表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/70

第53話 もう来おったか

 王都を発って、しばらく。


 石畳だった道はやがて土の街道へと変わり、

 行き交う人の数も、目に見えて減ってきておった。


 背後に残る喧騒が、ゆっくりと遠のいていく。


「……静かになりましたね」


 アリアがぽつりと呟く。


「まぁ王都出たばっかだしな。こんなもんだろ」


 ドランは気にした様子もなく腕を組んだ。


 馬車は順調。


 天気もよい。


 何も問題は──


(……いや)


 わしは目を細める。


 手綱を握ったまま、意識を周囲へ広げる。


 風の流れ。


 地面の振動。


(魔力の淀み)


 わずかじゃが、不自然。


 隠しておるつもりじゃろうが。


(下手じゃの)


 わしは手綱を軽く引いた。


 馬車の速度が落ちる。


「どうした?」


 ドランが顔を上げる。


「少し様子を見る」


 そのまま、馬車を止めた。


「来るぞ」


 一拍。


 ドランの口元が歪む。


「……やっぱりか」


 アリアの表情も引き締まる。


「フィオ、こっちに」


 フィオは無言で頷き、

 アリアの袖を掴んだ。


 その指先が、わずかに震えておる。


「大丈夫じゃ」


 わしは御者台から降りる。


「すぐ終わる」


 地面に足をつけた瞬間──

 街道脇の草の陰から、影が飛び出した。


 黒衣。


 前方に三。


 後方に二。


 挟撃の形じゃな。


「囲む気かよ」


 ドランが笑う。


「分かりやすいのぅ」


 わしは肩をすくめる。


 黒衣の一人が前に出る。


「対象確認。

 エルフの子供──確保」


 感情のない声。


「他は──排除」


「ほぅ」


 わしは顎をさする。


「隠す気はないのじゃな」


「必要ない」


 踏み込んでくる。


「遅い」


 半歩ずらす。


 刃を躱し、そのまま肩に触れる。


「っ?」


 違和感。


 だが止まらぬ。


 振り抜く。


 空振り。


 背後へ回る。


「一人」


 軽く蹴る。


 体勢を崩したところへ──


「うらぁ!!」


 ドランの拳が叩き込まれる。


 鈍い音。


 男が沈む。


「よし!」


「油断するな」


 左右から来る。


 連携は悪くない。


「じゃが、弱い」


 斬撃をいなし、

 わざと距離を取る。


 一歩、二歩。


 追わせる。


「逃げるな!」


「逃げてはおらんよ」


 くすりと笑う。


「準備じゃ」


「は?」


 ドランが横から割り込む。


「こっちは任せろ!」


 一人を引き受ける。


 残り三。


 わしはさらに後退。


 街道の土を踏ませる。


 轍、石、わずかな段差。


(よし)


 足を止める。


「……なんだ?」


 わしは息を吐く。


「確認じゃが」


 一拍。


「おぬしら、“教団”で間違いないな?」


 沈黙。


 それだけで十分じゃ。


「……答えんな」


 制止の声。


 遅い。


「やはりそうか」


「──殺せ」


 踏み込んでくる。


 わしは指をわずかに動かす。


「っ……!?」


 動きが鈍る。


 一瞬。


 それで足りる。


 一閃。


 倒れる。


「二人目」


 ドランも一人を叩き伏せる。


 残り二。


 距離を取る。


「……おかしい」


 一人が呟く。


「位置は合っているはずだ」


「ほぅ?」


 わしは目を細める。


(位置、か)


 ちらりと馬車を見る。


 アリアにしがみつくフィオ。


(やはり、そういうことか)


「撤退──」


「させんよ」


 一歩で詰める。


 短剣が閃く。


 決着は一瞬じゃった。


****


 静寂が戻る。


 風が土を撫でる。


「終わりだな」


 ドランが肩を回す。


「軽いの」


 わしは血を払う。


 馬車へ戻る。


「大丈夫かの?」


「はい……!」


 アリアが安堵の息を吐く。


 フィオはじっとこちらを見ておる。


 不安と、戸惑い。


 そしてどこか、納得したような目。


 わしはその頭に手を置く。


(……やはり)


 喉だけではない。


 奥に、微かな繋がり。


(面白いことを仕込んでおる)


 手を離す。


「ボニフさん?」


「うむ」


 わしは短く頷いた。


「少々厄介じゃが──問題ない」


 そう言って御者台へ戻る。


 手綱を握る。


 馬車はゆっくりと動き出す。


 わしの視線は、前ではない。


 わずかに後ろ。


 そしてフィオへ。


(喋れぬようにし)


(居場所まで晒す、か)


 口元がわずかに歪む。


「……趣味が悪いのぅ」


 誰にも聞こえぬように呟く。


 馬車は進む。


 何事もなかったかのように。


(これは“追われている”のではない)


 一拍。


(“見られておる"な)


 わしは静かに目を細めた。


「面白い」


 その声だけが、風に紛れて消えた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