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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第63話 昔を懐かしむのは後回しかのぅ

 森を歩き続けてどれほど経ったか。


 太陽の位置はまだ高いが、木々の密度が増すにつれ、光は地面に届きにくくなっていった。


 風の流れが鈍くなり、空気がひやりと肌にまとわりつく。


「……なんか、急に暗くなってきたね」


 フィオが足を止め、上を見上げる。


 怯えているわけではない。


 ただ、森育ちの子としての自然な反応じゃ。


「確かに……空気が変わりましたね」


 アリアも周囲を見回す。


「うむ。ここから先は“境界”じゃな」


 わしは前方の木々を見据えた。


 森の奥に、目には見えぬ“壁”のようなものがある。


 魔力の流れが、そこだけ不自然に歪んでおる。


「境界って……エルフの国の?」


「そうじゃ。ここから先は、許された者しか通れん」


 ドランが槍を肩に担ぎながら眉をひそめる。


「許された者って……俺ら、大丈夫なのか?」


「普通は無理じゃな」


「普通は、って言うなよ……」


 ドランがぼそりと呟く。


 アリアは不安そうに胸元のペンダントを握った。


「……どうすればいいんですか?」


「どうするもこうするも──」


 わしは一歩前に出る。


 空気がわずかに震え、肌に触れる感覚が変わる。


(……間違いない。これは)


 懐かしい。


 六百年程前、“あやつ”に叩き込まれた結界術と似た"気配”。


 いやエルフの結界術が全部こうなのか?


 しかしこれ程までに高度な結界術はわしの記憶の中にあやつしかおらんが……


(そうなるとあやつ……今も健在か)


 わしは思わず息を吐いた。


「ねぇ……」


 フィオがわしの袖を引く。


「ここ……なんか、変な感じする。むこうに“ある”って感じ」


「フィオも感じるか」


「うん。でも、こわくないよ」


 フィオは前へ進み、手を伸ばした。


「おい、フィオ!」


 アリアが慌てて手を伸ばすが、フィオは振り返って笑う。


「大丈夫だよ。なんか……呼ばれてるみたい」


 フィオの小さな手が、空気の“壁”に触れた。


 その瞬間。


 風が止まり、森が息を呑んだように静まり返る。


 結界が、波紋のように揺れた。


「……!」


 アリアが息を呑む。


 ドランも思わず槍を構えた。


 じゃが──拒絶の衝撃は来なかった。


 代わりに、柔らかな光がフィオの手元に集まり、

 結界が“静かに”ほどけていく。


 まるで、フィオを歓迎するかのように。


「……開いた、のか?」


 ドランが呆然と呟く。


「うむ。間違いない」


 わしはゆっくりと頷いた。


「多分だけど、ぼくと手を繋いだらみんなも通れるよ!」


「それは本当なのか?」


 ドランは訝しみながら言う。


「うん、なんか"わかる"んだ」


 フィオははにかんで言った。


「でも」


 少し真顔になって


「多分アリアおかあさんは"普通"に入れると思う」


「……え?」


 アリアは固まった。


 意味が分からず、ただ瞬きを繰り返す。


「んーー。説明出来ないんだけど……」


「ぼく、わかるみたい」


 子供らしくフィオは笑うとドランとわしの手を取って結界の中へ入る。


 空気中のナニかが体、皮膚を掠める感覚が通り抜ける。


「ぬっ!なんだ?今の」


「結界のまさに境界線を抜けた……ということじゃよ」


 ドランが戸惑い、わしが答える。


「アリアおかあさんもはやくーー!」


 フィオがアリアへそう告げる。


 アリアは戸惑いながら、ゆっくり慎重に足を運ぶ。


 そして結界の境界線を──"普通"に越えた。


「本当に、入れた……の?」


 アリアは困惑しながらも、わしらの元へ歩いてきた。


「だから言ったでしょ?

 "わかる"って」


 ね?と言わんばかりにフィオはアリアを見て、アリアの手を取った。


 アリアはまだ困惑しておるようじゃが


(あの結界でアリアが普通に通れる……というとは)


(アリアはもしや……)


 思考の海に潜りそうになるところを止め、


 わしは結界の中、その奥へと視線を移した。


****


 結界の先は、さらに深い森じゃった。


 だが、空気は先ほどまでの重さとは違う。


 暗いのに澄んでいて、よい匂いがする。


「……空気が違うな」


 ドランが深呼吸する。


「うむ。ここから先は完全にエルフの領域じゃ」


 わしは足を踏み入れながら、周囲の魔力の流れを感じ取る。


 懐かしさと同時に、胸の奥が少しだけ痛んだ。


 あやつは今も生きておるのか。


 それとも──


「ボニフさん?」


 アリアが覗き込む。


「どうかしたんですか?」


「いや、なんでもない」


 わしは首を振った。


「行くぞ。日が暮れる前に、外縁部の集落まで辿り着きたい」


「うん!」


 フィオが元気よく返事をする。


 アリアも頷き、ドランが槍を担ぎ直す。


 わしらはエルフの国の“内側”へと足を踏み入れた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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