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第31話 こんな貴族もおるんじゃな

 翌朝。


 いつものように宿のロビーで四人顔を合わせる。


「領主に会いに行くんですよね?」


 アリアが言うと、

 ドランは頷いた。


「ルークの話が本当なら、領主は何か知ってるはずだ」


「でも、普通に行って会える相手じゃないですよ?」


「……確かにのぅ」


 わしは顎をさすりながら考えた。


「まずはギルドに寄るかの。

 ガルド殿に目通し願えれば、話が早いじゃろ」


 わしらは席を立ち、ギルドへ向かった。


****


「おはよ〜ございます〜……

 本日はどのご依頼を受けますか〜?」


 リサは今日も気だるげじゃ。


「マスター殿に目通し願いたいのじゃが」


「え〜〜……今ですか〜……?」


 リサは露骨に面倒くさそうな顔をした。


「急ぎじゃ。頼む」


「はぁ〜い……ちょっと待っててくださ〜い……」


 リサは渋々立ち上がり、

 奥へと消えていった。


(やれやれ、相変わらずじゃな)


 しばらくして戻ってきた。


「マスター室、どうぞ〜……」


「助かったぞ」


「別に〜……仕事ですし〜……」


 リサは手をひらひらさせた。


****


「おお、君らか!」


 ガルドは相変わらずの筋肉と笑顔で迎えてくれた。


「こないだの件は本当に助かった!

 で、今日はどうした?」


「少し、相談があっての」


 わしは目的をぼかしつつ話を切り出した。


「先の件で、領主殿にお会いしたいのじゃ。

 直接話すべきことがある」


「領主に?」


 ガルドは眉を上げた。


「理由は聞かんが……

 君らが言うなら、何かあるんだろう」


 ガルドは腕を組み、少し考え──


「よし、口利きしてやる。

 使者を一人つけるから、それを持って行け」


「助かるぞ、ガルド殿」


「気にすんな!

 君らはレーベンギルドの恩人だからな!」


 ガルドは豪快に笑った。


****


 ギルドの使者が同行してくれたおかげで、

 領主邸の門番はすぐに態度を変えた。


「ギルドマスターの紹介……!

 すぐにお通しします!」


 レーベンの領主邸は、豪華というより“堅実”という言葉が似合う建物じゃった。


 無駄な装飾はなく、

 しかし手入れは行き届いておる。


(見栄より実利を取るタイプじゃな)


 門番に案内され、

 わしらは応接室へ通された。


 ほどなくして。


「お待たせした」


 落ち着いた声が響いた。


 入ってきたのは、

 四十代半ばほどの男。


 鋭い目つきだが、威圧感はない。

 むしろ“観察する目”じゃ。


「レーベン領主、エルンスト・フォン・レーベンだ」


 彼は軽く頭を下げた。


「君たちがレーベンにいた闇ギルドを壊滅させた件は知っている。

 まずは……礼を言わせてもらう」


「礼には及ばんよ」


 わしが答えると、

 エルンストはわずかに目を細めた。


「また子供たちの件や副ギルドマスターの件もな」


「……あれは、ひどい話でした」


 アリアが唇を噛む。


「ひどい、か。

 だが──“珍しい話ではない”」


 エルンストは淡々と言った。


「……!」


 アリアが息を呑む。


「私は領民を守るためなら、多少の賄賂も使う。

 裏の情報も買う。

 だが──子供を攫うような真似は絶対に許さん」


 その言葉には、強い怒りが滲んでおった。


(ふむ……善人ではないが、信頼できる男じゃ)


