第20話 馬車の揺れは眠くなるのぅ
王都へ向かう街道を、乗合馬車はのんびりと揺れながら進んでいた。
木製の車輪が土を踏みしめるたび、ぎしりと軋む音が響く。
わしとアリアは向かい合う席に座っておる。
「王都って、どんなところなんでしょうね?」
アリアが少し緊張した声で尋ねてきた。
「今はどうか分からんが、昔は静かでの。
学者も多く、図書館も立派で──」
「昔?」
「いや、なんでもない」
アリアがじとっとした目を向けてくる。
「ボニフさんって、時々変なこと言いますよね」
「気のせいじゃ」
そう言って視線を外すと、隣の席の旅芸人風の男がにやりと笑った。
「王都の話かい? 今は祭りの準備で賑わってるらしいぜ」
「お祭り……いいですね」
「まあ、俺みたいな芸人には稼ぎ時ってやつよ」
軽口を叩きながら、男は楽器をぽろんと鳴らす。
その音に、馬車の奥で小さく身を縮めていた少女がびくりと肩を震わせた。
その隣には、妙に大きな影。
リザードマンの男が、少女を包み込むように座っておる。
無口で、視線はずっと外へ向けられている。
体格は馬車の天井に届きそうなほど大きい。
(……護衛ではなさそうじゃの。少女を守っておるようにも見えるな)
わしはそう判断した。
アリアも気づいたのか、ちらりと少女を見て表情を曇らせる。
御者は黙々と手綱を操り、護衛たちは退屈そうに外を眺めている。
外の天気は暖かく、馬車の揺れが心地よく眠気を誘う。
……ところだった。
馬が耳を立て、前方を警戒するように鼻を鳴らす。
馬車が止まり、御者が叫ぶ。
「と、盗賊だ!!」
少女が怯えたようにリザードマンの腕を掴む。
アリアは短剣に手をかけるが、明らかに動揺している。
旅芸人が不安げに周囲を見回す。
「お頭、この馬車であってるんですよね?」
「そうらしい。金になる子供がいるってな」
「お前ら、痛い目に遭いたくなければ馬車を置いてとっと逃げな!
ただし!」
「子供がいれば、そいつはこちらへ引き渡してもらおう」
その言葉で、リザードマンが抱える少女に視線が集まる。
リザードマンは鼻を鳴らし、目線を鋭くした。
「まぁまぁトカゲのダンナ。そうイキリたちなさんな」
護衛のリーダーらしき男がリザードマンへ声をかける。
「ボ、ボニフさん……これって大丈夫なんですかね?」
(お主もまがりなりにもDランク冒険者じゃろうに……)
そう思いつつも、護衛たちの装備と動きを見れば十分判断できる。
「まぁ、問題ないじゃろう」
護衛達が前に出る。
「俺たち《三つ葉の盾》に任せときな!」
弓使いの男が客人達へ投げかける。
「客は伏せてろ! 俺たちが片付ける!」
「御者、馬を抑えろ!」
軽口を叩いていた護衛たちが、今度はきびきびと動き出す。
剣を抜き、馬車の前へ飛び出すその動きは、恐らく中堅以上の冒険者のソレじゃろう。
わしは座ったまま、外の様子を眺める。
森の影から、粗末な革鎧を着た男たちが数名飛び出してきた。
「大人しくしてれば痛い目に合わずに済んだものを」
ざっと見て十人ほど。
が──
「おいおい、子供狙いかよ! 胸糞悪ぃな!」
「言ってろ! 俺たちは金になる話を聞いただけなんでな!」
「とにかくお前らみたいなクズは捕まえてやるから覚悟しな!」
「うるせぇ! やっちまえ! ただし子供は殺すなよ!」
剣が交錯し、金属音が響く。
護衛三人は思った以上に強かった。
盗賊の剣を弾き、蹴り飛ばし、後衛から矢を飛ばし、次々と盗賊達を戦闘不能にしていく。
「ほらよっ!」
「甘ぇんだよ!」
「おらぁっ!」
軽口を叩きながらも、動きは鋭い。
数の上では盗賊が多いが、質では護衛が勝っている。
アリアはその様子を見て、少しだけ落ち着いたようだ。
「す、すごい……護衛さんたち、強いんですね……」
「当然じゃ。護衛とはそういうものじゃ」
わしは腕を組んだまま、戦況を見守る。
盗賊たちは次々と倒れ、残った者たちは焦り始めた。
「ちっ……話が違うぞ! こんな強ぇ護衛がいるなんて聞いてねぇ!」
盗賊たちが後退し始める。
護衛の一人が剣を構えたまま叫ぶ。
「逃がすかよ!」
襲撃に終わりが見え始めた時──
(……なんじゃ?)
違和感。
わしは腰を浮かす。
と同時に、リザードマンの男も立ち上がった。
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