第33話 都会の空気は様々じゃな
王都へ向かう街道を進むこと数日。
遠くに、巨大な石壁が見えてきた。
「……あれが、王都か」
ドランが思わず息を呑む。
レーベンの街とは比べ物にならん。
石壁は山のように高く、門前には長い馬車の列が続いている。
「すご……」
アリアが馬車から身を乗り出しながら前方を見て小さく呟いた。
「懐かしいです……昔、家族と来たことがあって……
でも、こんなに大きかったかな……?」
アリアの声には、懐かしさと少しの寂しさが混じっていた。
「王都は常に変わる場所じゃからの。
人が集まり、金が動き、噂が飛び交う。
良い意味でも悪い意味でも“中心”じゃ。
昔から、都会とはそういうもんじゃ」
わしは手綱を引きながら答える。
(昔の王都に比べると様変わりしたもんじゃな…)
わしは顎をさする。
(と、いうより完全に別物じゃのぅ)
五百年前と全く異なる風景に、わしは目を細めた。
****
ミナはドランの袖をぎゅっと掴んでいた。
だが、その顔は怯えではない。
懐かしさと、期待。
「ミナ、どうした?」
「うん……まえに、おとうさんと、おかあさんと……
ここ、とおった……」
ミナは胸の前で小さく手を握りしめる。
「……かえってきた、ってかんじ……」
その声は震えていたが、
それは恐怖ではなく、
“帰ってきた実感”の震えじゃった。
「ミナ……」
アリアがそっとミナの背を撫でる。
「大丈夫。絶対に会えるよ。
私たちも一緒にいるからね」
「……うん!」
ミナはぎゅっとアリアの手を握り返した。
(ふむ……強くなったのぅ。
そして帰るべき場所に戻ってきたというわけか)
****
馬車の列がゆっくりと進み、
ようやく門の近くまで来た。
門番が鋭い目でこちらを見てくる。
「旅の者か。
身分証を確認する」
「うむ、これじゃ」
わしとアリア、ドランが身分証を渡す。
門番は手慣れた様子で確認し、
次に馬車の中を覗き込んだ。
「荷物は……ふむ、問題なし。
怪しいものは積んでいないな」
「もちろんじゃ」
門番は頷き、手を振った。
「よし、通っていい。
王都へようこそ」
「おお……」
アリアが小さく感嘆の声を漏らす。
「すごい……本当に王都に来たんですね……」
わしは手綱を軽く引き、馬車を進めた。
****
門をくぐった瞬間、
空気が変わった。
石畳の道、整然と並ぶ建物、
行き交う人々の服装もレーベンとは違う。
「焼き栗だよー! 熱々だよー!」
「旅人さん、宿は決まってるかい!?」
「占いどうだい! 未来が見えるよ!」
門の内側は、外とは比べ物にならんほどの喧騒じゃった。
「……なんか、すごい匂いですね」
アリアが鼻をひくつかせる。
「人が多い場所はこんなもんじゃよ。
食べ物の匂い、香水、馬の匂い……全部混ざっとる」
「うむ……鼻が忙しい……」
ドランが眉をひそめる。
ミナはというとドランの袖を掴んだまま、
きょろきょろと周囲を見ている。
「ミナ、怖くないか?」
「……ちょっと、どきどきする……
でも……はやく、おとうさんとおかあさんに……
あいたい……」
その言葉に、アリアが胸を押さえた。
「……ミナちゃん……絶対に会おうね」
「うん!」
****
「さて、まずは宿を取るぞい。
馬車を停めて、馬を休ませれるところを探そう。
それから今後の動きを決める」
「うむ!」
「了解です!」
「おなかすいたー!」
「ミナはまず食事じゃな」
わしらは王都の大通りへと馬車を進めた。
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