第126話 時には待つことも必要じゃろう
「帝国一の宿に泊まれるとは夢のようであります」
サーシャは声を弾ませながら部屋へと入る。
「公務に行く時や案内が必要な時はいつでもお声がけくださいであります」
サーシャの言葉に頷き、サーシャと別れる。
「わしらも一度部屋へ入るかの。話はその後じゃ」
「あとでボニフの部屋だな」
わしの言葉にドランがそう言うと、アリアとフレインも頷いた。
わしが鍵を扉に差し込むと、魔力の波動が流れるのが分かった。
ほんのわずか、微かな波動のため普通には気付く者は少ないじゃろう。
「これは扉の方にも、じゃな」
扉を開けると、広々とした部屋に最高級と思われる寝具や調度品が目に入る。
部屋の中を確認したが、それらしいものは特になかった。
「鍵と扉、それから昇降機くらいかのう」
そこかしこにあるわけではない。
じゃが、部分的に使用されておる形跡はある。
しばらく考えておると、呼び鈴が鳴る。
扉を開けて三人を招き入れた。
「部屋の中は同じなんですね」
アリアが部屋を見渡して言った。
「ボニフ殿、錬金術の跡というのは?」
フレインは早速切り出した。
わしらは部屋にあったテーブルを囲むように座る。
「昇降機のレバーと同時に魔力の波動が発動しておった。
恐らくはトリガー式の現象発動術式の応用じゃな」
「なんだそりゃ」
わしが言うと、ドランが首を捻った。
「まぁようするに、レバーを引くというきっかけで昇降機が動くための力が発動するという錬金術が使われておる」
「へぇー。錬金術ってそんなことも出来るんですね」
「可能じゃな。細かい説明は省くがの」
アリアの問いに、わしはそう答えた。
「しかし、錬金術は教団の手によって世界から消されたはずでは」
フレインはファルネスの説明にあった教団の歴史の話を思い出しておるようじゃ。
その言葉にわしも頷く。
「つまり、帝国に教団がおる。
または教団の持つ錬金術の知識を、帝国が利用しておる。
そのどちらかじゃろう」
「錬金術がまだ失われてないってのはないか?」
「その可能性も否定は出来ぬな。じゃが帝国内で使用されておるのであれば、確率は低そうじゃの」
ドランの質問に、わしは可能性を除去した。
普通に使われておれば、王国にも伝わっておる可能性は高い。
交易が盛んと言われておる帝国ならなおさらじゃ。
「それにバリス、ルクセリアで泊まった宿も高級じゃ。
その宿に使用されておらんかったということは、使用されておる範囲は帝都のみかもしれぬ」
「言われてみれば確かにそうですね」
わしの推測に、アリアも頷く。
「アルバートの次は教団か。帝都に留まって教団の影も追うのか?」
「いや、その辺りはルークに聞くしかないのう。
アリアの妹がアグリスにおるのであれば、帝国で動くよりはアグリスに向かうしかない」
ドランの質問に、わしは考えを示した。
「それはそうだな」
「ルークは答えてくれますかね?」
アリアは眉をしかめながら言った。
「確かに、彼の掴みどころのない振る舞いでは読めませんね」
「聞いてみんことには分からぬな」
第一方針は変えぬ方がよいじゃろう。
錬金術の研究、適合体、賢者の石……それらを線で考えるとアリアの妹がおる場所は本拠地の可能性がもっとも高い。
「気になることは多いが、今はルークの接触を待つしかないのう」
わしは椅子の背もたれによりかかりながら言った。
「本当に来るんだろうな」
「来るじゃろ」
ドランの質問に、わしは即答した。
「ボニフさん、その即答はどこから」
アリアがそう聞いてきたが、わしには根拠とも言えぬ根拠を言う。
「この宿、一泊金貨二枚じゃぞ?
それを五人分。
バリスと同じ制度であればドランはさらに倍額じゃ。
合計で一泊金貨十二枚」
「はぁ!?」
アリアがアリアらしからぬ声を出した。
「それは、彼も豪気な金額を出したものですね」
フレインは驚きを表情に出さずに感嘆の声を漏らした。
「まぁ経費じゃろうがな」
わしがそう言うと、ドランも両手をあげた。
「そりゃ、確かに来るだろうな」
「じゃから来るまでは待機じゃな」
「公務、はどうしますか?」
アリアは驚き終わったのか正気に戻っておる。
「公務はもういいじゃろ……」
「アルバート、のこともありますしね」
アリアが拳を握りしめながら言った。
「では、何をして待機しましょうか」
「せっかくじゃし、この宿を堪能するかのう」
わしがそう言うとドランは吹き出した。
「またじじくせぇことを」
「実際中身はそうじゃからな」
わしは苦笑しながらそう言った。
「情報収集も兼ねて、帝都を見て回るのも良さそうですね」
「あ、私も行ってみたいです」
フレインの提案にアリアも乗っかる。
「その辺りならサーシャを連れて見てまわるのもよいかもしれぬな」
「俺は飯だな」
「それに関しては、わしも楽しみじゃな」
わしとドランのやり取りにアリアもフレインも笑った。
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