第40話 餅は餅屋、と言ったところかのぅ
貴族街を後にし、わしらは一度宿へと戻った。
「……なんか、どっと疲れたな」
ドランが椅子に腰を落とし、大きく息を吐く。
「慣れない場所ですからね……」
アリアも肩をほぐしながら苦笑した。
王都の空気は重い。
人の多さとは別の、“何か”が混じっておる。
「まぁ、そう気を張るな。
腹が減っては頭も回らん」
わしは席につき、店主を呼んだ。
「適当に腹にたまるものを頼む」
「おう、任せな!」
****
しばらくして運ばれてきたのは、肉の煮込みと焼き立てのパン。
昨日よりは量も多く、ドランの顔が少し明るくなる。
「お、今日はちゃんと食えそうだな」
「都会でも探せばあるもんじゃ」
「最初からこういう店に来たかった……」
アリアが小さく呟く。
****
しばし無言で食事を進める。
温かい料理は、張り詰めていた空気を少し和らげた。
「で、これからどうするんだ?」
ドランが口を拭いながら言う。
「別のルートを使うと言っておったじゃろう」
「……商会、ですか?」
「うむ」
わしは頷く。
「貴族は“止められておる”。
ならば、別の力を使うだけじゃ」
「商会って……そんなに影響力あるんですか?」
「ある」
短く答える。
「特に王都ではな。
金と流通を握る者は、貴族とは別の意味で強い」
「……確かに、ミナの家もすごかったですもんね」
****
翌朝。
朝食を摂り、身支度をして商業区まで歩く。
「……あ!」
中から、小さな影が飛び出してきた。
「ドラン!!」
ミナじゃ。
勢いよく駆け寄ってきて、そのままドランに抱きつく。
「元気そうだな!」
「うん! ミナ、げんき!」
その後ろから、わしとアリアにも順番に抱きついていく。
「ボニフ!アリア!」
「うむ、元気そうでなによりじゃ」
「よかった……本当に」
****
「どうしたの? もうきたの?」
ミナが首を傾げる。
「少し頼みたいことがあっての」
「たのみ?」
「うむ。おとうさんとおかあさんはおるか?」
「うん! よぶね!」
ミナはぱたぱたと店の中へ駆けていった。
****
ほどなくして、ミナの両親が現れる。
「まあ……!
また来てくださったんですね!」
「うむ。少し相談があっての」
奥からミナの父──シルヴァンも姿を見せる。
「どうされました?
何かお困りのようですが」
「実はの……」
わしらは、レオポルト公爵邸での“門前払い”の件を説明した。
シルヴァンの表情が険しくなる。
「……なるほど。
紹介状を持って行っても通されなかった、と」
「うむ。
門番の反応からして、
“誰かの指示”があったと見て間違いないじゃろう」
シルヴァンは深く息を吐いた。
「……やはり、そうですか」
「ほう?」
「実は……
ミナが失踪した時、
協力を申し出てくださった貴族の中に──
“貴族院派”の者がいたのです」
アリアが息を呑む。
「まさか……」
「ええ。
その者は“善意”を装っていましたが……
今思えば、あれは“情報を探るため”だったのかもしれません」
ドランが拳を握る。
「つまり……
ミナをさらった連中と繋がってる可能性があるってことか?」
「断言はできませんが……
疑わしい動きはありました」
(ふむ……黒幕は“貴族院派”か)
「ですが」
シルヴァンは表情を引き締めた。
「レオポルト公爵に会いたいのであれば、
私から正式に連絡を入れましょう」
「ほう?」
「貴族同士の紹介と、
商会経由の取引は別です」
シルヴァンは静かに答える。
「特に我々のような商会は、
“商談”という形でなら門を開かせることができます」
「つまり……」
「貴族としてではなく、“客”として会うのです」
「なるほどのぅ」
わしは頷いた。
「ただし──」
シルヴァンの声が少しだけ低くなる。
「相手が警戒している可能性は高い。
通常の商談とは違うと見抜かれるでしょう」
「問題ない」
わしは軽く笑った。
「元より、ただの挨拶で済ませるつもりはない」
「では、手配いたします」
ドランが思わず身を乗り出す。
「助かる……!
本当に助かる!」
「いえ、こちらこそ。
ミナを救ってくださった恩は、
まだ返しきれていませんから」
シルヴァンは微笑んだ。
「明日の午前、
公爵邸にて面会の場を設けます。
どうか、それまでに準備を」
「うむ。
恩に着るぞい」
商会を出ると、
アリアが胸に手を当てて息をついた。
「よかった……!
これで公爵様に会えますね!」
「うむ。
商会の力というのは侮れんのぅ」
ドランも笑う。
「ミナの親父さん、すげぇな……
あれが“王都の商人”ってやつか」
「うむ。
貴族が動かぬなら、商人が動く。
それが王都じゃ」
(さて……)
わしは心の中で呟く。
(これで門は開く)
わしはふと、昨日の光景を思い出す。
あの馬車。
布の奥に見えた、小さな手。
(あれがただの運搬であるはずがない)
貴族院派の名が出た今、
偶然で片付けるには出来すぎておる。
「……どうしたんです?」
アリアがこちらを覗き込む。
「いや、少し考え事じゃ」
わしは顎をさする。
(もし繋がっておるのなら──)
ここまでお読みいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。




