第122話 繋がったか……厄介じゃが……
部屋でそろそろ寝ようかと思っておったら魔力の淀みが強くなるのを感じた。
わしは体を起こし、部屋を出る。
この感じは──知っておる。
宿の裏口から出て、わしは出てくるのを待った。
「やっほー、やっぱり気付いた?」
そして、そいつは現れた。
「気付かせたんじゃろ? おぬし、ずっと付き纏っておるのか?」
わしはそいつ──ルークの方へ顔を向けた。
「まさかぁ、そんなに暇じゃないよ」
相変わらず飄々とした態度で、ルークはそう言った。
「入国が厳しくなったと言われておる帝国におって、こうしてふと現れる……。
わしらを観察して、付き纏っておるとしか思えんじゃろ」
わしはため息をついた。
「いやいや、さすがに本当に付き纏ってたらボニフちゃん気付くでしょ」
「おぬしなら気配ぐらいは消せるじゃろ」
わしがそう言うと、ルークは嬉しそうに笑った。
「ボクの評価が高くて嬉しいね」
ルークは両手を挙げ、揶揄うように言った。
「で?」
わしは目を細めてルークを見る。
「で? とは?」
「こうしてわざわざ接触してきたんじゃ。
何か用があるんじゃろ」
わざとらしくルークが誤魔化すので、わしは狙いを聞いた。
「まぁ、そうだね。
本題に入る前に言っておくと、ボニフちゃんを見つけたのは本当に偶然だよ」
「まぁ、そういうことにしといてやろうかのう」
「まぁそれでいいよ。で、本題ね。
一応ボニフちゃんたちに無関係じゃないから知らせておいた方がいいかなーって」
「何の話じゃ?」
ルークは笑顔は崩さず、じゃがその奥に真剣な空気を纏い続けた。
「帝国にアルバートがいる」
「なんじゃと?」
アルバートとは、確か王国から国外に逃亡しておったはず。
その逃亡先が帝国、というわけか……
いや、しかし──
「それをわしに伝えて何を企んでおる?」
「んー、ボクの仕事をやりやすくするため、かな」
ルークは先程までの真剣な空気を霧散させ、飄々と答えた。
「仕事? 教団の……か?」
「質問が多いね。まぁ仕方ないけど」
ルークは肩をすくめる。
「分かってやっておるんじゃろ。
情報を小出しにして何がしたいのか分からん」
「そういう性分だからねー」
相変わらず得体が知れん。
じゃが教団の手先……にしては敵か味方か分からんのも事実。
「ちなみに教団の仕事じゃないよ。
どっちかっていうと本業の方だね」
「"本業"じゃと?」
「そ。本業については答える気ないけど、教団とは別ってのは本当」
教団とは別件──さすがに情報が不足しておってルークの正体までは分からんのう。
「ボニフちゃんたちに協力してもらいたいんだよね。
ちょっとボク一人じゃ手に余っちゃって。
同僚も手が空いてなくてさー」
「協力じゃと? 確かにアルバートの件は気になる。
ドランあたりに言えば今すぐにでも飛び出していくかもしれん。
じゃが、わしからすれば王国の誘拐事件は既に方がついておる。
アルバートの件で動く意味があるとすれば王国の貴族や警らの方じゃろう」
アグリスに行き教団の真相解明、そして目論見を潰し、アリアの妹を救う。
今寄り道する意味はあまりない。
「ボニフちゃんは線引きが濃いよね。
でも、気にならないかなー?
アルバートが何故入国審査が厳しくなった帝国に逃亡出来たのか、ってね」
「気になるが、わしらが協力する意味はないじゃろ」
わしがそう言うと、ルークはため息をついた。
「じゃぁ協力する気になることを伝えるよ。
本当は秘匿の高い情報だから、言っちゃダメなんだけど」
そう言ってルークは笑顔を消し、喋り始めた。
「ルクセリアって変な街だよね。
表と裏で顔が真反対で、両方知ると気持ち悪くって」
ルークはわしの方を見るが、わしはルークに続きを促した。
「でも、一年以上前までは普通にただ獣人の差別意識が強いだけの街だった。
まぁそこは元老院の意向が強く反映されてただけだね。
あの連中、自意識や権力意識が強くて、そういう偏見も強いから」
「まるで帝国の元老院を直に見てきたみたいに言うの」
わしがそう言うと、ルークはフッと笑った。
「そりゃボク帝国の人間だしね」
「は?」
王国の人間かと思うておったら、教団の一味……かと思えば帝国民じゃと?
