幕間5 家族の暖かさ
王都の喧騒がようやく落ち着きはじめた頃、
シルエット商会の奥では、
ひとつの小さな笑い声が響いていた。
両親の間に挟まれ、
まるで宝物を抱えるように大事に抱きしめられながら、
ミナは今日も元気に喋っていた。
「それでね! ドランがね! おっきいオオカミを、こうやって――!」
ミナは両手をぶんぶん振り回し、
旅の出来事をまるで冒険譚のように語る。
母は口元を押さえ、
父は苦笑しながらも娘の話に耳を傾けていた。
「ミナ……そんな危ないことを……!」
「でもね! ボニフが、ばーん! ってしてね!
アリアが、すごかったの!」
「……まぁ……素敵なこと……」
母は胸を押さえながらも、
娘が無事に帰ってきたことへの安堵が勝っているようだった。
父は深く息をつき、
ミナの頭をそっと撫でる。
「ミナ……本当に、よく帰ってきてくれた……」
「うん! ミナ、がんばったよ!」
ミナは胸を張る。
その姿は、少しだけ強く、
少しだけ逞しく見えた。
****
夕食の時間になると、
シルエット商会の食卓には温かい料理が並んだ。
ミナは両親の間で、
幸せそうにスープをすする。
「おいしい……!」
「ミナの好きな味にしたのよ」
「おかあさんのごはん、さいこう!」
母は目を細め、
父は静かに頷いた。
「……ミナが、こうして笑ってくれるだけで……
どれほど救われるか……」
その声は震えていた。
****
食後、ミナは眠気に負け、
父の膝の上でこてんと眠り込んだ。
小さな寝息が、
部屋に穏やかなリズムを刻む。
母はそっと毛布をかけ、
その頬に触れた。
「……帰ってきてくれて、本当に……よかった……」
その目には涙が浮かんでいた。
父もまた、
眠るミナの髪を撫でながら小さく呟く。
「ボニフさんたちには……
どれほど感謝してもしきれないな……」
「ええ……あの方々がいなければ……
ミナは……」
言葉にならず、
母はそっと夫の肩に寄りかかった。
父はその手を握り返し、
静かに目を閉じる。
「……ありがとう……
ミナを……守ってくれて……」
その声は、
誰に向けたものでもなく、
ただ心の底からの祈りのようであった。
****
ミナの“帰るべき場所”には、
再び温かな灯りがともった。
王都の夜風が静かに吹き抜ける中、
シルエット商会の窓からは、
小さな寝息と、
家族の安らぎがこぼれていた。
──それは、
確かに守られた“ひとつの幸せ”であった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次から第二章となります。
エルフの国、そして教団。
物語はここからさらに核心へと踏み込んでいきます。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
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