第41話 さしずめ法の番人と言ったところかのぅ
翌日。
わしらは指定された刻に、
公爵邸の門前へと足を運んでいた。
「昨日とは違いますね……」
アリアが小声で言う。
門番の態度が明らかに違う。
警戒はしておるが、“通す前提”の目じゃ。
「シルエット商会よりの使いで参った。
面会の約束があるはずじゃが」
わしがそう告げると、
門番は一礼し、すぐに中へ通した。
****
応接室へと案内される。
無駄のない造り。
豪奢ではあるが、過剰ではない。
(見栄よりも機能を優先するタイプか)
わしは静かに椅子へ腰掛けた。
ドランは落ち着かん様子で周囲を見回し、
アリアは背筋を伸ばして座っておる。
しばらくして、扉が開いた。
「待たせた」
現れたのは、
一人の男。
年の頃は五十前後。
白髪混じりの黒髪を後ろで束ね、
無駄のない動きで部屋に入ってくる。
その目は静かで、
しかし鋭い。
(……この男が)
「グランゼール王国法務大臣、
レオポルト・フォン・ヴァイスハイト公爵だ」
男──レオポルトは、簡潔に名乗った。
「わしはボニフ。
こちらはアリアとドランじゃ」
軽く会釈を返す。
レオポルトはわしらを一瞥し、向かいに腰を下ろした。
「さて」
彼は指を組み、静かに言う。
「商会を通しての面会とは珍しい。
貴族の紹介状も持っていたようだが……そちらは使わなかったのか?」
「使えなかった、が正しいのぅ」
わしは肩をすくめる。
「門前払いを食らったものでな」
「……なるほど」
レオポルトの目がわずかに細まる。
「それで、商会経由に切り替えた、と」
「うむ。効率を優先したまでじゃ」
「合理的だ」
短く評価する。
「では本題に入ろう」
レオポルトは無駄なく切り出した。
「君たちは何を求めてここへ来た?」
空気が一段、引き締まる。
ドランがわずかに息を飲み、アリアの指先が揺れる。
じゃが、わしは変わらず、淡々と答えた。
「情報じゃ」
「何の?」
「子供の誘拐。
それに関わる“貴族院派”の動きついて」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「……面白い」
レオポルトが、わずかに口元を上げた。
「普通の冒険者が口にする内容ではないな」
「普通ではないからの」
「その通りだ」
レオポルトは頷く。
「どこまで知っている?」
試すような視線が向けられる。
「レーベンでの一件は耳に入っておるじゃろう」
「副ギルドマスターの不正、闇ギルドとの繋がり……そして死亡。
報告は上がっている」
「なら話は早い」
わしは顎をさする。
「その裏に、“上”がいる」
「……続けろ」
「王都に流れておる。
子供がな」
ドランの拳がぎゅっと握られる。
「それも、組織的にじゃ」
「証拠は?」
「まだない」
わしはあっさり答えた。
「じゃが、確信はある」
レオポルトは黙ったまま、じっとこちらを見ておる。
視線が重い。
(測っておるな)
わしは構わず続ける。
「一つ聞くが──」
「何だ」
「この件、おぬしはどこまで把握しておる?」
わずかな沈黙の後。
「……把握はしている」
レオポルトは静かに答えた。
「だが、“動けない”」
アリアが息を呑む。
「どうして……!」
「証拠がないからだ」
即答。
「そして、相手が“貴族院派の中枢”だからだ」
空気が重く沈む。
「名は?」
わしが問う。
レオポルトは一瞬だけ視線を落として続ける。
「アルバート・フォン・シュヴァルツ」
静かに告げた。
「財務大臣。
貴族院派の筆頭だ」
ドランが低く唸る。
「そんなやつが……!」
「感情で動くな」
レオポルトの声は冷静だった。
「相手は国を回す金の流れを握っている。
下手に動けば、こちらが潰される」
「じゃあ放っておけってのかよ!」
「違う」
即座に否定。
「だからこそ、“証拠”が要る」
レオポルトは椅子に深く腰掛けた。
「私は法の人間だ。
証明できぬ罪は、裁けない」
その言葉には、一切の揺らぎがなかった。
(なるほどのぅ)
わしは内心で頷く。
(こやつ、今の所は“敵ではない”が──)
(味方でもないな)
「最後に一つ」
レオポルトがこちらを見る。
「君は何者だ?」
空気が張り詰める。
ただの興味ではない。
“見極め”じゃ。
わしは、少しだけ笑った。
「ただの旅人じゃよ」
「……ほう?」
「少しばかり知識欲が強いだけのな」
レオポルトは数秒、沈黙した。
「……そういうことにしておこう」
そして、小さく息を吐いた。
「今日はここまでだ」
レオポルトは立ち上がる。
「次は、君たちの“価値”を見せてもらおう」
「ほう?」
「情報はある。
だが、ただでは渡さん」
その目が、鋭く光る。
「証明しろ。
君たちが、この件に関わるに値する存在かどうかをな」
****
部屋を出た後。
「……なんか、すげぇ奴だったな」
ドランがぽつりと呟く。
「ええ……圧がすごかったです……」
アリアも小さく息を吐く。
わしは顎をさする。
「面白くなってきたのぅ」
「面白いって……」
「うむ」
わしは小さく笑う。
「法の番人が動けん案件じゃ」
「なら動ける者がやるしかあるまい」
(さて)
(王都の“核”に、手をかけるとするかの)
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