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第37話 帰るべき場所、かのぅ

 応接室に通され、

 温かい茶が出されると、

 ミナの両親はようやく深く息をついた。


 ミナは両親の間に座り、

 その手をぎゅっと握っている。


「……どこから話せばいいのかしら」


 ミナの母が、震える声で口を開いた。


「ミナがいなくなったのは……半年前のことです」


「半年前……」


 アリアが息を呑む。


「ええ。

 その日、ミナは店の前で遊んでいました。

 ほんの少し目を離しただけだったのに……

 気づいた時には、もう姿がなくて……」


 母の声が震える。


「すぐに衛兵に届け出て、

 商会の仲間にも探してもらって……

 でも、手がかりは何一つ……」


 ミナの父が、苦い表情で続けた。


「……実は、取引先の貴族の方々にも

 捜索をお願いしていたのです」


「貴族に、か?」


 わしは眉を上げた。


「ええ。

 うちは宝飾品を扱う商会ですので、

 いくつかの家とは長い付き合いがありまして……

 ミナが失踪したと相談したところ、

 協力を申し出てくださった方もいました」


「しかし……結果は出なかった、と」


「はい……。

 皆さん動いてはくださったのですが、

 衛兵も、貴族も、商会も……

 誰もミナを見つけられなかった」


 父の拳が震える。


「そんな中で……

 あなた方がミナを連れ帰ってくれた。

 これは奇跡としか言いようがありません……!」


 母も涙をこぼしながら頷く。


「本当に……本当にありがとうございます……!」


「うむ。ミナが無事で何よりじゃ」



「ミナ……怖かったでしょう……?」


「うん……

 へんなひとに、つれていかれて……

 くらいとこに、いれられて……

 でもね……」


 ミナはわしらの方を向いて笑った。


「ドランたちが、

 たすけてくれたの!」


 その言葉に、両親はまた涙をこぼした。


「……あなた方には、どれほど感謝してもしきれません……!」


「頭を上げてくだされ。

 わしらは当然のことをしたまでじゃ」


「当然なんかじゃありません……!」


 父は震える声で続けた。


「ミナが……ミナが戻ってきてくれた……

 それだけで……どれほど救われたか……!」



 その時、ドランがぽつりと呟いた。


「……よかったよな、ミナ。

 ほんとに……よかった……」


 だが、その声にはどこか寂しさが混じっていた。


 ミナの頭を撫でてやることも、

 もう必要なくなるのだと、そう分かっている声だった。


 ミナが両親に抱きつく姿を見て、

 胸の奥がきゅっと締め付けられているのだろう。


(ドランはミナの父親のように接しておったからのぅ)


 アリアも気づいたのか、

 そっとドランの腕をつついた。


「ドラン。

 ミナが幸せそうで、よかったじゃないですか」


「……ああ。

 そうだよな……」


 ドランは小さく笑ったが、

 その目は少し赤かった。


****


「改めて自己紹介を。

 私は“シルエット商会”の代表、

 シルヴァン・レイノルズと申します」


「わしはボニフ。

 こちらはアリアとドランじゃ」


「シルエット商会は、

 宝飾品と服飾を中心に扱う商会です。

 貴族の方々とも取引がありまして……

 ミナもよく店に顔を出していたんです」


「ミナね、ここすき!

 キラキラいっぱいで、かわいいの!」


 母がミナの頭を撫でる。


「ええ……あなたはいつも、

 宝石よりも輝いていたわ……」



「ミナ……

 今日は、もう家に帰りましょうね」


「……うん!」


 ミナは迷いなく頷いた。


 その姿に、ドランが少しだけ肩を落とす。


(これでよい。

 ミナは帰るべき場所に帰ったのじゃ)


 わしは心の中でそう呟いた。


「あなた方も……

 よければまたこちらに寄ってください。

 あなた方は恩人なのですから。」


「うむ。では、またお邪魔するとしよう」


 ミナは両親の手を握り、

 嬉しそうに跳ねるように歩き出した。


「おとうさん! おかあさん!

 ミナ、かえってきたよ!」


 その声は、

 王都の喧騒の中でもひときわ明るく響いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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