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第32話 馬車を買うぞぃ

 レーベン領主邸を後にし、一旦宿に戻る。


 わしらは宿のロビーで荷物をまとめながら、

 今日の予定を確認しておった。


「さて……王都へ向かう前に、まずは馬車じゃな」


 わしが言うと、アリアが頷く。


「ばしゃ!ばしゃのる!」


 ミナが両手を上げて跳ねる。


 その様子にドランが目を細めた。


「おう、ミナ。馬車買ったら一番いい席に座らせてやるからな!」


「いちばん!」


(ふむ……子供は元気じゃのぅ)


 背後から元気な声が飛んできた。


「おやまぁ、もう出発かい?」


 振り返ると、宿の女将が腕を組んで立っておった。


 相変わらず威勢が良い。


「世話になったのぅ、女将」


「ほんとだよ。あんたらが来てから宿が賑やかでねぇ。

 ミナちゃんなんて、うちの看板娘にしたいくらいだよ」


「かんばんむすめ?」


 ミナが首をかしげる。


「お客さんを呼ぶ可愛い子のことさ。

 ミナちゃんはそのまんまでも十分すぎるくらい可愛いよ」


「かわいい!」


 ミナが自分で言って胸を張る。


「自分で言うんかい……」


 アリアが苦笑する。


 女将はわしらの荷物を見て、

 ふっと表情を和らげた。


「王都へ行くんだろ?

 気をつけてお行き。あそこは広いし、人も多いし……

 良い人もいれば、悪い人もいる」


「心得ておる」


「それと……」


 女将はミナの頭を優しく撫でた。


「この子、ちゃんと守ってあげな。

 あんたらなら大丈夫だろうけどね」


「もちろんじゃ」


 ドランが胸を張る。


「任せてください。俺が絶対に守るからな!」


「うむ、わしもおるしの」


「私もいますよ!」


 アリアも負けじと手を挙げる。


 女将は満足そうに笑った。


「よし、なら安心だ。

 またレーベンに来たら寄っておくれ。

 次はもっと良い腸詰めを出してやるよ!」


「楽しみにしておるぞ」


「ばいばーい!」


 ミナが大きく手を振ると、

 女将も同じように手を振り返した。


「気をつけて行くんだよ!」


 その声を背に受けながら、

 わしらはレーベンの街へと歩き出した。


****


 前にも訪れた馬車屋の前に立つと、

 店の奥から丸太のような腕をした店主が顔を出した。


「おう、いらっしゃい!

 ……って、あんたらか。今日も見るだけか?

 それとも、あれを買うのか?」


 店主は顎で、例の“質素だが頑丈な馬車”を指した。


「もちろんじゃ。買いに来たぞい」


 わしが言うと、親父の口元がニヤリと上がった。


「ほぉ、決めたか。

 見る目があるな。こいつは軽くて丈夫だ。

 街道も森道もいけるし、修理も簡単だ」


「ボニフさん、やっぱりこれにするんですね」


「うむ。

 車輪の木目、軸の金具、床板の響き……

 どれも良い仕事をしておる」


「……なんでそんなに詳しいんです?」


「昔、馬車を三台ほど壊しての」


「それはもういいです!」


 アリアが慌てて遮った。


 親父は腹を抱えて笑う。


「はっはっは!

 まぁ壊すほど乗ってりゃ詳しくもなるわな!」


「ボニフ、すごい!」


 ミナが馬車の中を覗き込みながら言う。


「うむ、もっと褒めてよいぞ」


「調子に乗らないでください!」


 アリアがツッコミを入れる。



「で、馬車は十五枚だが……馬はどうする?」


 親父が店の奥を親指で指す。


「旅用の若い牝馬なら八枚。

 荷物運び用なら五枚。

 歳いってるやつなら三枚で出せる」


「旅用の馬が良いのぅ。王都まで行くでな」


「だろうと思ったぜ。

 ほら、こいつなんかどうだ?」


 親父が連れてきたのは、栗毛の若い牝馬。

 目が賢そうで、毛並みも良い。


「かわいい……!」


 アリアが思わず声を漏らす。


「ミナ、のる!」


「いや、今は乗らんぞ」


 ドランが慌ててミナを抱き上げた。


(ふむ……この馬なら十分じゃな)



「では、馬車十五枚と馬八枚で……二十三枚じゃな」


「うむ、問題ない」


 わしは袋から金貨を取り出す。


 ボニフの七枚

 ギルドの謝罪金十枚

 領主の先行投資二十枚


 合計三十七枚。


 そのうち二十三枚を親父に渡す。


「よし、確かに。

 今日からこの馬車と馬はあんたらのもんだ」


「やったーー!」


 ミナが馬車に飛び乗り、

 ドランが慌てて後を追う。


「こらミナ! まだ準備が」


「ここ、わたしの席!」


「はいはい、そうだな」


 ドランは苦笑しながらミナの頭を撫でた。



「おい、兄ちゃん」


 店主がドランを呼び止める。


「その子、大事にしてやれよ。

 馬車は替えがきくが、子供は替えがきかねぇ」


「……ああ。分かってる」


 ドランは真剣な顔で頷いた。


 親父は満足そうに笑い、

 店の奥へ戻っていった。


****


「さて、御者はわしがやるかの」


「ボニフさんって、本当に何でもできますよね……」


「昔、王都から南の街まで荷馬車を運んだことがあっての。

 御者が酔って寝てしまってな、代わりにわしが」


「御者が酔ってるって、それ大丈夫なんですか!?」


「世の中には酒好きが多いんじゃ」


「ボニフさんの周りだけでは……?」


「む……否定はせん」


 ミナだけが目を輝かせて聞いておる。


「ボニフ、すごい!」


「うむ、もっと褒めてよいぞ」


****


「よし、準備は整ったな!」


 ドランが荷物を締め直し、

 アリアがミナの席を整え、

 わしは手綱を握る。


「では王都へ向けて出発じゃ!」


「おーー!」


「おーー!」


「おーー!」


 ミナまで元気よく手を挙げた──が。


「……ねぇボニフさん」


 アリアがじっとこちらを見る。


「なんじゃ?」


「御者、本当に大丈夫なんですよね?」


「む?」


 一拍。


「馬車を三台壊した人が運転してるんですけど」


「……」


「……」


「……安心せい。今回は壊さん」


「“今回は”ってなんですか!?」


「ばしゃ、こわれるの?」


「壊れん壊れん!」


 ドランが慌ててミナを抱き寄せる。


「絶対壊させねぇからな!」


「うむ、任せるぞ」


「任せるな!!」


 馬車はわずかに揺れながら、王都へ向けて走り出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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