第43話 昔から貴族というものは……
再び訪れた公爵邸。
昨日とは違い、門は静かに開かれた。
通された応接室には、
すでにレオポルト・フォン・ヴァイスハイトが座しておる。
「……来たか」
短い一言。
「証拠は?」
挨拶もなく、本題じゃ。
わしは懐から紙片を取り出し、
机の上に滑らせた。
「昨夜、倉庫街で子供の移送を確認した。
その会話の中でバルトロメオ・フォン・グレイン伯爵の名前を確認。
また誘拐に使用した薬品の匂いがした。
レーベンでの事件と同じ薬じゃな。
これはそれを書き記しておる」
公爵は無言で目を通す。
空気がわずかに変わった。
「……なるほど」
低く呟き、紙を置く。
「これで動けるかの?」
「まだだ」
即答。
「はぁ!?」
ドランが声を荒げる。
「証拠あるだろうが!」
「君達の証言だけでは簡単に潰される。
それに大元に辿り着いてもいない」
公爵は淡々と返す。
「それだけでは潰せん。
奴らは“証拠の消し方”を熟知している」
静かながら重い言葉。
「……だか」
一拍
「"動く価値"はある」
公爵はわずかに視線を上げた。
「子供はな、“売られている”」
アリアの肩がびくりと震えた。
「売る……って……」
「そのままの意味だ。
労働力ではない」
一瞬の間。
「──"商品”だ」
重い沈黙が落ちる。
「王都には、表に出ぬ市場がある」
公爵は続ける。
「人間を扱う“競売”だ」
「……オークション、じゃと?」
わしは眉を上げる。
「そうだ。
貴族や富豪が集まり、裏で人を値踏みする」
ドランの拳が軋む音を立てた。
「ふざけやがって……!」
「だが、場所は掴めておらん」
「ほう?」
「奴らは極めて慎重だ。
開催場所は毎回変わる。
記録も残らん」
「……完全に地下じゃな」
「加えて」
公爵の目が鋭くなる。
「関与している貴族も“確証”までは取れていない」
「当たりはつけておるが、証明できん、と」
「そういうことだ」
わしは顎をさする。
「現場を押さえねば、全て無に帰す」
「その通りだ」
「……だから動けんのじゃな」
「そうだ」
公爵は即答した。
「中途半端に踏み込めば、
証拠は消え、こちらが潰される」
法務大臣としての限界。
そして責任。
公爵が再度値踏みをする目でこちらを見る。
「君達は冒険者だったな」
「うむ」
公爵は紙とペンを取り出して何かを書き出すと、それを秘書のような男に渡して指示を出した。
「今、君達への指名依頼をギルドに出すよう、指示した。
表向きは『猫探し』にしてある。
報酬は相応だが」
「それはどういう?」
アリアが不思議そうに公爵を見る。
「君達は"猫を探していた"ことになる」
「その過程で"偶然"誘拐現場を目撃し、介入した」
「……そういう筋書きだ」
「「??」」
アリアとドランは訳が分からず黙っておる。
「"政治的な動き"ではなく、どこぞの冒険者が"ただの事件"で炙り出す……
そういう形にしたいのじゃな?」
わしが顎をさすりながら言うと、公爵がフッと口元を緩ませた。
「話が早いな」
「証拠を取り切れ。
現場を押さえろ。
逃げ場を潰せ」
一つずつ、言葉を落とす。
「そうすれば──私が法で叩き潰す」
「貴族というものは昔っからやる事が回りくどいのぅ」
「昔?」
「いや、こっちの話じゃ」
ふむ、とわしは一息ついた。
「わしは信用して動いてよいと思うとるが、おぬしらはどうじゃ?」
アリアとドランを見やる。
アリアもドランも何も言わずに強い眼差しで頷く。
「と、いうことで委細承知した」
わしは、そう強く言い切った。
「お前たちが成功すれば、
私は貴族院派の大物を一人落とせる」
机を軽く叩く。
「失敗すれば、お前たちは消える」
静かな声音。
じゃが、冗談ではない。
「……随分と物騒じゃのぅ」
わしは苦笑した。
「王都とはそういう場所だ」
「嫌いではないがの」
公爵の目が、わずかに細まる。
「……お前は面白いな」
****
わしらは立ち上がり、公爵に礼をした。
「気をつけろ」
最後に、公爵が言った。
「相手は“金”で動く連中だ。
躊躇いがない」
「それはこちらも同じじゃ」
わしは笑う。
「わしは“効率”で動くのでな」
****
公爵邸を後にする。
外の空気は、やけに軽く感じた。
「……とんでもねぇ話になったな」
ドランが呟く。
「でも……やるしかないですね」
アリアも覚悟を決めた顔をしている。
「うむ」
わしは空を見上げる。
王都の空は相変わらず濁っておる。
「まぁ、少しは掃除のしがいがありそうじゃの」
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