 調査隊のエルフは、言葉を選ぶように一瞬迷う。


「前例のそれと比べると……

 どうにも違和感があるのです」


 ファルネスが目を細めた。


「違和感?」


「……はい」


 一拍。


「魔物の動きが、不自然なのです」


「具体的には」


「……分かりません」


 その言葉に、空気がわずかに重くなる。


「だが確かにおかしい。

 そう感じるのです」


 “経験則”からくる報告。

 だが、それ以上は言語化できていない。


 ファルネスはしばし考え──わしへ視線を向けた。


「ボニファティウス」


「なんじゃ」


「お前なら何か分かるか?

 久しぶりの再会早々、こんなことを頼むのは気が引けるが……」


 わしは肩をすくめた。


「見てみんことにはなんとも言えんの」


「……そうか。頼めるか?」


「まぁよいじゃろ」


 わしは軽く笑った。


「それに──面白そうじゃしな」


 一瞬。


 空気が止まる。


「……面白そうって」


 アリアが呆れた声を出す。


「おいおい、状況分かってんのかよ……」


 ドランも苦い顔をする。


「そのような言い方は……!」


 調査隊のエルフが、思わず声を荒げた。


 その目には、明確な不快感。


 当然じゃな。


 森の異常は、彼らにとって“生活そのものの危機”じゃ。


 それを“面白い”と言われれば、気分はよくあるまい。


「よい」


 ファルネスがそれを制した。


「こやつは、そういう男だ」


 一拍。


「……だがな」


 ゆっくりと、わしを見る。


「とんでもなく役に立つぞ」


 調査隊のエルフは、わしを睨むように見たあと──小さく頭を下げた。


「……失礼しました」


「気にするでない」


 わしは軽く手を振る。


「感情としては正しい反応じゃ」


****


 森の外縁部。


 調査地点。


 そこに広がっていた光景を見て──アリアが息を呑んだ。


「……え……?」


 ドランの声が低くなる。


「なんだよ……これ……」


 魔物がいる。

 複数。


 襲ってこない。

 逃げもしない。


 ただ。


 同じ方向を向いている。


 そして、ゆっくりと歩き出す。


 一定の方向へ。

 迷いなく。


「……これが……スタンピード……?」


 アリアの声が震える。


「いや……違うだろ、これ……」


 ドランが吐き捨てる。


「なんか……おかしいってレベルじゃねぇぞ」


 調査隊のエルフも、険しい表情で頷く。


「我々も、同じ結論です」


 一拍。


「だが……説明がつかない」


 その言葉を受けてわしは静かに目を細めた。


 魔力の流れ。

 個体の動き。

 周囲の“偏り”。


 すべてを見て──


(なるほどの)


 結論は出た。


 わしは、ゆっくりと口を開いた。


「これは」


 一拍。


「ただのスタンピードではないな……」

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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