第27話 また厄介ごとじゃな
森の奥に続く足跡を見つけたわしらは、
すぐに引き返すことを決めた。
ドランがミナの頭を撫で、
アリアも安堵の息をつく。
(ふむ……しかし、視線はまだ消えておらんの)
わしは背後に漂う気配を感じながら、
森の入口へ向けて歩き出した。
森の空気は相変わらず重い。
魔物の気配は散っておるが、
“何か”がこちらを見ている感覚は消えない。
「……ボニフさん、誰かついてきてません?」
アリアが小声で尋ねる。
アリアも何かしらの気配を感じ取ったようじゃ。
「なんだそりゃ……気味悪いな」
ドランが眉をひそめた。
──カチリ。
乾いた音が、足元から聞こえた。
「ドラン、止まれ!!」
「え?」
わしは反射的にドランの腕を掴んだ。
次の瞬間。
地面の草が沈み、
隠されていた鉄のワイヤーが跳ね上がった。
「うおっ!?」
ドランの足に絡みつこうとしたワイヤーは、
わしが引き戻したことで空を切った。
アリアがミナを抱き寄せる。
「罠……! 森の中にこんなもの……」
「魔物の仕掛けではないのぅ。
人為的なものじゃ。
しかも……最近のものじゃな」
わしは罠の構造を見て、確信した。
「つまり……あの足跡の主が?」
「その可能性が高いのぅ」
ミナは震えながら、わしの袖を掴んだ。
「急いで戻るぞ!」
ドランがミナを抱き上げ、
わしらは足早に森を抜けようとした。
****
森の出口が見えたその時──
“チッ”
木の影から、確かに舌打ちが聞こえた。
わしが振り返ったが、
そこには何もいなかった。
(……やはりおる。わしらを見ておる者が)
嫌な予感が、背筋を冷たく撫でた。
****
ギルドに戻ると、
受付のリサが相変わらず気だるげに書類をめくっておった。
「おかえりなさ〜い……って、あれ? 早くないですか〜?」
「途中報告じゃ。森の奥に人の痕跡があった」
「へぇ〜……人?」
リサは興味なさそうに瞬きをした。
そこへ、ラスティンが現れた。
「お戻りでしたか。どうでした?」
わしらが状況を説明すると、
ラスティンは眉をひそめ、深刻そうに頷いた。
「……なるほど。
では、この依頼は一旦中止とします」
「中止?」
アリアが驚く。
「はい。あなた方の報告を受け、
この依頼は CランクからBランクへ引き上げ ます」
「B……?」
ドランが目を丸くする。
「つまり、あなた方はこれ以上関われません。
危険ですからね」
ラスティンは柔らかく微笑んだ。
だが、その目は笑っておらん。
(……判断が早すぎるのぅ)
(まるで最初から分かっておったような……)
「失敗扱いにはしません。
途中報告として、報酬の三割をお渡しします」
リサが銀貨を数え、袋に入れて渡してきた。
「……なんか、腑に落ちませんね」
アリアが小声で呟く。
「うむ。だが、今は引くしかあるまい」
わしは袋を受け取り、ギルドを後にした。
****
宿に戻り夕食を取りながら、
わしらは今日の出来事を振り返った。
「あの森……絶対なんかいましたよね?」
「うむ。あの視線、間違いなく“人”じゃ」
「ミナ、怖かったか?」
ドランがミナの頭を撫でる。
「……うん。でも、みんながいたから……だいじょうぶ」
ミナは小さく笑った。
わしは懐から、小さな石を取り出した。
「ミナ、これを持っておれ」
「……これ?」
「わしの魔力を込めておる。
もし危険が迫れば、わしに分かるようになっとる」
ミナは大事そうに石を握った。
「ありがとう、ボニフ」
「礼はいらん」
わしはそっとミナの頭を撫でた。
****
宿に戻り、
それぞれの部屋で休むことにした。
わしは寝台に腰を下ろし、
今日の違和感を思い返しておった。
(……ラスティンの反応。森の罠。視線。
どれも繋がっておる気がするのぅ)
その時じゃ。
──ちりん
扉の細工が、勝手に動いた。
(……!)
わしは立ち上がる。
直後。
ガシャァン!!
隣の部屋から、窓の割れる音。
「ミナ!!」
ドランの叫びが響く。
わしは短剣を握り、廊下へ飛び出した。
ドランの部屋の窓は粉々に砕け、
ドランは血相を変えて外を覗いておる。
「ミナが……ミナがいねぇ!!」
アリアも駆けつけ、顔を青ざめさせた。
「ど、どうして……!」
「落ち着け、二人とも」
わしは胸の奥に意識を集中させた。
ミナに渡した石。
そこに込めた魔力が、微かに震えておる。
「……おる。まだ遠くはない」
「魔力の反応は……北東じゃ!」
「行くぞ!!」
ドランが吠え、
アリアが頷き、
わしら三人は夜の街へ駆け出した。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。




