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【錬金術師の再臨】〜錬金術が消えた世界で、わしの知識だけが規格外だった〜  作者: 新生浮世
第三章 帝国編

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第129話 筋が通っていても違和感はあるものじゃ

 帝都で一泊し翌朝。


 サーシャと共に昨日行った中央区へと向かう。


 政治部の区画へと入ると複数の役人が働いておるのが見えた。


 机に向かい書類を捌いておる者や、そこかしこで走り回っておる者。


「かなり慌ただしい場所みたいですね」


 アリアがその光景を見た感想を言った。


「帝都の行政局は大体こんな感じであります」


 サーシャはアリアの言葉にそう返した。


「あら、サーシャじゃない。何? 遂に中央に復帰すんの?」


 一人通りがかった女性が、サーシャに気付き立ち止まって言った。


「ハンナさん。お久しぶりであります。

 自分はまだバリスの文官のままであります」


「なんだ、いじりキャラが戻ってくるのかと思ったのに」


 ハンナと呼ばれた女性は帽子の上からサーシャの頭をグリグリとして遊んでおった。


 どうやら、サーシャはいじられておるようじゃな。


 その様子からは差別ではなく、愛されておるようにも感じた。


「ハーフでも帝都じゃそこまで偏見がないのか?」


 ドランが小さい声で言うと、ハンナがピクリと反応し、こちらを見た。


「サーシャ。この人たちは?」


「わわわ! あの、えーと、グランゼール王国の貴族名代様方であります。

 自分は今、この方々の案内役としての任を全うしているところであります」


 サーシャがわしらをそう紹介すると、ハンナは姿勢を正してわしらへと一礼した。


「遠路はるばるご苦労様です。

 サーシャの案内じゃ拙いところもあったでしょうが、いい子なのでいじめないで下さいね」


 ハンナはサーシャの頭を相変わらずグリグリしながらそう言った。


「サーシャさんの案内には助かっています。

 特に心配はいらないですよ」


 アリアがハンナの言葉にそう返すと、ハンナは「そっか」と言って安堵の表情を浮かべた。


「で、今日はなんか用事? 名代の方がうちの見学か何かをするのかしら?」


 ハンナがサーシャにそう聞くと、サーシャは「あっ」と声を上げた。


「ハンナさん、"マイルズ様"に用事がありまして。

 自分の部署でないでありますから、どこにいるか教えて欲しいであります」


 サーシャがそう言うと、ハンナは露骨に嫌そうな表情に変わった。


「マイルズぅ? あの偏屈で嫌味な奴ね。

 あっちの奥にいるんじゃない?

 いつも自分は動かずに部下に命令ばっかりしてるから」


「あまり良い上司じゃないでありますか……」


「あんな嫌な奴の下で働きたい人いないんじゃない?」


 ハンナの言葉にサーシャも少し困った表情になった。


「し、仕事でありますから、気を引き締めて行くであります」


「ま、仕方ないだろうけど、気をつけてね。

 また今度一緒にランチでもしよ」


「ありがとうであります」


 ハンナはそう言って立ち去り、サーシャはハンナに手を振った。


「さて、ボニフ様方。行くであります」


 その言葉に頷き、サーシャの後ろをついて行く。


 扉の前で立ち止まり、サーシャがノックをすると中から明らかに不機嫌そうな声で「誰だ?」と聞こえた。


「地方行政局、関門都市部所属のサーシャであります。

 マイルズ様への重要な書類を持参したであります」


 サーシャが扉越しにそう言うと「入れ」とだけ聞こえた。


「失礼するであります」


 サーシャはわしらの方へ振り向き、目で合図をした。


 一緒についてきて入れということじゃろう。


 扉を開くと、中年の男性が部屋の奥にある立派な椅子に腰深く座っておった。


「で、書類とは?」


「こちらであります」


 前置きもなく本題を聞いたマイルズはわしらをチラリと見つつ、サーシャに書類を促した。


「これは誰からだ?」


 封書の表と裏を訝しみながら眺め、そう聞いた。


「陛下の"直轄組織"に所属する方からであります」


「直轄だ? なんで、そんな方からお前のような奴が使いに……」


 マイルズはぶつぶつと言いながら封書を開き中身を確認する。


 中身を見ながら表情を変え、わしらと手紙を交互に見ておる。


("囮"と言っておったし、碌なことは書かれておらんじゃろうな)


 わしはそう考えながらも、王国貴族の名代である佇まいを意識した。


 他の三人はどうしておるかまでは確認できんかったが。


 マイルズは内容を確認し終わると、手紙をたたみ、封書に戻す。


「サーシャと言ったな」


「はいであります!」


「ここまで王国の名代の案内ご苦労であった」


「恐縮であります!」


 マイルズは笑顔になり、サーシャに労いの言葉を投げかけた。


(目は笑っておらぬがな)


