第25話 街の違いは面白いのぅ
馬車工房を出ると昼に差し掛かっておるからか、街の活気が朝よりも出ておるようじゃ。
露店の呼び声、荷馬車の軋む音、行き交う人々のざわめき。
昼のレーベンはラグナールとは比べものにならんほど人が多い。
じゃが、冒険者の数はラグナールの方が多いじゃろうか。
(それにしても賑やかなのは良いが、少々騒がしすぎるわい)
アリアはきょろきょろと周囲を見回し、
ミナはドランの袖をぎゅっと掴んで離さん。
ドランはミナを気遣いながら歩いておるようじゃな。
「ギルドはこの先ですね」
アリアが指差す方向へ歩くと、大きな建物が見えてきた。
扉を押し開けると中は少し騒がしかった。
依頼掲示板の前では何やら揉めておる者もおる。
(ほぅ……ラグナールとは随分と雰囲気が違うの)
わしが周囲を見渡しておると、
突然、ざわ……と空気が揺れた。
「……あれ、ドランじゃねぇか?」
「まだ生きてたのかよ……」
「なんで子供連れてんだ……?」
冒険者たちの視線が一斉にドランへ向く。
ドランは眉をひそめた。
「……気にすんな」
アリアが驚いた顔でドランを見る。
「ドランさんも冒険者だったんですか?」
「まぁな」
****
わしらは掲示板へ向かった。
アリアが眉を寄せる。
《ホーンラビット五体の駆除》
《隣村までの商隊護衛(半日)》
《盗賊団の見張り(危険あり)》
《森の浅い場所の巣の調査》
Dランク依頼にはこのようなものが並んでおる。
どれも報酬は銀貨二十〜三十枚程度じゃ。
「危険度はそこそこありますけど……報酬がちょっと」
アリアが困ったように依頼書を見比べる。
「うむ、効率が悪いのぅ。
これでは中々馬車代には届かんの」
そんな中、アリアが一枚の依頼書を指差した。
「これ……調査だけなら危険度もそこそこですし、報酬も良いですね……」
《レーベン北の森での調査および討伐》
貴族領・レーベン北の森にて魔物の増加が確認されています。
原因の調査および、弱い魔物の討伐を依頼します。
報酬:金貨一枚、討伐した魔物によって買取要相談
依頼主:レーベン北領・管理官
備考:森の奥には立ち入らないこと
それは Cランク依頼じゃった。
「わしらでは受けれんのぅ」
わしがそう言うと、ドランが依頼書をアリアの手から取る。
「俺なら受けれるが……」
「えっ……ドランさん、Cランクなんですか!?」
「まぁ、一応な」
ドランは短く答えるが、少し誇らしげにも見える。
ミナは「ドラン、すごい!」と嬉しそうじゃ。
しかしアリアは困ったように眉を下げた。
「でも……ドランさん一人に任せるのも……それに」
アリアがミナの方を見る。
確かにドランなら受けられるが。
Cランクの依頼ともなるとミナを連れ回すのはちと厳しそうじゃな。
****
「その点についてですが──」
背後から声がした。
振り向くと、
爽やかな笑みを浮かべた男が立っておった。
「失礼。Cランク依頼をご覧でしたか?」
男は丁寧に頭を下げる。
「副ギルドマスターのラスティンと申します」
その視線がミナに触れた瞬間だけ、わずかに鋭くなった。
ミナがびくりと肩を震わせる。
ドランが無言でミナの前に立つ。
ラスティンはすぐに笑顔へ戻った。
「失礼。可愛らしいお子さんですね」
ラスティンは依頼書を見て頷いた。
「臨時パーティー制度をご存じありませんか?」
「りんじ……?」
アリアが首を傾げる。
「パーティーを組んでいる場合、
最も高いランクに合わせて依頼を受けられる制度があります」
ただし、とラスティンは人差し指を立てる。
「もちろん、依頼失敗時の責任は高ランクの方が負いますが……」
と視線をドランに向ける。
「どうでしょうか?」
にこやかな顔をこちらへ向けるラスティンに対し、
「うぅむ、しかしミナもいるしな……」
ドランがミナを見て心配そうな顔を向ける。
「よろしければ任務遂行中はギルドで預かることも可能ですよ?
パーティー制度をご利用の方でしたら、当ギルドには部屋もありますし、職員が見ています」
ラスティンはにこやかにミナへ視線を向ける。
ミナはギュッとドランにしがみつき、
「……みんなと、一緒がいい」
「しかしお子様連れで北の森に入るのは……いくら森の奥まで行かずとも危険を伴いますが……」
ラスティンがそう言うが、
「まぁ、わしらでミナを守ればよかろうて。
そうは危険に晒すこともなかろう」
「のぅ、ドラン」
わしはドランの背中を叩く。
「うむ! そうだな! ミナは俺が守る!」
ドランが鼻を鳴らし、胸を手で叩く。
「そうですか、無理をなさらぬよう」
ラスティンはそうにこやかに言った。
少し顔が曇ったように見えたのは気のせいじゃと思いたいが。
「が、パーティー制度はいいな! 貴殿らが良ければそうしないか?」
ドランはこちらを見やる。
「ドランさんに責任がいくのはちょっと……」
とアリアは言うが、
「まぁ、失敗せんならよかろう。
そっちの方が効率的じゃしな……」
「うむ、では……」
ドランはラスティンに向き合い、制度を利用することを促した。
「むぅ……」
アリアはひっかかりがありそうじゃが、納得した様子じゃ。
ラスティンは受付の方へ視線を向けた。
「では、手続きをしましょう。こちらへ」
****
受付には二つの窓口があった。
一つは長蛇の列。
もう一つは──
「はぁ〜……次の方どうぞ〜……」
気だるげな娘が肘をつきながら書類をめくっておる。
(……やる気のない娘じゃの)
ラスティンが小さくため息をついた。
「リサ、手続きを頼みます。
……もう少しシャキッとしてくれると助かるのですが」
「は〜い……努力しま〜す……」
努力する気はなさそうじゃが、まぁよい。
わしらは 臨時パーティーとして登録され、
Cランク依頼『レーベンの北の森の調査』を開始する。
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