第67話 歴史とは時に“呪い”を残すものじゃ
ファルネスは深く息を吸い、
まるで胸の奥に沈んだ“長い年月”を掘り起こすように目を閉じた。
「……話す前に言っておく。
これは軽い話ではない。
知れば、お前たちの旅は後戻りできなくなる」
アリアは唇を噛み、しかし迷いなく頷いた。
「それでも……聞かせてください。
妹を助けるためなら、どんなことでも」
ファルネスはその瞳を見つめ、静かに頷いた。
「……ならば、語ろう。
六百年にわたる“教団”の歴史を」
その声は、森の奥底から響くように重かった。
****
「今から六百年ほど前……
とある国で、小さな宗教が生まれた」
ファルネスの語りは淡々としているが、
その一言一言に重みがあった。
「最初は、どこにでもあるような宗教だった。
人々を救い、祈りを捧げ、
ただ静かに信仰を守るだけの……穏やかなものだった」
アリアは静かに耳を傾け、
ドランは珍しく真剣な表情で腕を組んでいる。
「だが……ある時を境に“狂信者”が増え始めた」
「狂信者……?」
「教義を極端に解釈し、
“神のためなら何をしても良い”と考える者たちだ」
ファルネスの声が低くなる。
「その狂信が国を内部から蝕み……
四百年前、その国は滅んだ」
アリアは息を呑んだ。
「滅んだ……?」
「そうだ。
だが、完全に消えたわけではない。
その国は──"宗教国家”として再び生まれ変わった」
ファルネスは皮肉を含んだ笑みを浮かべた。
「表向きの教えはこうだ。
“神のもと、皆平等。
等しく幸福な死を迎えるために生きよ”」
「幸福な……死……?」
アリアは眉をひそめた。
「真っ当かどうかは分からんが、
表向きは“善”を装っている。
だが……裏では別の組織が動いていた」
ファルネスの声が低く沈む。
「それが──"教団”だ」
アリアの肩がわずかに震えた。
「教団は、宗教国家の中に潜む“影”だ。
表の教義とは別の目的で動いている」
「目的……?」
「奴らの本当の目的までは分からん。
だが……ある時期から、奴らは“錬金術”に目をつけた」
ボニフは静かに目を細めた。
(……やはり、そこに繋がるか)
「正しくは、錬金術そのものではない。
“賢者の石”だ」
(賢者の石じゃと!?)
わしは叫びそうになったが、ギリギリのところで堪えた。
今は水を刺すべきではなかろう。
アリアは息を呑んだ。
「賢者の石……?」
「世界の理を捻じ曲げるほどの触媒。
生命、魔力、物質……
その境界を曖昧にする“禁忌”の結晶だ」
ファルネスは続ける。
「教団は賢者の石を作るために、
錬金術を利用しようとした」
「……!」
アリアはボニフを見た。
ボニフは静かに頷いた。
(わしが知る“錬金術の時代”は……
まだ消される前の話じゃったな)
「だが……奴らが恐ろしいのは目的ではない。
“手段”だ」
ファルネスの声が鋭くなる。
「恐らく奴らは、
“他者が賢者の石を作ること”を恐れたのだろう」
「だから……?」
「だから、錬金術を世界から消そうとした」
アリアは息を呑んだ。
「そんな……!」
「外の国々を巻き込み、
錬金術に関する全てを抹消していった。
文献、研究者、技術、歴史……
そして──錬金術師たち自身も」
「恐らく……私の友もな」
(……わしのことか)
ボニフは苦く笑い、視線を逸らした。
(まぁ……そう思うのも無理はないか)
「錬金術を消し終えると、
今度は“賢者の石の研究”を始めた」
ファルネスは続ける。
「そして賢者の石の生成に必要な素材として──
“ハイエルフの血”が必要であることを知った」
アリアの顔が青ざめた。
「ハイエルフの……血……?」
「そうだ。
奴らはハイエルフを捉え、人体実験を行ったと言う」
ファルネスの声には怒りが滲んでいた。
「私は見ていない。
だが……その痕跡は、森のあちこちに残っていた」
アリアは胸元を押さえた。
「そんな……」
「元々ハイエルフは希少な種。
数が少なかったこともあり、
絶滅まで時間はかからなかった」
ファルネスは目を伏せた。
「最後の一人が消えたのは……
私の目の前だった」
その声は震えていた。
アリアは言葉を失い、
ボニフは静かに目を閉じた。
(……ファルネス……)
「だが……奴らは諦めなかった。
実験の失敗が続き、血が枯れたのだろう」
ファルネスは続ける。
「奴らは世界中で“ハイエルフの生き残り”を探し始めた」
「……!」
「その過程で、フィオが“ハイエルフの気配を感じ取れる”ことを知った」
アリアはフィオを抱き寄せた。
「どうして……そんなこと……」
「分からん。
だが……奴らは確実に狙っていた」
ファルネスはアリアを見つめる。
「そして──お前の妹も、恐らく……」
アリアの表情が強張る。
「……!」
「ハイエルフの血を持つ者を探していたのだ。
お前の妹が攫われた理由も……そこにある」
アリアは拳を握りしめた。
「そんな……そんな理由で……!」
ファルネスは静かに頷いた。
「残念ながら、私が知っているのはここまでだ」
一拍。
「だが、お前の妹を探すなら目指すところは一つしかない」
「その宗教国家……ですね……」
アリアは震えるも、新たな決意を目に宿した。
わしは微かな希望の光をそこに見た。
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