第45話 獲物を狩るのは腹を空かせてからじゃ
翌日。
わしらは王都北区へと足を運んでいた。
「で、どこを張るんだ?」
ドランが周囲を見回しながら問う。
「候補は三つじゃ」
わしは懐から簡易地図を取り出し、
指で印をつけていく。
「一つ目は、昨日話した劇場跡地。
二つ目は、旧倉庫群の裏手にある集積場。
三つ目は、北門近くの廃屋じゃ」
「三つも……?」
アリアが目を丸くする。
「一箇所に絞るには、まだ材料が足りん。
じゃから──分かれて張る」
ドランがニヤリと笑った。
「ようやくそれっぽくなってきたな」
「ただし、連携は切らさん」
わしは懐から、小さな金属片を三つ取り出した。
手のひらに収まるほどの薄い板。
中央に、ごく簡単な刻印が施されておる。
「なんだそれ?」
「簡易的な共鳴具じゃ。
魔力を流すと、対になるものが震える」
「へぇ……そんなの作れんのかよ」
「大したものではない。
距離が離れすぎると届かんが、王都内なら問題あるまい」
それぞれに手渡す。
「一度試してみるがよい」
アリアが恐る恐る魔力を流すと──
ぶるる、と
わしの持つ金属片が震えた。
「わっ……!」
「本当だ……」
ドランも感心したように見る。
「合図を決めるぞい。
一回がわし、二回がアリア、三回がドランじゃ」
「分かりやすいですね」
「当たりを引いたら鳴らせ。
すぐに合流する」
わしは地図を畳み、視線を上げた。
「では、狩りの時間じゃ」
****
一日目──何も起きず。
二日目──同じ顔ぶれが行き交うのみ。
そして三日目。
空気が変わった。
****
劇場跡地。
崩れかけた外壁。
使われていないはずの入口。
そこに人が集まり始めていた。
(……来たか)
顔を隠した男。
妙に身なりの良い商人風の男。
そして、護衛と思しき屈強な者たち。
普通の集まりではない。
わしは静かに金属片に魔力を流す。
一回。
****
しばらくして、
人気のない路地裏に三人が揃う。
「当たりか?」
ドランが低く問う。
「ほぼ間違いないじゃろうな」
「中、行くか?」
ドランが槍に手をかけた。
「……やるぞ」
「待て」
わしは即座に制した。
「なんでだよ!
あれ絶対黒だろうが!」
「黒じゃな」
「だったら!」
「“黒だからこそ”じゃ」
ドランが言葉に詰まる。
「中に入ればどうなる?」
「叩き潰せるだろ」
「本当にか?」
わしは静かに目を向ける。
「逃げられるだけじゃ。
証拠も、金も、主もな」
「……っ」
「一番欲しいものは何じゃ?」
ドランは歯を食いしばる。
「……証拠」
「違う」
一拍置く。
「“根”じゃ」
空気が張り詰めた。
「この手の連中はな、
尻尾だけ切っても意味がない」
「……じゃあどうするんですか?」
アリアが問う。
わしは劇場跡地へ視線を向けた。
「金じゃ」
「金……?」
「オークションが終われば、
必ず金が動く」
静かに言葉を落とす。
「客が引き切った後、
売上はどこかへ運ばれる」
「……そこを追う、ってことか」
「うむ」
ドランが拳を握る。
「確実に繋がるってわけだな」
「見逃すなよ」
わしは二人を見た。
「一瞬でも気を抜けば、終わりじゃ」
****
三人は再び散った。
それぞれ、死角となる位置へ。
劇場跡地を囲むように配置する。
****
夜が更ける。
人の出入りは続き──やがて、止まった。
静寂。
── ──。
ぶるる、と震えが走る。
二回。
「アリアか」
わしは即座に動いた。
****
路地の影。
アリアが息を潜めている。
「こっちです……!」
その先には、
数人の男たち。
重そうな箱を運んでいる。
「……行くぞ」
わしらは距離を保ったまま尾行を開始する。
男たちは無言で歩き、
人気のない道を選びながら進んでいく。
(手慣れておるな)
やがて辿り着いたのは一つの屋敷。
高い塀。
整えられた庭。
そして、家紋。
ドランが小さく息を呑んだ。
「……貴族の屋敷じゃねぇか」
わしは目を細める。
(やはり繋がっておるか)
門が開き、
男たちは中へ消えていく。
その紋章を、わしは見逃さなかった。
「バルトロメオ・フォン・グレイン伯爵……か」
静かに呟く。
(“表”を叩く準備は整った)
わしは口元をわずかに歪めた。
「さて……狩りの続きといこうかの」
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