第30話 敵の敵は味方……でもないかのぅ
ギルドでの騒動から一夜明けた。
ミナはまだ不安そうにしておるが、
ドランがずっとそばにいるおかげで、
昨日よりは落ち着いてきたようじゃ。
「……ミナ、今日は外に出るのやだ……」
「ミナはドランの側におるとよかろう。
幸い……と言ってよいかは分からんが馬車の代金も貯まったしのぅ。
馬代はまだじゃが」
わしは昨日もらった謝礼金の袋を取り出した。
「馬車の買いつけにはわしが行っておくぞ」
「わたしもついて行きます。
あとミナちゃんの好きなもの買いましょう」
アリアが優しく笑うと、
ミナは少しだけ表情を緩めた。
(ふむ……子供は強いが、心の傷は深いのぅ)
わしは宿のロビーで、
今日の予定を考えておった。
(ラスティンの死。
黒幕の存在。
そして、ミナを狙う理由……)
考えれば考えるほど、
嫌な予感が胸に広がる。
その時じゃ。
「やあ。久しぶりだね、皆さん」
背後から聞こえた声に、
わしらは一斉に振り返った。
そこに立っていたのは──
ルーク。
黒い外套に、無表情のままの瞳。
以前と変わらぬ、冷たい雰囲気。
「ル、ルーク……!」
アリアが身構える。
「……っ!」
ミナがドランの背中に隠れ、震え出した。
「おっと、そんなに怖がらないでほしいな。
今日は敵じゃない」
「信用できるか!」
ドランが吠える。
「昨日の件……お前らの仲間だろ!」
「仲間? まさか」
ルークは肩をすくめた。
「森での誘導も、罠も、夜襲も……
全部“下っ端”の独断だよ。
ボクは止めたんだけどね。
ああいう連中は、命令を守らない」
(……嘘……には見えんのぅ)
だが、ミナは震えたままじゃ。
「……いや……こわい……」
ドランがミナを抱き寄せる。
「ミナに近づくな……!」
「近づく気はないよ。
というか、ボクはその子の名前も知らないしね」
「……え?」
アリアが目を瞬かせる。
「ボクは“対象の子供”としか聞かされてない。
名前までは知らないよ」
「で、今日は何の用だ」
ドランが低く唸る。
「君たちに“情報”を渡しに来た」
「情報……?」
「ボクは、今回の件で“上”から切り捨てられた」
ルークは淡々と言った。
「本来もらえるはずだった報酬も踏み倒された。
あの場で殺そうかとも思ったんだけどね……」
ルークは口角を上げてマントに隠したナイフをさすって、手を離した。
「ちょっとあの貴族をヤると面倒なこともあってね。
まぁそれはどうでもいいか、
つまりボクはもう、あの貴族の庇護下にはいない」
「……つまり、お前は裏切られたわけか」
「極端に言えばそういうことかな?
だからボクは、君たちと利害が一致した」
「利害……?」
「ボクは“上”に復讐したい。
君たちは“ミナを守りたい”。
目的は違うけど、進む道は同じだ」
(なるほどのぅ……
味方ではないが、敵でもない。
“利害一致の協力者”か)
ルークがドランに視線を向ける。
「君、ドラン君だっけ?
君は知ってるだろうけど
その子を奴隷にしていた“貴族”がいる」
アリアが息を呑む。
「ただ、その貴族は今回の件の“黒幕”じゃない。
もっと上の貴族に切り捨てられたんだ」
「切り捨て……?」
「そう。
だから“回収”の必要はなくなった。
ただし──」
ルークは静かに言った。
「“口封じ”の必要は、まだあるかもね」
「……っ!!」
アリアが青ざめる。
「ふざけんな!!」
ドランがルークに掴みかかろうとしたが。
「落ち着くのじゃ、ドラン」
わしが腕を掴んだ。
(ルークは脅しておるのではない。
“事実”を伝えておるだけじゃ)
「だからこそ、君たちに提案がある」
ルークは淡々と続けた。
「その子の安全を確保したいなら──
“ある貴族”に会ってほしい」
「貴族……?」
ドランの声がさらに低くなった。
「おっと、早とちりをしないで欲しいな。
その子を奴隷にした貴族とは別の人物だよ。
その人は、今回の黒幕に対抗できる。
君たちにとっても悪い話じゃない」
「……取引、というわけか」
「そういうこと」
ルークは視線をわしの方に移した。
(どうかな?って顔じゃな)
わしはふむ、と息を吐いた。
「で、その貴族とは?」
「レーベンの領主だよ」
「領主……?」
「彼はまともな人間だ。
そして、今回の件に“気づき始めている”」
ルークは静かに言った。
「君たちが動けば、領主も動く。
そうすれば黒幕に近づける」
(筋は通ってはおるが……信用はまだ微妙じゃな……)
(じゃが、利用価値はある)
「じゃあ、ボクは行くよ。
その子……いや、ミナだったね。
怖がらせてすまなかった」
ミナはドランの服をぎゅっと掴んだまま、
顔を上げられなかった。
「……またどこかで出会えるかもね〜〜」
そう言い残し、
ルークは手を振りながら静かに宿を出ていった。
「……ドラン……」
ミナが不安げに見上げる。
「大丈夫だ。絶対に守る」
ドランはミナを抱きしめた。
「ボニフさん……どうします?
信用できるんでしょうか?」
アリアが問う。
「決まっておろう」
わしはゆっくりと立ち上がった。
「レーベンの領主に会いに行く。
真実にしろ嘘にしろ、動けば真相に近づけるじゃろ」
ミナは小さく頷いた。
「……わるいひと、ゆるさない……」
(ふむ……強い子じゃ)
さて、貴族か。
昔の貴族にはあまり良い思い出はないのじゃが……
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