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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第二章 エルフの国編

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第57話 寝耳に水が入ったようじゃ

 術式解除を終えた地下工房には、しばし静寂が流れておった。


 フィオはアリアに抱かれたまま、喉を押さえて小さく息をしておる。

 痛みはまだ残っておるじゃろうが


「……あ……り……あ……」


 その声は、確かに“言葉”になっておった。


 アリアは涙を拭いながら、優しく微笑む。


「無理しないでね。喉、まだ痛いでしょ?」


「……う、ん……」


 フィオはこくりと頷き、アリアの胸に顔を埋めた。


(よしよし)


 わしは軽く息を吐く。


「喋れるようになったとはいえ、まだ無理は禁物じゃ。

 魔力の流れが安定するまで、一日は休ませた方がよい」


「そうですね……」


 アリアはフィオの背を撫でながら頷く。


 ドランは腕を組み、深く息を吐いた。


「しかし……よくこんなもん仕込んでやがったな」


 机の上の布に包まれた“発信機”を睨む。


「胸糞悪ぃにもほどがあるぜ」


「まったくじゃ」


 わしは苦笑しつつも、心の底では同意しておった。


 フィオはアリアの袖を掴んだまま、こちらを見上げる。


「……あ……の……」


「ん?」


「……あ……り……が……と……」


 その言葉に、わしは思わず目を細めた。


「礼はよい。おぬしが無事ならそれでよい」


 フィオは照れたように俯き、アリアの腕にぎゅっとしがみついた。


****


 地上階に戻ると、空気が一気に変わった。


「……うわ、埃っぽ……」


 アリアが鼻を押さえる。


 五百年放置された屋敷は、当然ながら埃だらけじゃ。


 ドランはくしゃみをしながら辺りを見回す。


「こりゃ……寝る場所くらい掃除しねぇと無理だな……」


「そうですね……寝室だけでも掃除しましょう!」


 アリアがきっぱりと言う。


「……おてつだい……する……!」


 フィオが小さな手を挙げた。


「よし、じゃあ俺も……」


 ドランが渋々頷く。


 わしはというと──


「では、わしは薬を作るとするかの」


 フィオの喉を休ませるための薬。

 そしてエルフの国へ向かう準備もある。


 掃除は三人に任せ、わしは再度地下へ戻った。


 素材を分解し、抽出し、結合し、錬成する。

 淡い光が薬瓶に満ちていく。


(よし、これで喉の回復も早まるじゃろう)


 ついでに、三人の寝室の布団を錬金術で整える。


(布団くらいは整えてやらんと休めんじゃろうしな)


 埃を分解し、繊維を再構成し、魔力でふわりと膨らませる。


「……ふむ、これでよい」


****


 地上に戻り二階に上がると、それぞれの部屋で掃除が行われておった。


「……ふぅ……」


 アリアが額の汗を拭う。


 その横にはフィオも手伝っておる。


 ドランは腰に手を当てて蹲っておるが……


「アリア」


 わしが声をかけると、アリアが振り返った。


「ボニフさんどうしたんですか?」


「寝る時はこれを使うとよいぞ」


 わしが布団を渡す。


 フィオが布団に触れ、目を丸くする。


「ふわふわ……!」


「なんだこれ……高級宿でも見たことねぇ……」


 ドランも驚いておる。


 フィオは布団に頬をすり寄せ、幸せそうに笑った。


(まぁ、寝具は大事じゃからな)


 わしは淡々と作業を続ける。



「さて」


 掃除が終わり、わしは立ち上がる。


「問題がひとつある」


「問題?」


 アリアが首を傾げる。


「食材がない」


「あっ……」


 アリアが固まる。


「馬の餌もないぞ」


 ドランが厩舎を覗きながら言う。


「うむ」


 わしは頷く。


「となれば――」


「ラグナールに戻るしかないですね」


 アリアが言った。


「補給して、馬を預けて……」


「ギルドマスターにも会うんだろ?」


 ドランが腕を組む。


「エルフの国のこと、聞いといた方がいいだろ」


「うむ。あやつなら何か知っておるじゃろう」


 わしは頷いた。


「では、明日出るとするかの」


「今日の飯は!?」


 ドランが叫ぶ。


「今日はもう遅い……買い出しは明日じゃ」


 わしも深いため息をつく。


「今日も野営用の干し肉じゃな……」


「仕方ないですね……」


「そんな!」


 ドランはがっくりと項垂れた。


 フィオはアリアの袖をひっぱる。


「……あ……の……」


「ん?」


「……ら……ぐ……な……る……?」


「ラグナールの街のことよ。前にいた場所」


「……い……き……た……い……」


 フィオが小さく言う。


 アリアは優しく笑った。


「じゃあ、一緒に行こうね」


「……う、ん……!」


 フィオは嬉しそうに笑った。


 その笑顔は、喋れなかった頃とはまるで違う。


(やれやれ)


 わしは肩をすくめる。


「では今日は休むぞ。明日は早い」


「はい!」


 アリアとフィオが声を揃える。


 ドランは腰を押さえながらため息をついた。


「まともな飯が食えねぇなら……寝る……」


 そんなやり取りをしながら、

 わしらは久しぶりの“安全な夜”を迎えた。


****


 翌朝。


 屋敷を出る前、わしは結界の外を確認した。


「……ふむ」


 地面に、黒衣の男が三人ほど倒れておった。


「なんだこれ……」


 ドランが眉をひそめる。


「結界に触れたんじゃろう」


 わしは淡々と言う。


「エルフ式の結界は、侵入者を拒む。

 無理に突破しようとすれば──こうなる」


「……怖……」


 アリアが小さく呟く。


「安心せい。わしらには害はない」


 わしは男たちを軽く確認し、

 魔力の糸を断ち切って意識を奪った。


「さて、行くぞ」


 手綱を握り、馬車に乗り込む。


 アリアとフィオが後ろに座り、

 ドランが槍を抱えて乗り込む。


 馬車が動き出し、森を抜けたその時。


「……あ……の……」


 フィオがアリアの袖を引いた。


「どうしたの?」


「……お……か……あ……さ……ん……」


「…………え?」


 アリアが固まる。


 ドランもわしも、同時に振り返った。


「おいアリア……いつの間に子どもなんて……?」


「ち、ちがっ……!ちがいます!!」


 アリアの顔が一瞬で真っ赤になる。


 わしは真顔で言った。


「おぬし、結婚しておったのか?」


「してません!!!!

 してませんから!!!!

 なんでそうなるんですか!!」


「いや、子がおるなら普通は結婚しておるじゃろう?」


「違います!! 違いますから!!」


 フィオは満面の笑みで追撃する。


「……おかあさん……!」


「違うの!! 違うから!!」


 ドランがぼそりと呟く。


「いやでも本人が言ってるし……」


「違うって言ってるでしょおおおお!!」


 アリアの悲鳴が馬車に響き、

 フィオは嬉しそうに笑った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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