第50話 どうやら、まだ入り口に過ぎんようじゃな
教会の階段下で待っていたルークは、
柔らかな笑みを浮かべておったが──
その目は相変わらず底が見えん。
「皆さんのおかげで、アルバートをあと少しまで追い詰められたんだけど……」
ルークは肩をすくめた。
「国外逃亡されちゃったね〜?」
皮肉たっぷりの声音じゃ。
「……っ!」
アリアが眉をひそめ、
ドランは今にも噛みつきそうな顔をした。
「これではボクが復讐できません。
これは困ったな〜」
ルークはわざとらしくため息をつく。
「取引失敗ということで──
あの子を“排除対象”に入れましょうかね?」
「貴様ァ!!」
ドランが吠え、
アリアは短剣に手をかけた。
わしは二人の前に手を出し、
ルークを観察する。
(さて……どこまで本気かの)
ルークは、くすりと笑った。
「おっと、冗談ですよ。冗談。
そんなことをするメリットがボクにはないしね」
「……信用できるか!」
ドランが唸る。
「笑えぬ。つまらん冗談は言わぬほうがよいぞ?」
わしが言うと、ルークは肩を揺らした。
「こんな冗談を真に受けていきり立つと、息が詰まるよ?」
「貴様ならやりかねんから言ってるんだ!!」
ドランが吠える。
ルークは肩をすくめたまま、軽く笑う。
「まぁいいです。今回は別件ですよ、別件」
その言葉と同時にルークの背後から、ひとりの影が現れた。
小柄な体。
(子供の……エルフじゃな……)
年の頃はミナと同じくらい……
いや、エルフ換算なら12歳くらいかの。
「……また子供の誘拐を?」
アリアが訝しげに言い、
ドランは鼻息を荒くする。
「落ち着いて、落ち着いて〜」
ルークは両手をひらひらさせて言った。
「また、そういう誤解をされると困るよ」
そう言って、後ろにいる子供へと視線を向ける。
「この子はフィオと言います」
ルークは子供の肩に手を置いた。
「アルバートの件で誘拐されていた子なんだけどね。
見ての通り、エルフの子供だよ。
行き先がないので、ボクが保護したんだよね」
「お前が……子供を保護?」
ドランが疑わしげに睨む。
アリアもまた、訝しげに問いかける。
「何が目的ですか?」
ルークは、ため息をひとつ。
「ボクは前も言った通り、復讐ですよ?復讐」
淡々とした声。
「女々しいなんて言わないでよ? ボクの矜持みたいなものだから、ね?」
(矜持……のぅ……)
わしは顎をさすった。
(それも本当かどうか疑わしいが……)
(判断材料がないのぅ)
ルークは続ける。
「この子を、皆さんに預かってもらいたいんだよね」
「……は?」
アリアが間の抜けた声を漏らす。
ドランも腕を組み、唸る。
「ほら? ボクの場合は職業柄、あまり連れ回すとよくないし?」
そして、少しだけ笑みを浮かべる。
「それに、皆さんなら──子供の扱いも慣れたものでしょう?」
ドランが一歩前に出る。
「子供を預かるのは、もちろんいいが……」
「その子を預かることが、おぬしの目的に繋がる……と?」
わしが言うと、ルークは指を一本立てた。
「この子を、エルフの国に送り届けて欲しいんだよね」
その言葉に、空気が再び変わる。
「……エルフの国?」
「そうすれば──」
ルークは、静かに告げた。
「ある宗教──"教団"に、結び付くから」
「「「──っ!!」」」
わしら三人同時に息を呑んだ。
「おぬし……どこまで、何を知っておる?」
わしが問いかける。
ルークは、薄く笑った。
「ご想像にお任せしますよ」
軽く手を上げる。
「ではフィオ、あの人たちに着いていけば、故郷に帰れるからね?」
だが、フィオと呼ばれた子供は何も言わぬ。
ただ静かに、こちらへ歩み寄る。
アリアが、その小さな手をそっと握った。
「……大丈夫よ」
「では、ボクはこれで」
ルークは軽く手を振る。
「またどこかで会いましょう」
「待て!」
ドランが踏み出した、その瞬間──
そこにあったはずのルークの姿は、すでに消えておった。
「……消えた、か」
わしは静かに呟く。
風だけが、教会前の石畳を撫でておった。
(ふむ……)
(わしらの旅は、まだまだ長い道のりの入り口にしか過ぎん)
わしらは新たな旅路へと歩き出した。
影は深く、道は遠い。
じゃが──それが旅というものじゃ。
ここで第一章は終わりになります。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
アルバートの件は一区切りとなりましたが、
物語はここからさらに大きく動いていきます。
次回は幕間を挟み、第二章へ。
エルフの国、そして教団の核心へと踏み込んでいきます。
更新スピードも変わらず続けていきますので、
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
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