第49話 「後の祭り」が比喩ではないんじゃよ
公爵邸を後にしたわしらは、
ひとまずギルドへ向かっておった。
「そういえば、猫探しの報酬……どうなるんだ?」
ドランが呑気に言う。
「公爵殿が“達成扱い”と言っておったからの。
受け取らぬ理由はあるまい」
「……なんか、複雑ですね」
アリアが苦笑する。
わしは肩をすくめた。
****
ギルドに入り、受付に並ぶ。
わしらの番になる、受付嬢がわしらの顔を見てぱっと顔を明るくした。
「ボニフさんたち!
公爵様の指名依頼、達成おめでとうございます!」
「うむ、来たぞい」
「では、こちらが報酬になります!」
受付嬢が差し出した袋はずしり、と重かった。
ドランが目を丸くする。
「お、おい……これ、重すぎねぇか?」
アリアは袋を持ち上げて震えた。
「えっ……えっ……金貨、何枚入ってるんですか……?」
受付嬢は苦笑しながら答える。
「さすが公爵様です。
金貨数十枚……とだけ言っておきますね」
「す、数十……!?」
アリアが固まった。
「よっしゃ!!」
ドランは両手を突き上げて喜ぶ。
わしは袋を軽く揺らしながら言った。
「レオポルト殿は、やはり食えん男じゃのぅ」
(最初からこうなることを見越しておらんとこんな報酬は用意せんじゃろう)
わしは顎をさすった。
「ほんとに……すごいですね……」
アリアはまだ呆然としておる。
「まぁ、せっかくじゃ。
臨時収入も入ったし王都観光でもしていくかの」
「賛成だ!」
ドランが即答した。
****
ギルドを出ると、
王都はすっかり祭りの空気に包まれていた。
屋台が並び、
子供たちが走り回り、
楽団が軽快な音を奏でておる。
「そういえば……大きいお祭りがあるって言ってましたね」
アリアが目を輝かせる。
「うむ。賑やかなもんじゃのぅ。
ちと、賑やかすぎる気もするが」
「うおっ、肉の匂いがするぞ!」
ドランが屋台へ突撃していく。
「まったく……」
アリアが呆れながらも笑っておる。
わしはその様子を眺めながら、
ふとミナの顔を思い出した。
(あやつも、もう両親のもとじゃな)
「ミナのところへ寄っていくかの」
「行きましょう!」
****
シルエット商会を訪ねると、
ミナがぱっと笑顔になった。
「ドラン! ボニフ! アリア!」
シルヴァンと奥方も顔を出し、
温かく迎えてくれる。
「ミナも、もうすっかり元気ですよ」
「お祭り、ミナも一緒にどうかと思っての」
「おまつり! おかあさん、おとうさん!」
ミナが両親の方を見る。
「えぇ、行って来なさい」
「一緒には来られませんか?」
ミナの母親が促したところを見て、アリアが目を丸くさせて尋ねる。
「私たちはお店を離れられませんし……
それにあなた方ならミナをお任せ出来ますから」
そう告げた。
「おまつり、おまつりー!」
ミナがドランの周りを走り回る。
「責任を持って預からせてもらうかの」
「「よろしくお願いします」」
ミナの両親が深々と頭を下げた。
****
四人で祭りを回る。
ドランは食い倒れ、
アリアは射的で無駄に才能を発揮し、
ミナは楽しそうに笑い、
わしはそれを眺めておった。
ドランは少し寂しげじゃったが、
ミナが笑うたびに、
その表情はゆっくりと和らいでいった。
****
「……ボニフさん……教会へ行きたいです」
翌朝、アリアがそう言った。
「うむ。
元々の目的じゃからな」
「よく分からねぇが、俺もついていくぞ」
ドランもそう言い、三人で王都の教会へと辿り着いた。
王都の大教会は荘厳で、
朝の光がステンドグラスを照らしていた。
中へ入ると、
助祭らしき青年が声をかけてきた。
「お祈りですか?」
「い、いえ……少し見学を」
「どうぞ、ご自由に」
教会は静かで、
怪しげな気配など一切ない。
アリアは肩透かしを食らったように呟く。
「……普通、ですね」
「まぁ、表向きはどこもこんなもんじゃろう」
わしは軽く笑った。
(特に怪しい気配も何もないのぅ)
「さて、出るかの」
三人で教会を出ようとした、その時──
階段の下に、
見覚えのある青年が立っていた。
柔らかな笑みを浮かべ、
こちらを見上げている。
「皆さん、お久しぶりですね」
「……ルーク!?」
アリアが目を見開く。
ドランは身構え、
わしは目を細めた。
(さて……)
(後の祭りではなく祭りの後に、イベントとはの……)
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