第60話 報告は速やかにじゃの
馬を宿に預け、わしらはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
扉を開けると、見慣れた光景が広がる。
ざわめき、酒の匂い、依頼書の貼られた掲示板。
「いらっしゃいませ」
淡々とした声。
ミレイじゃ。
「うむ」
軽く頷く。
「ギルドマスターはおるか?」
「少々お待ちください」
それだけ言って、ミレイはマスター室へ向かった。
ほどなくしてミレイが戻ってきた。
「お通ししてもよい、とのことでしたのでどうぞ」
それだけ言うと、すっと奥を示した。
相変わらず無駄がない。
「助かる」
わしはそのままマスター室へ向かう。
****
扉をノックし、開ける。
「失礼するぞ」
書類から顔を上げたゼノスが、穏やかに笑った。
「お久しぶりですね」
その視線が、わしとアリアに向く。
「無事のようで何よりです」
「まぁの」
そして視線が横へ移る。
「あなたもご一緒ですか」
ドランを見て言う。
「まぁな!」
ドランは肩をすくめる。
「女、子供に関しては放っておけんからな」
「ふふ、変わらずですねぇ」
柔らかく笑う。
そのまま視線がフィオへ向いた。
「……おや?」
わずかに、反応。
だがすぐに表情を整え、優しく微笑む。
「その子は?」
「道中で預かった」
わしが答える。
「エルフの子でな。国に送り届けるつもりじゃ」
「エルフの国、ですか……」
ゼノスは顎に手を当て、わずかに思案する。
そして。
「その前に」
一拍。
「王都はどうでした?」
わしは簡潔に話す。
王都での出来事。
貴族。
子供たち。
そして──
「おぬしの言う教会にも行ったがな」
ゼノスを見る。
「特に何もなかった。ただの教会じゃ」
「……そうですか」
「じゃが」
一拍置く。
「おぬしの言う宗教絡み──その尻尾は掴んだ」
ゼノスの目がわずかに細まる。
「どうやら“教団”とやらが動いとるらしい」
「……なるほど」
静かに頷く。
「教団、ですか」
そして視線がアリアへ。
「妹さんへの手がかりは?」
「……それは」
アリアは少し言葉を選び、
「具体的には、まだ」
首を振る。
「でも……遺跡でのことと、このペンダント」
胸元に手を当てる。
「何かしら、教団が関わっているとは思います」
「そうですか……」
ゼノスは静かに受け止めた。
「じゃがな」
わしが口を開く。
「この子が鍵になるかもしれん」
フィオを見る。
「教団への“扉”を開く、そう聞いておる」
「……ほう」
「嘘か真かは分からんが、そう言ってきた人物がおってな」
「なるほど」
ゼノスは頷く。
「それを知るには、この子をエルフの国へ──ですか」
「そんな風に聞こえたの」
「筋は通っていますね」
「まぁ」
肩をすくめる。
「そもそもこの子を送り届けるつもりではあったがな」
アリアとドランも頷く。
「……そうですね」
ゼノスがゆっくりと口を開く。
「エルフは、人族との関わりを極力持ちません」
「ふむ」
「私は少々変わり者でしてね」
軽く笑う。
「国を出てからは、戻っておりません」
そして一拍。
「本来であれば、あまり教えるべきことではないのですが……」
視線がフィオへ向く。
「その子のためなら、仕方ないでしょう」
場所が告げられる。
森の奥。
そして"結界”。
「……五百年前と変わらん場所じゃな」
わしは頷く。
「え?」
アリアが目を瞬く。
「じゃあ……ボニフさんの家の奥に?」
「うむ」
「……ほんとに五百年前……?
いや、でも……ボニフさんなら……いやいやいや……」
やれやれ。
「ただし」
ゼノスが続ける。
「入口には結界があります」
「侵入者を拒絶する、か」
「ええ」
わしの家に張っている奴と同種じゃな。
再び、フィオを見る。
「あなたは長老の血筋……ですね?」
「……うん」
小さく頷く。
「ならば、結界は開けるでしょう」
****
沈黙。
そして。
「決まりじゃな」
「ですね」
「行くか」
三人が頷く。
「アリア」
ゼノスが静かに呼びかける。
「妹さんの手がかりが、見つかるといいですね」
「……はい」
「どうか、お気をつけて」
****
部屋を出る。
ギルドを抜ける。
外の空気。
「さて」
わしは空を見上げた。
「フィオが問題なく喋れるまで回復したら出発じゃな」
「はい!」
アリアが応える。
ドランが槍を担ぐ。
「……おねがい、します」
治った直後に比べて幾分か流暢になったフィオの言葉にわしらは小さく頷いた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。




