第29話 まだ続いておるようじゃ
翌朝。
わしらは衛兵の詰所へ向かった。
ミナはまだ不安そうにしとるが、
ドランがずっと手を握っておるので、少し落ち着いてきたようじゃ。
「昨日は……本当に怖かった……」
「もう大丈夫だ。俺がいる」
ドランが胸を張ると、
ミナは小さく笑った。
(ふむ……子供は強いのぅ)
****
「お待ちしておりました!」
昨日の衛兵が深々と頭を下げた。
「まずは皆さまのおかげで、子供たちは無事保護できました。
本当に……感謝してもしきれません」
「礼はよい。わしらは当然のことをしたまでじゃ」
わしが言うと、衛兵はさらに頭を下げた。
その後昨夜の出来事をかい摘んで報告した。
「それと……ギルドの方にも報告を上げております。
本日、ギルドマスターが直接お話を伺いたいとのことです」
「ギルドマスターが?」
アリアが目を丸くする。
「はい。副マスターの件もありますので……」
(ふむ……ラスティンの処遇か何かかのぅ……)
わしは顎をさすった。
****
ギルドの扉を開けると、
いつもより空気が張り詰めておった。
受付のリサが、珍しく真面目な顔でこちらを見た。
「お、おはようございます……
マスター室でお待ちです……」
「なんか……空気が重いですね」
「まぁ、それはそうじゃろうな」
わしらはマスター室へ向かった。
リサが扉をノックする。
「ガルドさん、お見えになりましたよ〜。」
「おう!入れ!」
扉を開けると──
「おお!君たちが例の冒険者か!」
部屋の奥に、
筋肉の塊のような男が立っておった。
肩幅はドランの倍。
腕は丸太。
顔は笑っているが、目がギラギラしておる。
「わしがギルドマスターのガルドだ!
よろしく頼むぞ!」
「……でかっ」
アリアが思わず呟いた。
ガルドは豪快に笑った。
「はっはっは!よく言われる!」
「さて……昨日の件だがな」
ガルドの表情が一変した。
「副マスターのラスティンが、闇ギルドと繋がっていた。
これはギルドとして、最大級の不祥事だ」
「……やはり、そうでしたか」
アリアが唇を噛む。
「君たちが救ってくれた子供たちの証言、
衛兵の報告、そして現場の状況……
どれを見ても、ラスティンは真っ黒だ」
ガルドは深く頭を下げた。
「本当にすまなかった。
ギルドの者として、心から謝罪する」
「上のもんがそう易々と頭を下げるもんじゃないわい。
結果的にではあるがミナは無事保護出来たしのぅ。
悪いのはラスティンであって、ギルドではない」
「……恩に着る」
ガルドは顔を上げ、
机の上に袋を置いた。
「これは謝罪金だ。
昨日の依頼の分も含めて、金貨十枚。受け取ってくれ」
「十枚……!」
アリアが驚く。
「ギルドとしての誠意だ。
受け取ってくれなきゃ、俺の気が済まん!」
(脳筋じゃが、悪い男ではないのぅ)
その時。
コンコン。
扉がノックされ、
リサが衛兵を連れて入ってきた。
「マスター……例の件で、衛兵の方が……」
「おう、入れ!」
衛兵が一歩前に出る。
「……報告します。
昨夜拘束したラスティン副マスターですが──」
わしらは息を呑んだ。
「牢の中で、死んでいました」
「……!」
アリアが目を見開く。
「な、なんだと……!?」
ガルドが机を叩いた。
「死因は……毒と思われます。
自殺か、あるいは……口封じかと」
衛兵の声は震えていた。
「そんな……」
アリアが呟く。
わしは目を細めた。
(……自ら死ぬような男ではない)
(“殺された”のぅ)
ミナがドランの服をぎゅっと掴む。
「……わるいひと、まだいる……?」
「ミナ、大丈夫だ!」
ドランがミナの頭を撫でた。
(ラスティンが言っておった"貴族"絡みかのぅ…)
わしは静かに息を吐いた。
ガルドが拳を握りしめた。
「君たち……
この件、まだ終わっていないかもしれん」
「まぁ、そうじゃろうな」
「だが今は……その子を休ませてやれ。
君たちも疲れただろう」
「……そうします」
わしらはギルドを後にした。
ミナはまだ不安そうにしておるが、
ドランが優しく抱きしめておる。
(さて……黒幕はどこに潜んでおるのかのぅ)
レーベンの空は晴れておったが、
胸の奥には、まだ重い影が残っておった。
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