「本当のおぬしはなんなんじゃ」
「まぁ、今はボクのことより、ね?」
ルークはわしの質問に答えず、続きを話し出した。
「で、おかしいなぁと思ったんだよね。
ルクセリアの入領制度は変わるわ、帝国の入国審査が半年前から厳しくなるわ。
で、挙げ句の果てに獣人の奴隷化でしょ?」
「奴隷制度、までは行っておらんじゃろ」
「制度はそうだけど、ほとんど奴隷みたいなもんでしょ、あれ」
ルークは裏街の方角へ顔を向けて言った。
「でもさー、元老院ってもともと軍部を引退した奴らの集まりで、権力欲が強くて発言権もあるんだけど、法の知識や金儲けには滅法弱いのよ」
ルークがそう言い、少し言葉を止めた。
わしに違和感を考えろ……ということかの。
ルークの思い通りになっておるようで、少々癪ではあるが。
ルクセリアの獣人の扱いは人として外れてはおるが、統治者からすると低コストで労働力を確保できる。
その点においてだけ見ると上手いやり方ではある。
その仕組みにするために、身分証の制度を利用し、出領制度を変更した。
ルークの言うことが確かならば帝国の元老院では、思いついたのが急に……ということじゃな。
そして、アルバート──
「まさか、制度変更や獣人の扱いの変化にアルバートが関わっておる、と?」
「さすがボニフちゃん。ボクの調べでは、まず間違いないね」
いや、しかし。
「時期が合わんじゃろ。
アルバートが逃亡したのはおぬしと最初に会った日あたりじゃ。
ルクセリアの制度変更が一年前。
じゃが、その時はまだアルバートは王国におったじゃろ」
「それはそうだね。でも、王国にいながら帝国に工作してたとしたら?」
時期のズレは関係なく、元々アルバートは帝国に来る予定だった?
または、王国にいながら帝国で何かをしようとしておったのか。
「ボクも目的までは知らないよ。
でもアルバートが帝国に何か手回しをしていたのは間違いない。
どう協力したくなってきたでしょ?」
ルークはわしの思考を遮るように言った。
「確かに面白い話じゃ。
じゃが、やはり協力する意味がないの」
「強情だねぇ。今の話をまとめると──アルバートを追い詰めるとルクセリアの制度に歪みが出る。
そうなると獣人たちは街から出ることが出来るようになるかもしれない」
まぁ、それはそうかもしれぬが……
「アルバートは帝国にもいられなくなり、王国からも逃げ続ける。
獣人は解放、誘拐事件も解決。
ドラン君の溜飲も下がり、アリアちゃんも安心」
「おぬし、本当にわしらをついて回っておらんのか?」
わしは呆れながらルークを見てそう言った。
「直に見てはないけど、ドラン君やアリアちゃんの性格からしてそうかなーと」
「性格を知るほどに、おぬしは関わっておらんじゃろ……」
「仕事柄、なんとなく分かるんだよね」
ルークは再度肩をすくめてそう言った。
(仕事柄……教団ではなく"本業"というやつか)
「わしが二人に黙っておれば、なかったことに出来る、が」
「あとひと押しだね。
これに協力してくれたら、帝都から先のアグリス方面まで怪しまれずに行けるよう協力してあげるけど?」
ルークの言葉にわしは眉をピクリとさせた。
サーシャがいる以上、帝都から先への移動はまだ答えが出ておらぬ。
じゃが、それが出来るのであれば憂いは減る。
「それがおぬしに可能じゃと?」
「うん、間違いなくね」
ルークは即答した。
さすがに嘘、ではなさそうじゃな。
(こやつの"本業"とやらがなんとなく見えてきたのう)
「で、どうする?」
ルークが聞いてきたので、わしは最後に大きくため息をついた。
「癪じゃが、乗ってやるわい」
「さすがボニフちゃん! 信じてたよ」
「ふん、ぬかせ」
ルークが拳を突き出したので、仕方なくわしも拳をあわせた。
「で、具体的に何をすればよい?」
「まずは帝都まで来てよ。
具体的にはそれから話すから」
ルークはそう言って一枚の紙を渡してきた。
「これは?」
「帝都の宿の地図。協力してくれるってことで、宿泊代は払っておくからお金は心配しなくていいよ」
ルークはことも投げにそう言った。
「"本業"の経費から出るのかの」
「うーわ! ボニフちゃんにこれ以上喋るとボクの正体バレちゃうね!」
特に困った様子も見せずにそう言ってルークはその場から立ち去る。
「また、帝都で会おうね」
そう言って。
「厄介なことに巻き込まれたのう」
わしの独り言は夜の白い息と共に、静かに消えた。
じゃが、不思議なことに悪い気はせんな。
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