「これよりお前の案内役としての任を解く」


「はい?」


 マイルズが笑顔を崩さずそう言うと、サーシャはらしからぬ声を上げた。


「自分はニクソン代官の命で動いているであります。

 軍の下でありますから、その任を行政局で解かれるというのは──」


「お前はどこの所属だ?」


 サーシャが言葉を続けようとしたが、途中でマイルズが口を挟んだ。


「……地方行政局であります」


「そうだろう。つまり軍代官の命令より局の部長である私の命の方が優先される」


「しかし自分の所属は関門都市の──」


「そこは私が話を通しておく」


 またも途中で言葉を遮られ、マイルズは有無を言わせなかった。


「あ、あの、ではボニフ様方の案内は……」


 サーシャはわしらをチラリと見た。


「お前と言う案内役は、下手をすると王国の貴族名代の"監視役"にも捉えられる。

 それは帝国から王国への敵対行為とも見られかねん。

 帝都では自由に視察してもらうが良いだろう」


 マイルズはそう言って、サーシャの案内役をどうしても降ろしたいように聞こえた。


(筋が通っておるようにも聞こえるが、"不自然"じゃな)


「お前は奥の部屋で待機だ。あとで案内役としてのこれまでについて聞いておく必要があるのでな」


「そ、そうでありますか……」


 サーシャは不満そうな表情をしつつ、これ以上は逆らえないと悟ったように呟いた。


「ボニフ様方、自分の案内はこれまでであります。

 もっとしっかり案内役として働きたかったでありますが」


 シュンとした様子で、わしらの方に振り向きサーシャが言った。


「そう、ですね。サーシャさんにはサーシャさんの仕事や用事もありますし……。

 これまでありがとう。案内役助かりました」


 アリアは少し煮え切らない表情をしつつ、サーシャにそう言いながら礼をする。


「わわわ! とんでもないであります!

 こちらこそでありまして……」


 サーシャは手をバタバタさせながらアリアよりも深く礼をした。


「まぁ、サーシャのおかげで美味い飯も食えたしな」


「えぇ。サーシャ殿のおかげで帝国の文化も堪能できました」


 ドランとフレインもそう言うと、サーシャはさらにワタワタとした。


「サーシャ。バリスから帝都まで案内助かったの。

 お陰で良い公務が出来た。感謝するぞい」


「ボニフ様方……」


 サーシャはわしらの言葉に名残惜しそうにしておった。


「自分も案内を通じて、逆に良い勉強になったであります!

 自分の案内はここまででありますが、ボニフ様方のこれからの公務の安全を願っております」


 サーシャは声を大きくして、わしらにそう言った。


 わしらはその言葉に頷き、再度礼をした。


「では、自分はこれで失礼するであります」


 サーシャはそのまま、マイルズに指定された奥の部屋へと向かっていった。


****


「さて、王国の貴族名代の方々」


 マイルズはサーシャが部屋から出て行ったのを見届けると早々に口を開いた。


「帝都までの道中、そして名代としての公務に関し、"監視付き"で実施されたことを代表してお詫び申し上げる」


 マイルズはそう言い一礼した。


 じゃが、その言葉通りに受け取るべきかは疑問が残るところじゃ。


「これよりは監視付きではなく、ご自由に帝都をご覧になってください。

 ただし中央区や帝城付近は立ち入り禁止ですので、それだけはお守りいただけると助かります」


「うむ。承知した」


 わしがマイルズの言葉にそう返すと、マイルズは変わらず張り付いた笑顔で頷いた。


「では、私も仕事がありますので、あなた方もご退出願います。

 中央区から臣民区画への道はお分かりになりますか?」


「問題ない」


 言外に、早くここから出ていけ……と、そう言っておるようにも聞こえた。


 わしらも"囮"としてはここでやる事もなさそうじゃし、素直に撤退する方が良さそうじゃな。


「では、わしらも失礼するかの」


 わしらはそのまま政治部区画から出ることにした。


****


「なんか変じゃねぇか?」


 中央区から出て、ドランがそう言った。


「うむ。いきなり監視をせずに帝国を自由に見ても良い……じゃからの」


「サーシャさんに監視されている感じもなかったですけど」


「ご本人にはなくても実際にそういった役割もあったのかもしれませんが……」


 アリアの感想にフレインがそう言った。


「監視としてニクソン代官が案内役に、というのは間違いないじゃろうがな。

 じゃがそれは帝国で工作を防ぐ、という意味合いの方が強かったはずじゃ」


「もともと工作なんてする気もないですけどね。

 ですが、やはりいきなり案内役がいなくなる、というのは」


「だよなぁ」


 わしらは違和感を覚えつつ、宿へ戻った。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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