表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第一章 王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/77

第16話 ちと、拙いかの?

 ローブの男が、舌舐めずりをしてニヤリと笑った。


 舌が歯をなぞる音が、やけに耳につく。


「いくぞ?」


 言葉と同時。


 間合いが消える。


 踏み込みの予備動作が、ない。


 気配が跳ねた瞬間には、すでに目の前。


 ──速い。


(……良い脚じゃな)


 視認はできる。


 だが、“余裕”はない。


 横薙ぎ。


 軌道は低い。


 胴を狙う、刈り取り。


 受けん。


 刃を合わせず、滑らせる。


 角度だけをずらし──流す。


 金属が擦れる。


 火花が散る。


 そのまま一歩、引く。


 距離を作る。


「おいおい、逃げてばっかか?」


 笑いながら、再び踏み込んでくる。


 間髪入れぬ連撃。


 一。


 右上からの斬り下ろし。


 二。


 返す刃で横薙ぎ。


 三。


 踏み替え、突き。


 速い。


 連続して、淀みがない。


 じゃが──全て、紙一重で躱す。


 最小限。


 必要最低限の動きだけで。


 じゃが、その代償に距離が、詰まる。


(……やはり速いの)


 踏み込みの強さ。


 重心移動。


 無駄がない。


 純粋な身体能力は、あちらが上。


 真正面から受ければ、押し切られる。


「どうした? さっきの威勢はよぉ」


 刃が頬を掠める。


 皮膚が裂ける感覚。


 遅れて、熱。


 血が一筋、流れる。


「ほれ、当たったぞ?」


「浅いの」


 短く返す。


 その瞬間。


 わしの袖が、かすめた。


 ほんの一瞬。


 触れたかどうかの接触。


「……?」


 男の眉が、わずかに動く。


 違和感。


 しかし、確信には至らぬ。


 すぐに笑みに戻る。


「なんだ今の。反撃のつもりか?」


 踏み込み。


 再加速。


 床を蹴る音が連続する。


 乾いた石が鳴る。


 次の斬撃。


 縦。


 速い。


 しかし──単調。


 読みやすい。


 わしは体を捻り、躱す。


 そのまま──体勢を崩す“フリ”。


 重心を流す。


 隙を見せる。


 誘う。


 男の目が、わずかに光る。


 食いついた。


 その瞬間。


 肩に、触れる。


 軽く。


 擦るだけ。


「チッ……!」


 舌打ち。


 男の反応が早い。


「ちょろちょろしやがって!」


 追撃。


 今度は踏み込みが荒い。


 力任せ。


 だが速度は落ちぬ。


 床を蹴る音が、重なる。


 連続。


 圧。


 押し潰すような攻め。


 速い。


 わしは後退する。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 足運びは軽く。


 だが、確実に押されておる。


「逃げてるだけじゃねぇか!」


 嘲笑。


 唾が飛ぶ。


 その通りじゃな。


 今は、それでいい。


 壁際。


 背後に石。


 逃げ場が消える。


 振り下ろし。


 力を乗せた一撃。


 直撃すれば終わり。


 半身で避ける。


 刃が空を裂く。


 風圧が頬を叩く。


 同時に──壁に手をつく。


 石の感触。


 冷たさ。


 ざらつき。


(……よし)


 位置は、十分。


「終わりだ」


 男が笑う。


 歯を剥く。


 勝ちを確信した顔。


 大振り。


 振り下ろし──


 わしは踏み込む。


 前へ。


 懐へ。


 死地へ入る。


 刃の内側。


 最も危険で、最も安全な場所。


 一閃。


 最短距離。


 無駄のない斬撃。


 浅い。


 じゃが──確実に斬った。


 手応え。


「……チッ」


 男の顔が歪む。


 怒り。


 苛立ち。


「しつけぇな!」


 次の瞬間。


 蹴り。


 腹部へ。


 重い。


 衝撃。


 わしの体が弾かれる。


 床を滑る。


 距離が開く。


 呼吸を整える。


 乱れてはおらん。


 問題ない。


「……なんだ、やりゃできるじゃねぇか」


 男は口元を歪める。


 楽しんでおる。


 獲物が抵抗することを。


「でもよぉ──」


 一歩。


 踏み込む。


 圧が増す。


 空気が重くなる。


「期待外れだな」


 ──消える。


 視界から。


 完全に。


(……来る)


 予測。


 位置。


 首元。


 そこへ──刃。


 横から。


 わしは、かろうじて躱す。


 遅い。


 紙一重。


 風が頬を裂く。


 血が飛ぶ。


「ほらほらどうした!」


 連撃。


 速さが、さらに上がる。


 今までで最速。


 防戦一方。


 受けない。


 避ける。


 流す。


 距離を取る。


 逃げる。


 走る。


 足音が響く。


 石が鳴る。


 空気が裂ける。


「はは! いいねぇ、その顔!」


 男が笑う。


 完全に、遊んでおる。


 狩りを楽しんでおる。


(……十分じゃな)


 わしは、足を止める。


 ぴたりと。


 動きを切る。


「ん?」


 男が首を傾げる。


 予想外。


 違和感。


 その一瞬。


 わしは小さく息を吐いた。


 整える。


 切り替える。


「……まぁ、こんなものかの」


「は?」


 意味が届く前に。


 空気が、変わる。


 逃げていた側の気配が──消える。


 代わりに。


 静かな圧が、満ちる。


 わしは、再び構えた。


 今度は受ける側ではない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