第47話 命は大事にするべきじゃろうて
バルトロメオは膝をついたまま、肩を震わせておった。
「……全部、話す……話すから……!」
「うむ。では順に聞こうかの」
わしは椅子を引き寄せ、バルトロメオの正面に腰を下ろした。
「まずは──子供の扱いじゃ」
バルトロメオは唇を噛み、やがて観念したように口を開いた。
「……子供を欲しがる者は……どこにでもいる……」
「ほう?」
「貴族、商人、国外の買い手……
“若いほど良い”とか、“見た目が良い子を”とか……
そういう注文が……来るんだ……」
アリアが息を呑む。
「選別されておる、というわけじゃな」
「……ああ。
年齢、顔立ち、健康……
“商品価値”で決められる」
ドランの拳が震えた。
「クソが……!」
わしは手で制した。
「次じゃ。アルバートの動きについて知っておることを言え」
バルトロメオは苦い顔をした。
「……あの方は……金を稼ぐ。
とにかく稼ぐ。
だが……国の金は出し渋る」
「ほう?」
「私腹を肥やしている……と思っていた。
だが違う。“どこかへ流している”」
「どこへじゃ?」
「……知らん。
だが……帳簿の一部を見たことがある。
妙な支出が……いくつも……」
(ふむ……金の流れか。裏が深そうじゃな)
「では最後じゃ」
わしは目を細めた。
「なぜ手を貸した?」
バルトロメオは苦笑した。
「……貴族の活動には……金がいるんだよ……」
「ほう」
「屋敷の維持、使用人、贈り物、派閥の会合……
金がなければ“貴族”でいられん……!」
声が震えていた。
「だから……だから私は……!」
「なるほどの」
わしは立ち上がった。
「では今の話をレオポルト殿に直接伝えよ」
バルトロメオの顔が青ざめる。
「む、無理だ!
あんな堅物に言ったら……私は……罰せられる!」
「罰せられるのは当然じゃろう」
「ひっ……!」
「じゃが──」
わしは静かに続けた。
「“生きられる”可能性は確実に高まる」
バルトロメオの呼吸が止まった。
「……ど、どういう……」
「時間を置けば、アルバートに勘づかれる。
おぬしは“消される”。
これは確定じゃ」
「……っ!」
「生きたいなら、今すぐ動くしかない」
バルトロメオは震えながら言った。
「……二日……いや、明日なら……!」
「遅い」
即答した。
「今じゃ。
夜でも構わん。
今動かねば、おぬしは明日を迎えられんぞ」
長い沈黙。
「……わ、分かった……!」
バルトロメオは涙を流しながら頷いた。
「行く……行くから……!」
「よろしい」
わしは立ち上がった。
「では、公爵邸へ向かうぞい」
****
深夜の公爵邸。
門番が驚いた顔でこちらを見る。
「な、何事ですか……!?」
「急ぎの用じゃ。
レオポルト殿に取り次げ」
門番は迷ったが、
バルトロメオの顔を見て青ざめた。
「……し、少々お待ちを!」
すぐに中へ走っていく。
「……入れ」
レオポルトが夜着のまま現れた。
「こんな時間に……何事だ?」
バルトロメオはその場に崩れ落ちた。
「た、助けてくれ……!
死にたくない……!」
公爵の眉がわずかに動く。
「……話せ」
****
応接室に通され、
バルトロメオは震えながら全てを吐き出した。
子供の選別
オークションの仕組み
アルバートの金の流れ
自分が関わった理由
帳簿の一部
公爵は黙って聞き続けた。
「……よく話した」
静かに言った。
「ひっ……!」
「安心しろ。死なせはせん」
バルトロメオの目が揺れる。
「だが──」
公爵の声が低くなる。
「法の下で裁かれる。罪は償ってもらう」
「……っ……!」
「死ぬよりはマシだろう」
バルトロメオは涙を流しながら頷いた。
「……た、頼む……!」
「保護する。証言と証拠は預かる」
公爵が部下を呼び、バルトロメオを連行させた。
****
部屋に静寂が戻る。
公爵はわしらに向き直った。
「……よくやってくれた」
珍しく、その声にはわずかな感情があった。
「これで“動ける”」
「次はどうするつもりじゃ?」
わしが問うと、公爵は迷いなく答えた。
「証拠と証言を携え、陛下に進言する」
「ほう」
「アルバートを」
その目は鋭く、揺らぎがなかった。
「──法の下に引きずり出す。必ずな」
(いよいよ、王都が動くか)
わしは小さく息を吐いた。
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