第35話 運というのは面白いのぅ
翌朝。
窓から差し込む光で目を覚ますと、
王都の朝はすでに活気に満ちていた。
荷馬車の音、商人の呼び声、
焼きたてのパンの香りが漂ってくる。
「……都会の朝は騒がしいのぅ」
わしが伸びをすると、アリアが目をこすりながら起き上がった。
「おはようございます……
あぁ、やっぱり寝づらかった……」
「そうか? わしはぐっすりじゃったが」
「……ですよねぇ」
アリアは何か言いたげじゃったが、
結局そのまま言葉にせずに飲み込んだ。
ミナはすでにドランの横でパンをかじっている。
「おはよー!」
「おう、ミナは元気だな」
宿の朝食は、昨夜よりも素朴なパンとスープじゃったが、それでも十分に美味かった。
まぁ味の繊細さは気にはなったが。
「さて、動くとするかの」
わしらは宿を出て、昨日借りた地図を広げる。
「商業区はこの大通りをまっすぐ行けばいいんですよね」
「うむ。宝飾品を扱う店は、この辺りに集中しておる」
「ミナ、この辺りに見覚えはあるかの?」
「う〜ん……たぶん?」
ミナは落ち着かない様子で、何度も周囲を見回している。
その小さな手は、ドランの袖をぎゅっと掴んだままだ。
「ミナ、無理に思い出さんでもよい。
歩けば分かることもあるでな」
「……うん」
わしらは人で賑わう商業区に足を進めた。
****
商業区へ入ると、周囲の景色が華やかに変化した。
服飾店、雑貨屋、香水店……
ラグナールやレーベンには比べ物には見られなかった景色じゃ。
「すご……」
アリアが目を輝かせる。
「王都の商業区って、こんなに広いんですね……!」
「そもそも他の街では商業区、などという括りがないことも多かろう」
わしがそう言うと、アリアは頷いた。
「ラグナールだとお店自体がバラバラですもんね」
「王都のような都会じゃと人が多い。
まぁ今の時代ではよく分からぬが、昔も人が多いところほど街が分かりやすく別れておったの」
「また五百年前……ですか?」
「うむ」
わしがそう答えるが、アリアは呆れた顔をしておった。
やれやれ。
さらに進むと、街の左右にある店がさらに高級感を増していくのが見て取れた。
わしはキョロキョロと周りを見ておるミナに声をかける。
「ミナ、どの辺りか覚えておるか?」
「えっと……えっと……」
ミナは必死に思い出そうとする。
どこか見覚えがあるようでミナは足を止めた。
「あ、あそこのおようふくさん! おうちの近所だったよ!」
ミナが指差した店は、貴族の御用達といった雰囲気の高級な店じゃった。
おそらくミナの家も、同じような類の宝飾店なのじゃろう。
「で、こっちにねーたまにお外に食べに行ってたお料理やさんがあってね──」
ミナはドランをひっぱりながら商業区の道を進む。
しばらくするとまたミナは足を止めた。
「あれ? なんだか通り過ぎたような……」
ミナがそう呟いた時──
「……ミナ?」
ふいに、柔らかい声が聞こえた。
わしらはその声に振り返る。
声のした方を見ると、かなりの高級店と見受けられる宝飾店があった。
その店の前で立ち止まっている女性。
三十代ほどの、上品な服を着ておる。
その目は、驚きと、信じられないという色で揺れている。
「……ミナ、なの……?」
ミナの肩がびくりと震えた。
「……おかあ……さん……?」
ミナが小さく呟いた瞬間。
「ミナ!!」
女性が駆け寄ってきた。
ミナも走り出す。
「おかあさん!!」
ふたりは勢いよく抱き合った。
ミナの小さな腕が、女性の背中にしがみつく。
女性は震える手でミナの頭を抱きしめ、
涙をこぼしながら何度も名前を呼んだ。
「ミナ……ミナ……!
生きて……生きていたのね……!」
ミナも泣きながら叫ぶ。
「おかあさん……!
ミナ、かえってきた……!」
その光景に、アリアは思わず口元を押さえた。
ドランは目をそらしながら鼻をすすっている。
「……よかったな……ほんとによ……」
(……こういう再会は、何度見ても悪くないのぅ)
わしは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
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