****


「で、本日はどの様な用件かな?」


 エルンストは目を細め、値踏みをするようにこちらを見た。


「今回の件じゃが、どうやらこれで終わりではないらしい」


 エルンストがピクリと反応した。


「何やら"とある貴族"が関わっているという情報を得てな……」


 一拍。


「エルンスト殿が何か知っておらんかと思ってのぅ…」


 エルンストは椅子に腰を下ろし、

 わしらを見据えた。


「なぜ、私がそれを知っていると思ったのか聞いても?」


 わしは軽く肩をすくめた。


「単純な話じゃよ」


 エルンストの視線が鋭くなる。


「まず一つ。

 副ギルドマスターが闇ギルドと繋がっておった」


「……それが?」


「ギルドの副官が裏に落ちるほどの“利”が動いておる。

 単なる下賤の犯罪では釣り合わん」


 一拍置く。


「次に、あの地下施設じゃ」


 アリアとドランが息を呑む。


「設備、規模、薬品……どれも“金がかかりすぎておる”」


「……」


「裏組織単独では維持できん規模じゃ。

 必ず“上”がおる」


 わしはエルンストの目をまっすぐ見た。


「そして決定的なのが──」


 指を一本立てる。


「子供の誘拐じゃ」


「……それがどうした」


 ミナをちらりと見る。


「この子はある貴族の奴隷になっておった。」


 ミナの体が少し強張ったが、わしが頭を撫でると、こっちを見て頷いた。


「単なる裏組織の犯罪ではない。

 貴族が関わっておることは、わしらは最初から知っておった」


 部屋の空気が変わる。


「最後に一つ、ハッタリを言うておこうかの」


 わしは口角を上げた。


「レーベンの中でこれだけの規模の異変が起きておるのに、

 領主であるエルンスト殿が“何も知らぬ”はずがない」


 沈黙。


 わずかに、アリアが息を呑む音。


「知らぬなら無能。

 知っておるなら──動けぬ理由がある」


 わしは静かに言った。


「さて、どちらじゃ?」


 エルンストは深くため息をつく。


「その通りだ。

 私の方でもそれは掴んでいた。

 もっと言えばレーベンだけでなく子供が突如行方不明になったという事件が多発していることもな」


「なのに放置していたんですか!?」


 アリアが机を叩いて立ち上がった。

 

 わしはそれを制してアリアを座らせた。


 エルンストはまた大きくため息をついた。


「放置はしておらん。

 故に調べはしていた。

 だが……ある人物が関わっている事に辿り着いて動けなくなったのだ」


「それを教えてはくれんかの?」


 エルンストは何か思い悩みながら、空を見つめた。


 やがて意を決したように、こちらに顔を向けた。


「君らなら……もしかしたら」


 そう小さく呟き、


「では、その“上の貴族”の名を教えよう」


 エルンストは紙に名前を書き、

 わしらに見せた。


「この者は?」


 エルンストは静かに頷いた。


「王都にいる大貴族、かなりの大物だ」


(……やはり、そう来たか)



「エルンスト殿……

 なぜ動かん、いや動けんのじゃ?」


 わしが問うと、

 エルンストは苦い顔をした。


 彼は机に置かれた地図を指した。


「レーベンは活気こそあるが、小さな領地だ。

 この大貴族を敵に回せば、恐らく私は叙爵。

 または命が狙われる」


 エルンストは両手を合わせながら目を瞑った。

 

「私が死ぬならまだいい方だ。

 最悪は領民が巻き込まれる」


「……!」


「私は領民を守るために、

 “勝てぬ戦はしない”と決めている」


 その言葉は冷たく聞こえるが、

 同時に揺るぎない信念でもあった。


(現実主義者……というわけか)



「だが君たちなら話は別だ」


「わしら?」


「君たちは“外部の冒険者”。

 政治的なしがらみがない。

 そして……実力もある」


 エルンストは机の引き出しから袋を取り出した。


「これは金貨二十枚。

 “先行投資”だ」


「先行……投資?」


 アリアが目を丸くする。


「君たちが動けば、王都の腐敗に風穴が開く。

 レーベンの未来にも関わる。

 だから投資する価値がある」


「それと」


 エルンストは封書を取り出した。


「これは王都の“ある人物”への紹介状だ。

 中立派の重鎮で、腐敗を嫌う人物だ。

 君たちが黒幕を追うなら、必ず力になる」


 エルンストは封筒をわしに渡した。


「レーベンではこれ以上動けん。

 だが君たちなら、道を切り開ける」


(わしらを利用しようとしておる……ということじゃろうが……)


 わしは顎をさする


(乗ってやらん手はないのぅ)


 領主邸を出て門まで歩く。


 着いてきたエルンストに振り返る。


「エルンスト殿。

 紹介状と投資、確かに受け取った」


「頼んだぞ。

 君たちなら、きっと真実に辿り着ける」


 わしらは頷いた。


「行くぞ、皆の者。

 次は王都じゃ」


「うむ!」


「いくーー!」


 ドランは鼻を鳴らし、ミナが右手を挙げた。


「あのーー……」


 アリアが申し訳なさそうに手をちょこんと挙げた。


「どうしたんじゃ?」


「張り切ってるところ申し訳ないですが、まずは馬車を買いましょうよ……」


 一瞬の沈黙。


「……うむ」


 わしは頷いた。


「話が大きくなりすぎて、すっかり順序が飛んでおったわい」


「ばしゃ、ばしゃーー!」


「うむ!」


「いや“うむ!”じゃなくてですね!?」


 アリアが額に手を当てる。


「王都行く前にやること、まだ山ほどありますからね!?」


 さて、気を取り直して王都へ、いや馬車を買いに行くかの。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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