第22話 歩くしかないのぅ
戦いが終わり、森に静寂が戻った。
護衛たちは地面に座り込み、荒い息を吐いている。
致命傷こそないが、全員が満身創痍じゃ。
「……ったく、なんなんだよ……」
「俺ら、死んでてもおかしくなかったぞ……」
「はぁ……ギルドに戻ったら酒奢れよ……」
軽口を叩ける程度には回復してきたようじゃ。
旅芸人がようやく目を覚まし、きょろきょろと周囲を見回す。
「……え? え? 俺、生きてる……?」
「気絶してただけじゃよ」
旅芸人は安堵の表情を浮かべた。
御者は倒れた馬を見て、深いため息をついた。
「……馬はダメだ。車輪も壊れてる。
こりゃあ、もう動かんね」
わしは馬車を見る。
部品が幾分か焼け焦げておる。
(構造が変わっておるな)
抽出、再構成──……
いや。
素材が、足りぬな。
それに。
(馬がおらぬのであれば、客車を治しても意味がないの)
わしは錬金術式を使うのをやめた。
御者は立ち上がって言った。
「悪いが、俺は元の街に戻らせてもらう。
歩きになっちまうが….…」
続いて《三つ葉の盾》のリーダーらしき男も頷く。
「俺たちもギルドに戻りてぇ。
怪我もひでぇし、依頼の報告もしなきゃなんねぇ」
アリアがわしの袖を引く。
「ボニフさん……どうします?」
「ふむ……」
わしは周囲を見回す。
ドランは少女──ミナの隣に座り、静かに頭を撫でている。
ミナはまだ怯えているが、ドランの腕の中では少し落ち着いているようじゃ。
アリアはミナを見つめながら、どこか遠くを見るような目をしていた。
(少女に妹の影を重ねておる、のかの)
護衛たちがこちらへ歩いてくる。
「で、あんたらはどうする?
街に戻るなら護衛するぜ。
……まぁ、あんたらの方が強そうだがな」
わしはアリアを見る。
アリア少し俯く。
「……私は」
顔を上げて、続けた。
「このまま王都へ向かいます」
その表情には、強い決意が宿っていた。
妹を探すため。
その思いが、言葉よりもその目から強く伝わってくる。
それを見て、理由は分からぬだろうが何かを察したのか、《三つ葉の盾》の男は頷いた。
「そうか……なら、気をつけて行けよ。
どっかでまた会えたら、飯でも奢ってやる」
そして、ドランからわしに視線を流し。
「あんたらがいなかったらやばかった。
護衛としちゃ情けねぇ限りだが──」
リーダーの男はそこで区切り、他の二人のメンバーに視線をやった。
「「「ありがとう」」」
三人は同時に頭を下げた。
(中々に気持ちの良い冒険者じゃな)
軽口を叩いてはおったが腕はそこそこ達者じゃった。
恐らく冒険者としてのプライドもあるじゃろう。
しかしこやつらは冒険者に必要なものを知っておる。
任務に忠実であること、されど生きること。
あの男──ルークと言っておったが。
あやつにやられても逃げず、そしてわしらに頭を下げる。
五百年前の有名な冒険者も、漏れなくそういった矜持を持っておったものじゃ。
わしは《三つ葉の盾》の面々を見て、頷いた。
「命があれば、また会えるじゃろう」
「あぁ、そうだな」
「何かとびきり美味い飯でも考えておいてくれると助かるでな」
「ははっ!」
わしが言うと、ようやく男は笑顔を見せた。
「飛び上がるくらいなオススメを奢ってやるよ」
「達者でな」
「あんたらも気をつけてな」
護衛たちは手を振り、御者と共に元来た道を戻っていった。
旅芸人も肩をすくめる。
「命あってのものだしな……俺も街に戻るよ。
王都はまた今度だ」
そう言って護衛たちの後を追った。
****
残ったのは、わしとアリア、ドランとミナの四人。
ドランがこちらを見た。
「……お前たちは、こっちに来ていいのか?」
わしは内心で肩をすくめる。
(別に一緒に同行する……と言った覚えはないんじゃが……)
だがアリアがすぐに言った。
「目的地は同じなんですから!
一緒に行きましょう!」
わしの方を見て、同意を求めるような目を向けてくる。
「……やれやれ。
まぁ、引き返す理由もないしの」
ドランはミナの頭を撫でながら、小さく頷いた。
「……助かる」
ミナも、アリアの方を見て小さく微笑んだ。
さて、王都まではどのくらいの距離なのじゃろうな……
五百年前とは変わった風景にを前に、全く予想がつかぬわしは顎をさすった。
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