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第23話 虫刺されは嫌じゃな

 護衛たちと御者が去り、森の中に残ったのはわしら四人だけじゃった。


 ドランはミナの頭を撫でながら、静かに言う。


「……王都までは、徒歩で何日かかる?」


 アリアが地図を広げる。


「えっと……この街道をまっすぐ行けば五日くらいです。

 でも……さすがに五日間ずっと野宿は……」


 アリアがミナを見て、眉を寄せる。


「ミナちゃんがいますし、野宿は避けたいです」


「うむ。わしも虫に刺されるのは御免じゃ」


 ドランが真剣に頷く。


「ミナは疲れている。休める場所が必要だ」


 アリアが地図を指差す。


「途中に“レーベン”という街があります。

 一度だけ来たことがあって……宿も多いですし、そこで一泊できます」


「そこへ向かうのが良かろう」


 わしが言うと、ドランも頷いた。


「賛成だ」


****


 歩きながら、自然と自己紹介の流れになる。


「そういえば、ちゃんと名乗ってませんでしたね。

 私はアリア。冒険者です」


「わしはボニフじゃ。錬金術師じゃよ」


 アリアは「ああ、またボニフさんのよく分からない肩書きだ」という顔で軽く頷く。


 ドランは素直に首を傾げた。


「れん……きん……じゅつし?」


「まぁ、知らんでも困らん。

 物を作ったり壊したり、ちょっと便利なことができる職じゃ」


「ふむ……よく分からんが、強いのは分かった」


 あっさり受け入れる。


 ミナはきょとんとしたまま、ドランの腕にしがみついている。


「気にせんでよい。名乗りでそう言っておるだけじゃ」


「そうか。なら覚えておく。ボニフは錬金術師だ」


 妙に真面目に頷くドランに、アリアが苦笑した。



 歩きながら、ドランがぽつりと話し始めた。


「……ミナは、貴族の屋敷にいた。

 奴隷として扱われていたらしい」


 アリアの表情が一気に険しくなる。


「……最低です。どうしてそんな……!」


「逃げ出したところを、俺が見つけた。

 そのまま放っておけなかった」


 アリアはミナの頭をそっと撫でる。


「怖かったよね……」


 ミナは小さく頷いた。


 わしは肩をすくめる。


「貴族というものは……五百年前から変わらんのぅ。

 権力を持つと、ろくなことをせん」


「五百……いや、もういいです」


 アリアは完全に流した。


****


 アリアは少し迷ったあと、ぽつりと話した。


「……私にも、妹がいるんです」


 アリアはミナを見る。


「突然いなくなって……今も探していて。

 少しでも情報が欲しくて、王都に向かっているんです」


 ミナが心配そうにアリアを見る。


「……おねえちゃん、だいじょうぶ?」


「うん。大丈夫よ!」


 アリアはミナを見て笑顔で答える。


 ドランが力強く言う。


「なら、俺も手伝おう。

 困っているなら助けるのが当然だ

 それが女、子供ならなおさらな!」


 ドランが鼻息を荒くして胸に手をやる。


「えっ……あ、ありがとうございます……?」


 アリアは少し戸惑いながら、受け入れ……たのかのぅ?


****


 しばらく歩いたあと、わしが言った。


「しかし徒歩では効率が悪いのぅ。

 馬車を買った方がいいんではないか?」


「それは名案だな!

 歩けば着くとはいえ、ミナをずっと歩かせるというのも良くない。

 仮に五日以上かかっても馬車移動の方がよいな!」


「いや馬車なんて簡単に買えませんけどね……」


「ばしゃは、たかい?」


「昔は金貨一枚くらいじゃったから……今だと金貨十枚くらいかの。

 まぁ買えるじゃろ」


「金貨十枚あれば買える馬車は確かにありますけどけど……

 そんな大金ホイホイ使おうとしないでください!!」


 アリアが全力で否定する。


「と、いうかですね。

 そもそもボニフさん、そんな大金持ってるんですか?」


「ふむ……」


 わしは腰の袋から、前に討伐したAランク変異種の報酬袋を取り出す。


 じゃら……と中身を確認する。


「……金貨七枚しかないのぅ」


「意外と持ってる……

 じゃなくてそれでも足りてないじゃないですか!!」


 アリアは完全に呆れ顔。


 ドランは素直に感心している。


「金貨七枚……すごいな。俺はそんなに持っていないな」


「いや、すごいのはすごいんですけど……馬車は買えませんからね!?」


 ミナはきょとんとしたまま、アリアの袖を掴んだ。


「……ばしゃ……かえない?」


「まぁ、足りんのなら依頼でも受ければよかろう。

 次の街でな」


 アリアはため息をついた。


「……まぁ、それはそうなんですけどね……」


 アリアは大声を出しすぎたのかゼェゼェ言っている。


 やれやれじゃのぅ。


****


 日が落ちてきた頃、レーベンの街が見えてきた。


「着いた……!」


 アリアがほっと息をつく。


 ドランは道中で、疲れていたミナを背負っておる。


 街に入り、宿屋へ向かう。


 宿はレーベンの街の入り口付近にあり、すぐに見つかった。


「四人なんですが、部屋を三つお願いします」


 アリアが言うと、宿の女将がにやりと笑った。


「はいはい、そこのお兄さんとお姉さんは一部屋でいいのね?」


「ち、違います! 別々です!」


「まぁまぁ、若いんだから照れなくても……」


「違いますってば!!」


 アリアが真っ赤になり、わしは肩をすくめた。


「わしはどっちでも構わんがの」


「私が構います!!」


 女将が笑いながら鍵を三つ渡す。


「はいはい、仲良くねぇ」


****


 四人で夕食を取る。


 ミナも少し元気を取り戻したようじゃ。


 周囲の気配を探る。


 今のところは妙な気配はなさそうじゃが……


「ドランよ。

 今まで夜中……寝てる時に襲われたりはしてなかったのかの?」


「何度かあったな。全て返り討ちにしてやったが……」


 肉を頬張りながらニヤリと笑う。


「す、凄いですね……」


「しかし今夜はどうする?宿にも迷惑がかかるじゃろうに」


「心配はいらん。いつものように寝ずに番を張るだけ」


「ドランさん……一体いつ寝てるんでしょうか?」


 アリアは首を傾げる。


「ふん、真の戦士は寝なくても平気なものよ!」


「……そんなことあるんですかね?」


「あるわけなかろぅ……」


「ミナ、ねむくなってきた……」


(ふむ……念のため、扉に“音が鳴る細工”でも仕込んでおくかの)


 わしはドランとミナの部屋のドアの内側に、小さな金属片をそっと貼り付けた。


 開けば“ちりん”と鳴るだけの、昔ながらの盗賊避けじゃ。


「……そんなの持ってたんですか?」


「ただの気休めじゃよ。

 何もせんよりはマシじゃろ」


「十分だ。俺も起きて見張る」


「ドランさん……本当に寝てくださいよ……?」


「ミナがいる。寝ていられん」


 ミナはすでに半分眠っており、ドランの腕にしがみついている。


(まぁ、これなら寝込みを襲われても気づけるじゃろ)

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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