第68話 六百年ぶりの再会には何が咲くのかのぅ
ファルネスの長い語りが終わった後も、
屋敷の中には重い沈黙が落ちていた。
アリアは拳を握りしめ、
ドランは珍しく真剣な顔で腕を組み、
フィオはアリアの袖をぎゅっと掴んでいる。
森の奥から吹き込む風の音だけが、
静かに空気を揺らしていた。
──その空気を、わしが破った。
「……一つ、確実におかしなことがあるの」
ファルネスがゆっくりとこちらを向く。
「む? なんだ? お前は?」
少し高圧的で、警戒を含んだ声音。
まぁ、今のわしの見た目では無理もない。
「わしか? わしの名は」
わしは胸を張り、堂々と言った。
「ボニファティウス・フォン・エーベルバッハ」
その瞬間。
ファルネスの顔が、
“理解不能”という表情で固まった。
「は???
何を言っている?
というかその名をどこで……」
そして、何かに気づいたように目を細める。
「まさか……あいつの子孫か?」
「いや、わし自身がボニファティウスじゃ」
「…………」
ファルネスの脳が一瞬止まったのが分かった。
そして──爆発した。
「そんな馬鹿な話があるか!!
あいつはそもそも二百歳のよぼよぼのじじい」
「誰がじじいじゃ!!
あの時もピンピンしとったじゃろうが!!」
わしが即座にそう返す?
「その反応、語り口も雰囲気も……いやしかし見た目が……
信じん、信じんぞ!!」
「おぬし、相変わらず頭が硬いのう」
わしは肩をすくめ、
“決定的な証拠”を出すことにした。
「そうじゃな……
あれは確かおぬしが四百歳になる頃じゃったか……
ここいらで盛大な祭りをやっとったな。
その時におぬしはエルフにも関わらず
考えられんほどの量のワインを飲んでおった。
その時に確か、名前はなんと言っておったかの……
あの女性……リリアラという名じゃったか?
その女性に向かっておぬしは──」
「やめろおおおおおおおお!!」
ファルネスが飛びかかってきて、
わしの口を全力で塞いだ。
「す、すまん!!
しばらく歓談でもしておれ!!
こやつとは……ちょっと話がある!!」
ファルネスはわしの肩を抱き、
ずるずると外へ引きずっていく。
残されたエルフたちは──
「ちょ、長老様……?」
「え……あんな顔、初めて見た……」
「長老様が……取り乱している……?」
全員、目を丸くしていた。
アリアもぽかんと口を開け、
ドランは「なんかすげぇもん見たな……」と呟き、
フィオは「ファルネスおじいちゃん、あんなに焦ってる……」と首を傾げていた。
先程までのシリアスな空気は、完全に吹き飛んだ。
****
屋敷の外、森の端っこ。
ファルネスはわしの胸ぐらを掴み、
涙目で怒鳴った。
「その話は死ぬまで秘密だと言っただろう!!」
「いや、おぬしがわしを信じんから仕方なくじゃな」
「いやお前なら他にもやりようが……
というかなんだその姿は!!」
「いや、その辺も含めてさっき言おうとしたんじゃが、
おぬしが場の雰囲気を壊したんじゃろ」
「む……そ、そうか……」
ファルネスはわしの胸ぐらを離し、
ふと、静かに目を伏せた。
「……お前が、生きていたとは……」
その声は震えていた。
「死んだと……教団の手によって
消されたのだと思っていた……
よく……よく生きていたな……」
ぽろり、と涙が落ちた。
六百年分の感情が、
その一滴に詰まっていた。
わしは静かに頷いた。
「おぬしも……あれから六百年。
エルフとはいえ、よく生きておったな」
ファルネスは涙を拭い、
わしに手を差し出した。
「……久しぶりだ、ボニファティウス」
「うむ、久しぶりだ、ファルネス」
六百年ぶりの握手は、
静かで、温かかった。
****
屋敷へ戻ると、
アリアたちはまだぽかんとしたままだった。
「え、えっと……その……」
「長老さんって……あんな感じなんだな……」
「仲良しなんだね!」
わしとファルネスは顔を見合わせ、
同時に苦笑した。
六百年ぶりの再会は、
静かに、そして騒がしく幕を閉じた。
いや、まだわしの話は終わっとらんが
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