表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/65

第54話 急がば回れ。じゃが急ぐのじゃ

 街道を外れ、森と草原の境を縫うように馬車は進んでおる。


 揺れは少し荒いが仕方あるまい。


「ボニフ!揺れる!

 それになんで街道を行かねぇ」


 ドランが馬車の揺れを気にしてアリアにひっついているフィオを見て少し大きく声を出した。


 わしは手綱を握ったまま、軽く息を吐く。


「お主ら、気づいておらんようじゃが」


 一拍。


「フィオは“見られておる”」


「……は?」


 ドランの間の抜けた声。


 アリアも息を呑む気配が伝わってくる。


「見られてるって……誰にですか?」


「決まっておろう。教団じゃ」


 空気が、ぴたりと止まった。


「待て。それってつまり……」


「うむ。位置を割られておる可能性が高い」


「……っ!」


 アリアがフィオを抱き寄せる気配。


 フィオも小さく身を縮めた。


「じゃ、じゃあ今も……?」


「追ってきとるじゃろうな」


 あっさりと言うと、ドランが舌打ちした。


「クソが……!」


「じゃが慌てるな」


 わしは軽く肩をすくめる。


「仕組みは分かっとる。対処もできる」


「本当ですか!?」


 アリアの声に、わしは頷いた。


「ただし、“ここでは無理”じゃ」


 一拍置いて、言葉を続ける。


「じゃから進路を変える」


「……ラグナールは?」


 ドランが聞く。


「後回しじゃ」


 即答。


「街に入れば被害が出る。村も同じじゃ」


「……なるほどな」


 ドランが低く頷く。


「じゃあ、どうすんだ?」


「わしの家へ直行する」


 アリアが息を呑む。


「あの森の奥にあるっていう……?」


「うむ。あそこなら遮断できる」


「遮断……?」


「結界があるでな」


 わしは軽く言った。


「中に入れば、“外からは何も見えん”」


 アリアの表情が、わずかに明るくなる。


「……じゃあ、そこまで行けば」


「一息つける、というわけじゃ」


 ドランが腕を組む。


「距離は?」


「通常なら三日半──いや四日じゃな」


「はぁ!?長ぇよ!」


「じゃが今回は急ぐ」


 わしは手綱を軽く鳴らす。


 馬が速度を上げた。


「多少荒れるが最短を抜ける」


「強行軍か……」


「耐えよ」


 短く告げる。


「二日半で着く」


「無茶言うな!」


「やるのじゃ」


 ドランがため息をつき、


 アリアは苦笑する。


「……分かりました」


 フィオはというと不安そうな顔でアリアの袖を掴んでおる。


「大丈夫よ」


 アリアが優しく撫でた。


「すぐ安全な場所に行くから」


 フィオは小さく頷いた。


 その表情は、まだ硬いままじゃが──


 少しだけ、安心したようにも見える。


****


 それからは、ひたすら進んだ。


 街道は使わん。


 人の気配も避ける。


 草原を抜け、森の縁を走り、時に獣道すら使う。


「おい、こっちで合ってんのか?」


「合っとる」


「道ねぇぞ!?」


「道など作ればよい」


「いやそういう問題じゃ」


 ドランの文句を聞き流しながら、進む。


 途中、何度か進路を変えた。


 わしだけが感じ取れる、微かな“歪み”。


 魔力の揺らぎ。


(……来とるな)


 じゃが、まだ距離はある。


 追いつかせはせん。


****


 一日目の夜。


 簡素な野営。


 火は小さく、煙も抑える。


「……静かですね」


 アリアがぽつりと呟く。


「静かすぎる」


 ドランが周囲を見回す。


「そういう場所を選んどるからの」


 わしは淡々と返す。


 フィオはアリアの隣に座り、じっと火を見つめておる。


 やがて、そっとアリアに寄り添った。


「怖い?」


 アリアが小さく聞く。


 フィオは少しだけ迷い、こくりと頷いた。


「大丈夫よ」


 アリアは優しく抱き寄せる。


「ボニフさんも、ドランさんもいるから」


「おう。任せとけ」


 ドランが胸を叩いた。


「何が来てもぶっ飛ばしてやる」


「ぶっ飛ばす前に気づけ」


「任せろ!」


「不安しかないのぅ……」


 わしは肩をすくめた。


 そのやり取りが可笑しかったのか、


 フィオが小さく笑った。


 ほんの一瞬じゃが確かに、笑った。


****


 二日目。


 体力そのものは残っておる。


 じゃが──気が休まらん。


 常に背後を気にし、進路を変え、気配を探る。


 その繰り返しじゃ。


「……なんか、落ち着かねぇな」


 ドランがぼやく。


 いつもなら大の字で寝ておる男が、

 今日は妙に周囲を気にしておる。


「それが普通じゃ」


 わしは前を見たまま言う。


「追われておる状況で気が抜ける方がおかしい」


「違ぇねぇが……」


 ドランは頭をかきながら、後ろをちらりと見た。


 アリアもまた、落ち着かぬ様子でフィオの肩に手を置いておる。


「ちゃんと眠れた?」


 小さく問いかける。


 フィオは少しだけ考え、首を横に振った。


「……そっか」


 アリアは苦笑し、そっと頭を撫でる。


「もう少しだから、ね」


 フィオはこくりと頷き、


 そのままアリアに体を預けるようにして目を閉じた。


 眠っておるが──浅い。


 いつでも目を覚ましそうな、そんな眠りじゃ。


(まぁ無理もない)


 わしは小さく息を吐く。


 この状況で熟睡できる方が異常じゃ。


「ボニフさんは平気なんですか……?」


 アリアがこちらを見て言う。


「慣れじゃ」


 即答。


「こういう状況は、何度も経験しておる」


「……五百年前ですか?」


「うむ」


「またそれですか……」


 アリアが呆れたように笑う。


 わずかに空気が緩む。


 ──が。


 わしは手綱を引いた。


「……止まれ」


「どうした?」


 ドランが身構える。


「後ろじゃ」


 振り返らずに言う。


「距離はあるが……追いつかれかけとる」


「チッ……!」


 ドランが舌打ちする。


「戦うか?」


「不要じゃ」


 わしは首を振る。


「もうすぐじゃからの」


 前方を指す。


「……見えたぞぃ」

ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