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第26話 森の静けさにしては

 レーベンの街を抜け、北へ向かう街道を歩く。


 昼下がりの陽気とは裏腹に、森へ近づくにつれ空気がひんやりとしてきた。


(ふむ……森の気配が妙に重いのぅ)


 アリアは地図を確認しながら歩き、

 ドランはミナの手をしっかり握っておる。


 ミナは少し緊張しているのか、いつもより口数が少ない。


「この先が……依頼にあった北の森ですね」


 アリアが指差した先には、鬱蒼とした木々が広がっておった。


 森に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 静かすぎる。


 鳥の声も、虫の羽音も、風のざわめきも。


(……これは、自然の静けさではないのぅ)


 しかし、それとは反対に別の種類の音が、聞こえる。


 魔力の淀みもあるようじゃ。


「ボニフさん……魔物、多いですよね……」


 アリアが小声で言う。


「うむ。数だけなら、のぅ」


 わしは茂みの奥で光る無数の眼球を眺める。


 奴らの動きには、野生特有の"迷い"がない。


 獲物を探すというよりは、まるで決められた巡回ルートをなぞっておる機械のようじゃ。


(……ふむ。操られておるか、あるいは"配置"されておるな)


「ドラン、ミナを離すなよ」


「……分かっている。この森、空気が重すぎるな」


 ドランも鼻を鳴らし、槍を構える。


 もう片方の腕の中では、ミナが小刻みに震えながらドランの服をぎゅっと握りしめておった。


「来ます!」


 茂みから魔物達が飛び出す。


 アリアが短剣を振り魔物達を倒していく。


「ふん!」


 ドランはミナを守りながら槍を振り抜く。


 魔物は弱い。


 だが、数が多すぎる。


「囲まれてます……!」


「俺が出る! 貴殿らは下がって……」


 ドランがミナをアリアに寄せながらそう言った。


 アリアがミナを庇うように後ろへ下がる。


 ドランは前に出て槍を構えた。


「また来るぞ!」


 次の瞬間、魔物が一斉に踏み込んだ。


 ドランの槍が唸る。


 一突きで一体を貫き、そのまま薙ぎ払う。


 だが数が多い。すぐに次が詰めてくる。


 アリアも短剣で応戦するが、防戦が精一杯じゃ。


(……動きが妙じゃな)


 わしは一歩も動かず、戦場を眺める。


 無秩序に見えて、どこか“揃っておる”。


 まるで──指示でも受けておるかのように。


 そしてもう一つ。


(……見られておるの)


 森の奥。


 視線。


 確かに誰かがおる。



 だが、まずは目の前じゃな。


 地面に意識を落とす。


(腐葉土、乾燥気味……炭素も十分)


 わしは足元の土へ、ごく僅かに魔力を流した。


 ──分解。


 目に見えぬほど微細な粒子が、静かに空気中へとほどけていく。


 落ち葉、朽ちた枝、土壌──

 それらから抽出した炭素微粒子。


(触媒としては上々じゃ)


 それを魔物の周囲へと集める。


 風はない。


「ボニフさん、下がってください!」


 アリアの声。


 ドランも数に押され、じりじりと後退しておる。


「動くでない」


 わしは短く告げた。


 空気反応、問題なし。


 抽出──。


 ドラン、アリア、ミナ──三人の周囲の空気を固定。


 外部との干渉を断つ。


(これで巻き込みはない)


 結合──。


 再構成──。


 わしは革鞄から薬瓶を取り出し、魔物の方へ投げた。


「ボニフさん、何を──」


 アリアは叫ぶが今は、こっちじゃ。


 魔物が唸る。


 錬金術式展開──。


 効果範囲特定──。


 抽出、そして結合。


 燃える条件は揃った。


「燃える“条件”を整えただけじゃ」


 指先に、わずかな熱を生む。


 ほんの火種程度でよい。


 わしは指を鳴らした。


 ──ボンッ。


 短く軽い音。


 しかし、重い。


 それだけで、一体の魔物が内側から弾けた。


「なっ……!?」


 ドランが目を見開く。


「まぁ、十分じゃな」


 わしが息を吐いた、その瞬間──


 森のあちこちで、連鎖するように爆ぜた。


 ぼん、ぼん、ぼん、と乾いた破裂音が続く。


 高濃度の炭素微粒子と酸素。

 そこに火が入れば、あとは勝手に燃え広がる。


 小さな爆発が、次の爆発を呼ぶ。


 数秒。


 それで終わりじゃ。


 残ったのは、焼け焦げた匂いと、静寂。


 先ほどまでの喧騒が嘘のように消えておる。


「……終わり、ですか?」


 アリアが呆然と呟く。


「うむ」


 わしは軽く頷いた。


「ボニフは、なんというか凄いな!」


 ドランが信じられんといった顔で周囲を見る。


「大したことではない」


 わしは肩をすくめた。


「そこらの土と空気を、少しばかり使わせてもろうただけじゃ」


「……すごい」


 ミナがぱちぱちと目を瞬かせる。


 魔物を片付けた後、わしは地面に目を落とした。


「む……これは」


「ボニフさん、何かありました?」


「人の足跡じゃ。しかも……」


 顔を上げて視線を森の奥へ


 アリアが息を呑む。


「この森の奥に続いてますね……」


 わしは木々の隙間を指差す。


 そこには、

 “誰かが意図的に隠したような道”が続いておった。


「どうするか?さすがにこれ以上はミナを守れんかもしれん」


 ドランがそう言うと、

 ミナがその方向を見て、震える声で言う。


「……やだ……あっち、こわい……」


「ふむ……一旦引き返すかの」


 全員で頷きあう。


(この気配は……まだおるのぅ)


 森に入った時から感じていた不穏な風が頬をかすめた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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