第24話 朝食は摂った方がよいぞ
目が覚める。
窓の外を見ると薄ら明かりが差し込んできた。
窓から街の方を覗く。
まだ人の行き交いは少ないが、一日が始まるという匂いがした。
軽く身支度を済ませて宿の食堂へ行く。
「おはよう! よく眠れたかい?」
宿屋の女将がテーブルを拭きながら、わしへと声をかけた。
「うむ、良い朝じゃの」
「なんだいなんだい。年寄りくさい!
飯は食べるかい?」
「いただこうかの」
まだ朝も早いからか、食卓には二、三人ほどしかおらず静かなもんじゃ。
「はいよ! パンとスープ。
これはうち自慢の腸詰めだよ!
あと飲み物はミルクでいいかい?」
「かまわんよ。ありがたくいただくかの」
「パンはおかわり自由だよ! ごゆっくり!」
威勢の良い女将が笑顔で仕事に戻る。
朝から元気じゃの。
パンを掴む。
ラグナールの街のものより少し硬い。
一口。
硬い──が、美味いな。
「ふむ……」
パンをスープに浸し、そして一口。
(なるほど、そのための硬さじゃな)
次は腸詰め。
齧るとシャクリと良い音をたてる。
「これは美味いのぅ!」
良い焼き加減と歯応え。
噛んだ瞬間に広がる肉汁がなんとも言えん。
(これは良い宿じゃの)
****
しばらく朝食を楽しんでおると食堂に人が増え、賑わいが広がる。
階段の上からドランとミナの姿が見えた。
こちらに歩いてくるところで、軽く声をかける。
「おはよう」
ドランは向かいに座る。
ミナもその隣に腰を下ろした。
「寝れたかの?」
わしの問いに、ドランは肩をすくめる。
「いや。だが……」
少しだけ、口元が緩む。
「ボニフが仕掛けた昨夜の、あの音のなると言ったやつ。
あれのおかげで、いつもよりは気は張りすぎずに済んだ」
わしは頷く。
「ならば良しじゃ」
軽く間を置いてから、言葉を続ける。
「王都までの道中、多少なら番を交代してやらんでもないぞ?」
「気が向いたら頼む」
ドランはふんと鼻を鳴らす。
しばらくしてドランとミナの前にも朝食が運ばれる。
「さて」
わしはパンを置く。
「今日の動きじゃが」
ドランがこちらを見て、ミナが食事の手を止める。
「食べながらでよいぞ」
わしがそう言うと、ミナはまたもくもくと食べだした。
「まずは馬車の確認じゃ」
「金額が……あーん……足りんことは……ほぅこれは!……分かってる……プハァ……んじゃ?」
「食ってから喋らんかぃ」
「ドラン……ぎょうぎわるい」
「うっ! すまん!」
こりゃどちらが保護者か分からんの……
微笑ましくもあるが
「足りんことは分かっとるが実際の金額を確認する。
いくら足りんかは確認が必要じゃろぅ。
それを見てギルドで仕事を受ける」
「うむ、なるほど! 承知した!」
ミナは二人を交互に見ながら、黙々と食事を続けている。
ドランはそれに気づき、わずかに微笑んだ。
****
「先に戻って準備をしてくる。
アリアも連れてくるでな」
そう言って、わしは立ち上がる。
「後ほど宿の前で落ち合おうの」
そうドランに伝え、階段を上がる。
廊下を進み、扉の前で軽くノックする。
「アリア」
「……んー……?」
扉の向こうで微かに声が聞こえる。
もう一度叩く。
「アリア」
ややあって、扉が開いた。
寝ぼけた顔のアリアがこちらを見上げる。
「あれー……? ボニフさん……?」
「起きろ」
「……まだ朝……」
「"もう"朝じゃ」
間を置いてから、今日の予定を伝える。
「これから街を見て回る。
馬車の金額も確認すしたいでな」
「もちろん一緒に行きますよー……」
あくびを噛み殺しながら、軽く手を上げる。
即答じゃな。
「では行くが、その前に……」
「?」
わしは一度、アリアに対し、
上から下に流し見る。
「その格好のままじゃまずかろう」
「……へ?」
アリアは自分の格好を見下ろし──
沈黙。
「きゃああああああ!?」
扉が勢いよく閉まる。
「最初に言ってくださいよ!
