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第47.5話 王と法務大臣 ※レオポルト視点

 翌日。

 私は朝一番で王城へ向かった。


 昨夜のうちにバルトロメオの供述はすべて書面にまとめ、

 押収した証拠も整理してある。


(……ここから先は、王国の秩序に関わる)


 王の執務室前に立つと、侍従がすぐに取り次いだ。


「陛下、法務大臣レオポルト様がお見えです」


「通せ」


 重厚な声が返ってくる。


****


 執務室に入ると、

 レオンハルト・フォン・グランゼール陛下は

 すでに机に向かっていた。


 六十二歳の王は、

 年齢を感じさせぬ鋭い眼光を保っている。


「……レオポルト。

 朝からとは珍しいな」


「重大な報告がございます」


「申せ」


 私は書類を机に置いた。


「人身売買に関する証言と証拠です。

 バルトロメオ・フォン・グレイン伯爵より得たもの」


 陛下の眉がわずかに動く。


「……バルトロメオが、か」


「はい。

 本人はすでに保護しております」


 陛下は書類を手に取り、

 静かに目を通し始めた。


 数分の沈黙。



「……事実であるならば」


 陛下の声は低く、重かった。


「爵位どころか、人として終わりだな」


「異論はございません」


 私は静かに頷いた。


「アルバートは危険な男だ。

 だが、金回りに関しては有能でもある。

 切れば派閥が荒れる……

 そう思っていたが」


 陛下は書類を机に置いた。


「これはもう、逃れられんか」


「はい。

 証拠は揃っております」


「……よかろう」


 陛下は立ち上がった。


「裁判は不要だ。──罪が明白である以上、時間をかける意味はない」


「そこの、アルバートを呼び出せ!」


「はっ!」


 侍従が急ぎ足で部屋を出ていく。


****


 呼び出しの使いが戻るまで、

 しばしの静寂が流れた。


 陛下は窓の外に目を向け、

 ぽつりと呟いた。


「……レオポルト。

 お前は固い。

 だが──だからこそ信用できる」


「恐れ入ります」


「王家派の貴族どもは頼りにならん。

 派閥争いばかりで、国の秩序など二の次だ」


「承知しております」


「アルバートは……危険だが有能だ。

 金を動かす才は確かにあった。

 切れば混乱が起きる。

 だが──」


 陛下は目を閉じた。


「この件は、もはや見逃せん」


「はい」


 私は静かに答えた。


「陛下が動かれるのは、正しい判断です」


「……そうであればよいがな」


 陛下が小さく息を吐いた、その時だった。


****


 扉が勢いよく開く。


「へ、陛下ぁっ!!」


 先ほどの侍従ではない。

 呼び出しに向かった文官だ。


「どうした」


「ア、アルバート殿が……!」


 文官は息を切らしながら叫んだ。


「屋敷に……おりませんでした!!」


 空気が凍りつく。


「……いなかった、だと?」


「は、はい……!

 屋敷の使用人も数名消えており……

 荷物も……!」


 陛下は目を細めた。


「……逃げたか」


「覚悟していたのでしょう」


 私は拳を強く握り締めつつも、静かに言った。


「昨夜のうちに、動いたのだと思われます」


「ふむ……」


 陛下は深く息を吐いた。


「アルバートの屋敷を捜索せよ。

 証拠を一つ残らず押さえろ」


「はっ!!」


 文官が走り去る。


****


 昼過ぎ。

 捜索隊が大量の書類を抱えて戻ってきた。


「陛下!

 アルバート殿の屋敷より、

 多数の帳簿と文書が見つかりました!」


「見せよ」


 陛下は書類を受け取り、

 私と共に目を通す。


「……誘拐された子供のリスト……」


「国外への搬出記録……」


「……“教団”との金のやり取り……?」


 私は眉をひそめた。


「陛下。

 これは単なる金儲けではありません。

 “組織”が動いております」


「……分かっておる」


 陛下は書類を閉じた。


「アルバートは国外へ逃げたか」


「可能性が高いでしょう」


「追いますか?」


 私は問う。


 陛下は少しだけ目を閉じ、

 ゆっくりと開いた。


「追う。だが──」


 その声は揺らぎがなかった。


「国の秩序を最優先とする」


「……承知しました」


 私は深く頭を下げた。


 陛下は静かに言った。


「レオポルト。

 明日、リストの子供達の保護に動く。

 またアルバートに関与した貴族、子供を買ったもの達も同様に罰するぞ」


「はっ」


 その目には、

 王としての覚悟が宿っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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