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第56話 忘れておらんよな?わしは錬金術師じゃよ

 フィオはアリアの手を握ったまま、じっと中央の錬金釜を見つめていた。


 不安と期待が入り混じった目じゃ。


(さて……)


 わしは釜の前に立つ。


「まずは薬を作るぞぃ」


「薬……?」


 アリアが首を傾げる。


「うむ。フィオの喉に絡んだ“魔力の糸”を緩め、

 さらに“隠されたもの”を取り出すための薬じゃ」


「隠された……?」


 アリアが眉をひそめる。


 わしは答えず、棚から素材を取り出した。


 霊銀の欠片。

 青樹の樹液。

 魔力水。


 どれも今では手に入らん素材じゃ。


「そんなの……どうやって……」


「昔の残りじゃよ」


 わしは釜に素材を入れ、魔力を流し込む。


 釜の底が淡く光り、液体がゆっくりと回転を始めた。


 ──分解


 素材が細かく砕け、光の粒となる。


 ──抽出


 必要な成分だけが浮かび上がり、釜の中央へ集まる。


 ──結合


 光の粒が絡み合い、ひとつの形を成す。


 アリアとドランは息を呑んだ。


 フィオは目を見開き、釜の光に見入っておる。


 ──錬成


 わしが指を鳴らす。


 釜の光が一瞬強くなり──すっと収まった。


 残ったのは、小瓶に満たされた青い液体。


「……できたぞぃ」


 わしは瓶を持ち上げる。


「これが“蒼晶の滴”じゃ」


「綺麗……」


 アリアが思わず呟く。


「飲めるのか?」


 ドランが眉をひそめる。


「飲める。少し苦いがの」


 わしはフィオの前にしゃがみ込む。


「フィオ」


 フィオがこちらを見る。


「これを飲めば、喉の術を解ける。

 ……少し痛むが、我慢せい」


 フィオは不安そうにアリアを見る。


 アリアは優しく微笑んだ。


「大丈夫。ボニフさんを信じて」


 フィオは小さく頷き、瓶を受け取った。


 そして、ごくり。


 青い液体が喉を通る。


 その瞬間、フィオの喉が淡く光った。


「……っ」


 フィオが小さく息を呑む。


「大丈夫か?」


 アリアが抱き寄せる。


 フィオはこくりと頷いた。


(よし)


 わしはフィオの喉に手を当てる。


「では──始めるぞぃ」



 魔力を流す。


 フィオの喉に絡む“魔力の糸”が浮かび上がる。


 青い光が糸を柔らかくし、構造が見えやすくなっておる。


 ──分解


 糸の構造が細かくほどけていく。


 その奥に


(……ほぅ)


 わしは目を細めた。


「どうしたんですか?」


 アリアが不安げに聞く。


「いや……」


 わしは苦笑した。


「わしとしたことが、見落としておったわ」


「見落とし……?」


「糸の中に、異物がある」


「異物……?」


 アリアとドランが同時に声を上げる。


 フィオは不安そうにアリアの手を握りしめた。


 ──抽出


 わしは魔力を集中させる。


「少し痛むぞ」


 フィオの肩がびくりと震える。


 アリアが抱き寄せる。


「大丈夫、大丈夫……!」


 フィオはぎゅっとアリアの服を掴んだ。


 わしは慎重に魔力を流し


「……っ!」


 フィオが小さく呻く。


「もう少しじゃ……耐えよ」


 わしはさらに魔力を込める。


 糸の奥から、何かが浮かび上がる。


 小さな光。


 それが、ゆっくりと喉から引き抜かれていく。


「……出るぞ」


 最後の一押し。


 指先に、固い感触。


 わしはそれをつまみ上げた。



「……な、なんだそれ……」


 ドランが息を呑む。


 わしの指先には小さな結晶片。


 針のように細く、淡く光っておる。


「これが……フィオに仕込まれておった」


「こんなものが……体の中に……!?」


 アリアが青ざめる。


「紛い物の錬金術で作られた“発信機”じゃな。

 フィオの魔力を核にして、位置を教団に送っとった」


「……っ!」


 アリアがフィオを抱きしめる。


 フィオは震えながらも、アリアにしがみついた。


「胸糞悪ぃ連中だな……!」


 ドランが拳を握りしめる。


「まったくじゃ」


 わしは結晶片を布に包み、机に置いた。


「さて」


 わしはフィオの喉に再び手を当てる。


「最後に“再構成”じゃ」


 魔力を流す。


 フィオの喉が淡く光り、魔力の流れが整っていく。


 声帯の魔力回路が、元の形に戻っていく。


「……っ」


 フィオが小さく息を呑む。


 そして──


「……あ……」


 かすれた、小さな声。


 アリアが目を見開く。


「フィオ……!」


「……あ……り……あ……」


 フィオが震える声で、アリアの名を呼んだ。


 アリアは涙をこぼし、フィオを抱きしめた。


「よかった……本当によかった……!」


 フィオはアリアの胸に顔を埋め、

 小さく、何度も頷いた。


 わしは静かに息を吐いた。


「これでひとまず安心じゃな」


 ドランが大きく息を吐く。


「やっと……やっと喋れたな……!」


 フィオはアリアに抱かれたまま、

 わしを見上げた。


「……あ……り……が……と……」


 その言葉に、わしは笑った。


「礼はよい。まだやることは山ほどあるでな」


 地下工房の光が、静かに揺れた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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