第48話 猫はおらんかったがの
公爵邸に呼び出されたわしらは、応接室へ通された。
扉が開き、公爵が書類から顔を上げる。
「来たか」
相変わらず無駄のない声音じゃ。
「さて報告だ」
公爵は淡々と告げた。
「アルバートは、逃げた」
「なんだと!」
ドランが吠える。
「国外逃亡の可能性が高い。
屋敷の状況、使用人の消失、荷物の持ち出し……
どれも“計画的”だ」
「それに……」
公爵は言うか言わまいか悩んでおる様子じゃ
「それに……なんじゃ?」
「君達には関係ないかもしれんが、
子供達の誘拐やアルバートの国外逃亡には……」
公爵は深いため息をし、
「ある宗教絡み、そっちの"教団"が関わっている可能性が高い」
「「!!!!」」
わしとアリアはそれを聞いて同時に反応した。
「……? 何か?」
公爵はわしらの反応を見て訝しげに聞いた。
「いや、なんでもない。
幾分きな臭い話じゃな、と思ったまでじゃ」
わしは顎をさすった。
(宗教絡み……とゼノスが言っておったが)
(ここにも繋がりが出て来おるとはの)
アリアを見ると目が合った。
恐らく同じことを考えておったのじゃろう。
「バルトロメオ伯爵はどうなるんですか?」
アリアが問う。
「保護下に置いた。
罪は償わせるが、命は取らん」
公爵は書類を閉じた。
「彼の証言は、国にとって有用だ。
それに末端を切り捨てるのは、貴族の常套手段だが」
わずかに目を細める。
「今回は“切られる側”が先に動いたというだけだ」
「皮肉な話じゃのう」
わしは苦笑した。
「しかし誘拐なんてことをして逃げるとは!
絶対許さねぇ!」
ドランがパシッと拳をぶつけた。
「子供たちは?」
アリアがそう問うと、公爵は頷いた。
「アルバートの屋敷から見つかった書類に、
誘拐された子供のリストがあった。
その多くは国外へ送られていたようだが──」
そこで言葉を区切る。
「まだ王都に残っていた子供もいる。
すでに保護班を動かしている」
「そうですか……」
アリアが胸を撫で下ろしつつも複雑な表情じゃ。
「ひとまず、子供誘拐事件は“解決”と見てよいだろう」
公爵は静かに続ける。
「もちろん、アルバート本人は逃げた。
だが、活動の根は断った。
これ以上、王都で同じ手口は通らん」
「ふむ……」
わしは小さく息を吐いた。
(長かったのぅ)
****
一拍置いて、公爵はわしらへ視線を向けた。
「……此度の協力、感謝する」
珍しく、ほんのわずかに柔らかい声音じゃった。
「お前たちがいなければ、
ここまで早く辿り着けなかった」
「ほう、褒められたのぅ」
わしは笑った。
「まぁ、いいように使われた気もするがの」
「事実だ」
公爵は即答した。
「だが、結果は出した。
それで十分だろう」
「うむ。
そういうところは嫌いではないぞい」
ドランが吹き出す。
「お前ら、似た者同士だな……」
「えっ、似てますか?」
アリアが首を傾げる。
「わし、こんな堅っ苦しいかのぅ?」
「……私はこんな年老いた口調ではないつもりだが?」
公爵が淡々と返した。
それが可笑しかったのか、アリアもドランに続いて少し吹き出した。
****
「そういえば」
公爵が机の引き出しを開ける。
「“猫探し”の依頼だが」
「ああ、そんなのありましたね……」
アリアが苦笑する。
「依頼達成ということで、
後でギルドへ行って報酬を受け取るといい」
「猫は見つかっておらんがの?」
「猫を探した結果、
“ネズミ”が捕まったのだろう」
公爵は淡々と言った。
「十分だ」
「……なるほどのぅ」
わしは笑った。
「では、報酬だけはしっかり貰いに行くとするか」
「おう!」
「ふふ……なんだかんだで、終わりましたね」
アリアがほっと息をつく。
「うむ。
ひとまずは、じゃが」
わしは空を見上げるように目を細めた。
(アルバートは逃げた)
(宗教絡みという影も少し見えた)
(まだ終わりではない)
じゃが──
「今は、一区切りじゃな」
そう呟いた。
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