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第34話 都会の物価は高いのぅ

 門をくぐり、王都の喧騒に圧倒されながらも、

 わしらはまず宿を探すことにした。


「さて……どこに泊まるかじゃが」


「王都って、どこに宿があるんだ……?」


 ドランが周囲を見回すが、

 王都は広すぎて見当もつかんようじゃ。


「こういう場所はな、適当に歩くのが一番悪手じゃ。

 時間も体力も無駄にする」


「じゃあどうするんです?」


 アリアが首を傾げる。


「旅人向けの宿は、馬と一緒に使う者が多い。

 つまり──厩舎の近くに集まる」


「なるほど……」


 ドランが感心したように頷く。


「効率的に探すなら、“馬の匂い”を辿ればよい」


「それ、人としてどうなんですか……?」


「合理的じゃろう?」


 わしが顎をさすると、

 アリアはなんとも言えない顔をした。


「……あのね」


 ミナがそっと袖を引っ張る。


「む、どうしたミナ」


「ミナ、ちょっとだけおぼえてる……」


「ほう?」


「まえに、おとうさんとおかあさんと……

 うまさん、いっぱいのとこ……とまった……」


 ミナは小さく指をさした。


「むこう……たぶん」


「おお、助かるのぅ」


****


 しばらく進むと、

 確かに馬のいななきが聞こえてきた。


 大きな厩舎と、馬車置き場。

 その隣に、旅人向けの宿が建っている。


「ここ……よさそうですね」


 アリアが看板を見上げる。


「『金の麦亭』……ふむ、悪くない名じゃ」


 馬車を停め、馬を預けて中へ入る。


「いらっしゃい! 旅の方かい?」


「それは助かるのぅ。

 馬車と馬を預けたいんじゃが、可能か?」


「もちろん! 一泊で馬の世話込みだと……」


 主人は指を折りながら計算する。


「四人部屋一つ、夕食と朝食付き、馬の預かり込みで……

 金貨一枚だね」


「……高っ」


 アリアが素で声を漏らした。


「王都価格じゃな……」


 わしは苦笑する。


「人が集まる場所は金も集まる。

 そして金が集まる場所は、必ず値段が上がる」


「……世知辛いですね」



「ちなみに一人部屋二つと二人部屋一つの計三部屋で泊まれんかのぅ?」


「兄さん、すまんな。

 もうすぐ大きな祭りがあってな。

 宿はいっぱいで一部屋しか用意できん」


「ほう、祭りか」


「むしろ兄さん方は運がいい方だぞ」


「そうかの」


 わしは三人を見回した。


「俺は構わんぞ!」


「ミナもだいじょうぶー!」


「私は……まぁ、仕方ないですね……」


 アリアはちらりとこちらを見る。


(なんじゃその目は)


「わしは夜中に変なことはせんぞ?」


「言われると逆に不安なんですけど!?」


 即座にツッコミが飛んだ。



「では、お願いするかの」


 わしはカウンターへ金貨を置いた。


「毎度あり!」


****


 案内された部屋は広く、

 四人が寝ても余裕がある。


「ふぅ……やっと落ち着いた……」


 アリアがベッドに腰を下ろす。


「ミナ、おなかすいた……」


「うむ、夕食は宿で頼むとしよう」


 ドランは窓から外を眺める。


「……王都って、すげぇな。

 人が多すぎて、頭が回らねぇ……」


「慣れんうちは疲れるじゃろうて」


 わしは笑いながら荷物を置いた。


 窓の外では、夕日が王都の街並みを黄金色に染めている。



「さて……」


 わしは腰に手を当て、仲間たちを見る。


「ここを拠点に、動くとするかの」


****


 夕刻になり、宿の食堂へ降りると、

 すでに多くの旅人で賑わっていた。


「お、席空いてるぞ」


 ドランが手を振り、四人でテーブルにつく。


 ほどなくして料理が運ばれてきた。


 焼いた肉に香草のソース、

 野菜のポタージュ、

 ふわりと香る白パン。


「……おお、これは」


 わしは一口食べて目を細めた。


「味付けが繊細じゃの。

 素材の味を引き立てる工夫が随所にある」


 香草のソースを味わう。


「この香草……乾燥ではなく生を使っておるな。保存効率は悪いが味は上がる。贅沢な使い方じゃ」


「うん……おいしい……」


 ミナはパンをちぎりながら、どこか懐かしそうに微笑む。


 一方で──


「……なんか、これ前菜じゃねぇか?」


 ドランが皿を見つめていた。


「都会の料理は、味は良いが腹にはたまらんのぅ」


「だよな!? もっとガツンとしたのが欲しい……」


「ドラン、追加で頼めばよいじゃろう」


「金貨一枚払った後に追加注文は……財布が痛ぇ……」


 アリアが苦笑する。


「王都の洗礼ですね……」


****


 食事を終え、温かいお茶を飲みながら、

 わしはミナに向き直った。


「さて、ミナ。

 両親のこと、覚えている範囲で教えてくれんか?」


「うん……」


 ミナは指をもじもじさせながら話し始める。


「おとうさんとおかあさん……

 おみせ、してた……」


「店か。何を売っておった?」


「えっとね……きれいなもの……とか……

 おようふく……とか……

 あと、キラキラの……」


「宝飾品かの?」


「うん! そんなかんじ!」


 アリアが目を丸くする。


「宝飾品って……結構大きな商会じゃないですか?」


「貴族相手の商売もしておった可能性が高いのぅ」


 ドランが腕を組む。


「じゃあ、商業区の中でも……上の方か?」


「うむ。大体の当たりはついたのぅ」


****


 わしは席を立ち、宿の主人に声をかけた。


「すまんが、王都の地図は借りられんかの?」


「おう、いいよ。旅人用の簡易地図だけどな」


 主人が差し出した地図を広げ、

 わしらはテーブルに戻る。


「商業区はここじゃな。

 宝飾品を扱う店は……この辺りか」


「明日はここを中心に探せばよさそうですね」


「うむ。今日はもう休むとしよう」


****


 部屋に戻り、寝る準備を始める。


「……うぅ……」


 アリアが妙にもぞもぞしていた。


「どうしたんじゃ?」


「い、いえ……なんでも……」


 アリアは布団の上で落ち着かない様子だ。


(なんじゃ? 腹でも痛いのか?)


 わしは首を傾げる。


「アリア、寒いなら毛布を追加するが?」


「ち、違います! そういうんじゃなくて……!」


「そうか? ならよいが」


 さすがのわしも女心は全く分からんわい。


****


「では、明日に備えて寝るとするかの」


「おう」


「ミナ、ねむい……」


「おやすみなさい……」


 灯りを落とすと、

 王都の夜のざわめきが遠くに聞こえてきた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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