表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/63

幕間4 領主の憂い ※エルンスト視点

 レーベン領主邸、執務室。


「──以上が、昨夜の件の詳細です」


 部下の報告が終わる。


 机の上には、書類の山。

 その中でも一枚だけ、別に置かれた報告書。


 “闇ギルド壊滅”

 “誘拐されたと思われる子供たち保護”

 “副ギルドマスターラスティン死亡”


 エルンストはその一枚を静かに手に取った。


 三つの内容が一つにまとめられた書類を目にして、エルンストは目を細めた。


「……死んだか」


 短い言葉。


「はい。牢内で毒による死亡。

 自害の可能性もありますが……状況的に──」


「口封じだな」


 即答だった。


 部下が言葉を飲み込む。


「……やはり、関わっているのは」


「口にするな」


 一言で遮る。


 部屋の空気が張り詰めた。


 エルンストは椅子にもたれ、天井を見上げる。


「だが……想定より早いな」


「と、言いますと?」


「普通の冒険者なら、あの地下に辿り着けん。

 というより、私でも対応に困っていた闇ギルドの解決をたった二日で……」


 エルンストはもう一枚の紙を手に取った。


 ラグナールから来た冒険者。


「罠を見抜き、拠点を突き止め、

 副ギルドマスターの関与を暴き、

 子供を全員保護……か」


 一拍。


「……とても同一人物が一晩で行った、とは思えんな」


 ぽつりと呟いた。


 部下が思わず苦笑する。


「確かに、少々……」


「少々どころではない。

 レーベンに常駐されたら治安が過剰に良くなりすぎる」


「それは……良いことでは?」


「仕事が減る」


「は?」


 部下が素で聞き返した。


 エルンストは真顔で頷く。


「事件が減れば、私の仕事も減る。

 つまり──暇になる」


「……それは、良いことでは?」


「書類仕事が増える」


「結局増えるんですね……」


 小さくため息が漏れた。


 エルンストは再び書類に目を落とす。


「……子供の失踪、累計十四件か」


 指で数字をなぞる。


「今回の件で一部は戻ったが……まだ足りんな?」


 エルンストは部下に問いかける。


「はい……」


「そして、その背後にいるのが──」


 言葉はそこで止まる、飲み込まれた。


「この規模、この動き……地方の問題ではない」


 エルンストは静かに言った。


「王都の腐敗が、こちらまで流れてきている」


 部下の喉が、ごくりと鳴る。


「……どうなさいますか」


 しばしの沈黙の後、部下が問う。


 エルンストは即答しなかった。


 窓の外を見る。


 そこには、変わらぬレーベンの街。


 人が行き交い、商人が声を張り上げ、

 子供が走り回る。


「……守れる範囲を守る」


 静かな声だった。


「それが領主だ」


 拳を握る。


「勝てぬ戦はしない。

 だが──見過ごしもしない」


 一拍。


「“外”に任せる」


「外……ですか?」


 エルンストはわずかに口元を緩めた。


****


 エルンストはボニフ一行を見送って、これまでに比べ一層深いため息をついた。


「……しかし」


 ふと、エルンストが呟く。


「はい?」


「金貨二十枚では少なかったかもしれん」


「は?」


「もう少し出せば、より働いたかもしれん」


「いやいやいやいや」


 部下が慌てて首を振る。


「十分すぎます!むしろ多いです!」


「そうか?」


「そうです!」


 エルンストは腕を組み、真剣に悩む。


「……次は三十枚にするか」


「まだ出す気なんですか」


「投資は重要だ」


「規模が領主のそれじゃないんですが」


 部下は頭を抱えた。


 エルンストは三人の冒険者、そして子供の背中を見る。


 さらにはそれを通り越した先。


 街の向こう。


 王都へと続く街道の先を。


「さて……」


 静かに呟く。


「風がどう動くか」


 その目は、すでに次の一手を見据えていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