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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第69話 知らんかったもんは仕方がないじゃろう

 ファルネスとの再会の騒ぎがひと段落し、

 屋敷の中には妙な沈黙が漂っていた。


 アリアはまだ状況が飲み込めていない様子で、

 フィオは首を傾げ、

 ドランは「なんだ?なんだ?」ときょろきょろしている。


 エルフの青年たちも、長老のあの取り乱し方を見たせいで、

 完全に混乱していた。


 そんな中、アリアが恐る恐る口を開いた。


「で、結局……なんだったんですか?」


 フィオも続く。


「ファルネスおじいちゃん、どうしたの?」


 エルフの青年も困惑した顔で尋ねた。


「長老様……彼の方は一体……?」


 ファルネスは深く息を吸い、

 わしを横目で見ながら言った。


「……ボニファティウスはな。

 六百年前……いや六百五十年前くらいか?

 まぁその辺りは誤差だが……

 そのくらい前にいた、唯一と言っていい“人族の友人”だ」


「「!?」」


 アリアとドランが同時に目を見開いた。


(今までの“わしの五百年口癖”が本当だったのか……

 という顔じゃな)


 エルフたちもざわつく。


「人族が……六百年前から……?」


「いや見た目は二十歳くらいだろ……?」


「長老様が人族と友……?」


 フィオだけは“ふーん”という顔をしていた。

 年数の感覚が違うのと、人族の寿命をよく知らんからじゃろう。


 アリアがわしを見つめる。


「え? ボニフさん……でも二十歳ですよね?」


「その辺りも含めて、さっきの続きの話をしようかの」


 わしは周囲を落ち着かせるように手を上げた。


****


「さっきファルネスの話で、確実に違うところがあると言ったじゃろう」


 ドランが「あー、なんか言いかけてたな」と頷く。


「その後の出来事が衝撃的で忘れてたが……」


 アリアが身を乗り出す。


「違うことって……なんですか?」


 ファルネスも腕を組み、真剣な顔で言った。


「それは私も知りたいな。

 私の話のどこが違うと?」


 わしは静かに言った。


「それは──賢者の石の生成に必要な素材じゃ」


 アリアが息を呑む。


「それって……ハイエルフの血?」


「うむ」


 ファルネスは頷いた。


「なぜ違う、と?

 確かにお前は天才と呼ばれるほどの錬金術師だったが……

 賢者の石については誰も生成に成功しておらん。

 生成されていない以上、素材が間違っているとも言えるが……

 特別なハイエルフの血が素材と言われても不思議ではないだろう?」


 わしは首を振った。


「前提が間違っておる」


「?」


「賢者の石の生成は──成功しておる」


 ファルネスは椅子から立ち上がった。


「な……!」


「わしが成功させたからの」


「「「!!!」」」


 アリア、ドラン、エルフたちが一斉に固まった。


 アリアが震える声で言う。


「それが本当だとして……

 つまり素材にハイエルフの血は……?」


「そんなもん……

 ──おっと、“そんなもん”という言い方は悪かったの。

 ハイエルフの血は使わん」


「なんだと!?」


 ファルネスが叫ぶ。


「では……ハイエルフ達の犠牲は……」


「見当違いのために絶えてしもうた……

 ということになるじゃろうの」


 ファルネスは膝に手をつき、うなだれた。


「なんということだ……」


 アリアは胸を押さえた。


「もしそれを教団が知っていたら……妹は……」


 フィオも不安そうに言う。


「もしかして……ぼくも?」


「攫われてもおらんし、

 ハイエルフもまだ生存しとったじゃろうな。

 もちろんフィオは誘拐されることなく、

 元気に森の中で走り回ってたじゃろうな」


 ファルネスは顔を上げた。


「しかしだな……

 まぁお前のことだから確実にそうだとは思うが……」


「なんじゃ?」


「それが賢者の石であったという証拠はあるのか?」


「ある」


 わしは胸を張った。


「というかじゃな。

 わしがこの姿で、今この時、五百年後の世界にいることが──その証明じゃな」


「は?」


「?」


「?」


 ファルネス、アリア、ドランが同時に固まる。


 ファルネスが震える声で言った。


「お前……まさかとは思うが……」


「気付いたか?

 すぐ使ったわい。

 時間の跳躍のためにな」


「「「はああああああああ!!??」」」


****


 アリアが混乱した顔で言う。


「えっと……どういうことでしょう……?」


「さっきファルネスも言っておったが、

 賢者の石は触媒として世の理をねじ曲げることが可能じゃ。

 もちろん恐ろしいほどの錬金術の腕と知識、

 膨大な計算量と対価があれば……の話じゃが」


「で?」


 ファルネスが睨む。


「つまりわしは賢者の石を生成したあとじゃな……

 こう、なんと言って良いものか……

 言葉を選ぶのが難しいが……」


「なんとなく嫌な予感がするが、さっさと言え!」


「なんか賢者の石が作れちゃったので満足してしもうての。

 まだ知らぬ世界を見たくて、肉体を対価に時間を飛ばしちゃったんじゃ」


「飛ばしちゃった、じゃないわああああ!!」


 ファルネスの怒号が森に響いた。


****


 喧騒が落ち着いた頃。


 ファルネスは深く息を吐き、

 わしを見つめた。


「……まぁ、なんというか……

 言いたいことは山ほどあるが……

 お前らしい行動であることは分かった」


 アリアも苦笑した。


「なんか……ボニフさんの今までの行動とか……

 全部納得できちゃいました」


 ドランも頭を掻く。


「よく分かんねぇが……

 ボニフらしいっちゃらしい……のか?」


 フィオは首を傾げて言った。


「ボニフ、天才なのに考えなし?」


「なんかフィオが一番辛辣じゃの……」


 わしは肩をすくめた。


「と言うよりも、わしは未来の世界が見たいからというだけで、

 未来が教団によってこうなることまでは知らんかったからの?」


 ファルネスは腕を組み、ふと気づいたように言った。


「……待て。

 お前、賢者の石を作れるんじゃねぇか。

 教団の目的、潰せるかもしれねぇってことじゃ」


「いや、多分じゃが……

 賢者の石はもう二度と作れん」


「?」


「なぜだ?」


「素材がもうないのじゃ」


 わしは懐かしむように目を細めた。


「ファルネスなら知っとるじゃろう。

 海の向こうの火山島におった、あの古竜」


「あぁ……懐かしいな。

 いや待て、つまり……」


「それの心臓が素材の一つじゃ。

 もう寿命で死にかけてたところを、

 痛みのない死を条件に貰ったものじゃからなぁ。

 古竜の輪廻周期から言えばざっと一万年くらいじゃろ。

 わしが二百七十歳くらいの時に亡くなったから……

 あと九千五百年は賢者の石は作れんぞ」


 ファルネスは天を仰いだ。


「なんという……」


 アリアは胸を押さえ、

 フィオはぽかんと口を開け、

 ドランは「すげぇ話だな……」と呟いた。


 わしは静かに言った。


「まぁ、そういうわけでの。

 わしは五百年後の世界におる。

 そして──おぬしらと出会った」


 わしはアリアとドラン、フィオ

 そしてファルネスの順に視線を送った。


 それぞれの表情は、様々じゃが

 そこにわしを責めるような気配はなく、

 わしは少し、ほんの少し安堵のため息をついた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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