ボニフさんのえっち!」
中から怒鳴り声が響く。
「……言わんでも分かると思ったがのぅ」
わしは肩をすくめる。
(三百年以上生きておるわしに、何を)
まぁ、見た目は二十の若造ではあるが。
苦笑しながら待つ。
****
やがて支度を終えたアリアが戻ってくる。
まだ頬は赤い。
そのまま、ジトっとわしを睨んだ。
「……ボニフさんのえっち」
「もうよい」
わしは軽くため息をついて、受け流した。
****
四人で街へ出る。
朝のレーベンの街はラグナールに劣らず、活気に満ちておるようじゃ。
人の流れが多く、商人の声も賑やかじゃ。
「人が結構多いですね」
アリアがそう呟く。
まだ頬を赤くしたまま、時折わしを睨んでくるが。
やれやれ。
****
馬車工房を見つけ中に入る。
ガヤガヤとした工房で、中々にしっかりとしておるのが分かった。
その中の一人に声をかけ、馬車の購入を検討しておることを伝えると、店主を呼びに行った。
ほどなくして、店主がこちらへやってきて馬車の説明をし始めた。
店主が三つの馬車を指差す。
「まずはこれだな。
今うちで一番豪華な造りで座り心地もいいぞ。
金貨二十枚だ」
「わぁ……!」
ミナが目を輝かせる。
「次はこれだろうな。
先ほどとは違い質素だが作りはしっかりしている。
金貨十五枚」
「ふむ、これが一番現実的じゃな」
わしは頷く。
「最後は中古だが、まぁまだ使えるやつだな。
まぁ、整備済みだ。
金額十枚」
「中古で十分じゃないですかね?」
アリアが財布を握りしめながら言う。
「ミナはこれがいい!」
ミナは豪華な馬車を指差す。
「ミナが言うならそれにしよう!」
「いやいやいやいや、金額二十枚ですよ!」
「えー?」
アリアが却下するも、ミナが不満を漏らす。
「待て待て。
豪華な馬車は重い。馬の負担も大きいし、移動速度も落ちる。
中古は状態が分からんし、途中で止まれば余計に金がかかる」
わしは質素な馬車を指差した。
「これが一番効率が良い。
軽くて丈夫、修理も簡単じゃろう」
「……なるほど……」
アリアが納得する。
ミナは少し考えてから、
「じゃあ……それでもいい」
「ミナが言うならそれだな!」
「ドランさんはなんでもいいんですね……」
店主が前に出る。
「今すぐ買うか?
この街に住んでるなら分割も出来るが」
「分割は無理じゃな。
あと、今日は下見じゃ」
店主の顔が曇る……
「じゃが必ず購入するので安心せい。
金が貯まるまではこの街に滞在するでな」
「その間に売れても知らんぞ?」
わしは三人の方へ視線を移す。
アリアとドランは頷く。
ミナはキョトンとしておるが、
「まぁその時はその時じゃな」
「ところで店主よ、馬の値段も聞いておきたいのじゃが」
「お、馬も買うのか? そりゃ話が早い」
店主は店の奥を親指で指す。
「旅用の馬なら金貨八枚。
荷物運び用の馬なら五枚。
ちょっと歳いってるやつなら三枚で出せる」
「八枚……」
アリアが目を丸くする。
「馬車十五枚に馬八枚……合計二十三枚じゃな」
「た、高い……!」
「まぁ旅に使うなら若い馬の方がいいぞ。
王都まで行くならなおさらだ」
店主は腕を組んで頷く。
「馬車だけ買って、馬は後ででもいいが……
馬はすぐ売れちまうからな。気をつけな」
「ふむ、参考になった。助かったぞ」
「まぁ、期待しねぇで待ってるぞ」
店主から声をかけられながら四人で踵を返す
「とは言っても結構かかりますよ? 二十三枚なんて……」
と、アリアは言うが
「わしの七枚を使えばあと十六枚じゃろ」
「いやいやいや、ボニフさんにそこまで負担をかけられませんよ!
それに十六枚も大金です!」
「うむ、ボニフ殿だけではなく俺も出すぞ!」
「ミナもーー!」
「だから十六枚をどう稼げば……いや、もういいですよ……」
アリアが肩を落とす。
(金額十六枚……まぁ、この程度ならどうとでもなるじゃろ)
「ではギルドへ行くかの」
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