幕間1 出発前夜はかしましい
夕方のギルド。
人の出入りも落ち着き、どこか間延びした空気が漂っている。
「……で?」
エルマが頬杖をつきながら言った。
「本当に行くの?」
「……はい」
アリアは少しだけ背筋を伸ばす。
「王都に」
「ふーん……」
興味なさげに見えるが、視線はしっかりこちらを見ている。
「危ないわよ?」
「それは……分かってます」
「絶対分かってない顔ね」
「そんなことないです!」
思わず強く言い返す。
「妹の手がかりがあるかもしれないんです」
少しだけ、間。
エルマが息を吐いた。
「……まぁ、そう言うと思った」
肩をすくめる。
「止めても無駄そうだし」
「はい」
「はいじゃないのよ」
軽く睨まれる。
だが、その表情はどこか柔らかい。
****
「それにしてもさ」
エルマがにやりと笑う。
「ボニフと一緒ってどうなのよ?」
「え?」
「いや、あいつよあいつ」
顎で外を指す。
「なんかよく分かんないやつ」
「よく分からないって……」
否定しきれないのが困るところだが。
「強いのは分かるけどさぁ」
「……はい」
「なんかこう……胡散臭くない?」
「……ちょっと思います」
「でしょ?」
即座に食いつく。
「なのについてくの?」
「それは……」
言葉に詰まる。
だが。
「助けて、もらいましたから」
静かに言う。
「それに……」
少し迷って。
「悪い人じゃないと思います」
「へぇ?」
エルマが目を細める。
「随分信用してるじゃない」
「……分かりませんけど」
一拍。
「でも、一人で行くよりは……」
「マシ、か」
「はい」
「……まぁいいわ」
エルマが椅子にもたれかかる。
「死ぬんじゃないわよ」
「縁起でもないこと言わないでください!」
「冒険者なんだから当たり前でしょ」
けろっと言う。
「あとさ」
じっと見る。
「ちゃんと帰ってきなさいよ」
「……はい」
小さく、頷いた。
****
「エルマ」
横から声。
「仕事が滞っています」
「え、今いいところ──」
「仕事が滞っています」
「……はーい」
渋々と書類に手を伸ばす。
「もう、空気読んでよね……」
「読みました」
「嘘つき」
淡々としたやり取り。
思わず、少しだけ笑ってしまう。
「……アリア」
ミレイがこちらを見る。
「はい?」
「準備は抜かりなく」
「はい」
「そして──」
一瞬だけ、間。
「無理はしないことです」
「……はい」
静かに頷く。
騒がしくて。
少しだけ、温かい時間だった。
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