第38話 王都の影は深いのぅ
「じゃあ……ミナは、ここで」
商会の前。
ミナは両親の手を握りながら、わしらの方を振り返った。
その目は、嬉しさと寂しさが入り混じった複雑な色をしている。
「ミナ……」
ドランが一歩前に出る。
ミナは迷わず、ドランの胸に飛び込んだ。
「ドラン……!」
ぎゅっと抱きつくその腕は、
小さいのに、驚くほど強かった。
「ミナ……もう大丈夫だよな」
「うん……!
でも……ミナ、ドランともっといっしょにいたかった……」
ドランの喉が詰まる。
「……俺もだよ。
ミナがいなくなるの、正直……さみしい」
ミナは顔を上げ、涙をこらえながら笑った。
「ミナ、がんばるから……
だから……また、あいにきてね……?」
「当たり前だろ。
呼ばれなくても来るよ」
ドランはミナの頭をそっと撫でた。
その手つきは、
まるで本当の父のようじゃった。
****
「ミナ」
アリアがしゃがみ込み、目線を合わせる。
「ミナは強い子だよ。
だから、もう心配してない」
「アリア……ありがとう……!」
ミナはアリアにも抱きついた。
アリアは優しく背中を撫でながら微笑む。
「また会おうね。
その時は、ミナの好きな服、選んであげる」
「ほんと!? やった!」
ミナの顔がぱぁっと明るくなる。
****
最後に、ミナはわしの前に立った。
見上げるその瞳は、
どこか誇らしげで、少しだけ大人びていた。
「ボニフ……」
「うむ」
「ミナね……
ボニフのこと、すごいひとだって思ってるの」
「ほう?」
「だって……なんでもしってるし、
つよいし、やさしいし……
ミナ、ずっとあんしんだった」
わしは少しだけ目を細めた。
「そう言ってもらえるのは、嬉しいのぅ」
「ミナ、がんばるから……
だから……また、きてね」
「もちろんじゃ。
ミナが望むなら、いつでも顔を出すぞい」
ミナは嬉しそうに笑い、両親の元へ戻った。
****
「またね!!」
ミナが大きく手を振る。
ドランも、アリアも、わしも手を振り返した。
ミナの笑顔は、
王都の喧騒の中でもひときわ明るく輝いていた。
やがてミナは両親と家の中へ消え、
扉が静かに閉まる。
「……なんか、胸がスカスカするな」
ドランがぽつりと呟いた。
「ミナが幸せになったんです。
それでいいじゃないですか」
アリアが優しく言う。
「……ああ。
そうだよな」
ドランは空を見上げた。
わしも空を見上げる。
王都の空は広い。
だがどこか濁って見えるのは気のせいかの。
「……どうした、ボニフ」
ドランが怪訝そうにこちらを見る。
「いや、少し気になるものがあっての」
わしは視線を街道の奥へ向けた。
ちょうどその時、一台の馬車が通り過ぎていく。
装飾は控えめ。
だが護衛の数が妙に多い。
後ろの荷台に、一瞬だけ見えた。
小さな手。
すぐに布が被せられ、
何事もなかったかのように馬車は去っていく。
「……気のせい、かの」
「なんだよ、今の」
ドランも気づいたらしい。
「いや、ただの運搬かもしれん」
わしは顎をさする。
あの手は、あまりにも“静かすぎた”。
泣きもせず、暴れもせず。
まるで──慣れているかのように。
「……王都は広い。
そして、人も多い」
わしは小さく呟く。
「良いものもあれば、
当然そうでないものも混じる」
アリアが、わずかに表情を曇らせた。
「……行きましょう。
まだやること、ありますよね」
「うむ」
わしは頷き、歩き出す。
ミナは救われた。
じゃがそれで終わりではない。
そんな予感がした。
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