第121話 酷な話じゃが
表の通りを三人で歩く。
じゃが、街の煌びやかさとは裏腹に、アリアもサーシャも表情は暗い。
「ボニフさん、獣人族の方々の問題はなんとかならないんですか?」
アリアはそう聞いてきた。
「まず、難しいじゃろうな」
わしが短く言うと、アリアは顔を落とした。
「バリスでも言ったじゃろう。制度や文化の根は深い」
「そう、ですよね」
本音を言えばやりようはある。
急な制度変更という奇妙な点──その原因を追求し、壊す。
差別感情はなくならずとも、獣人族がルクセリアから出られるようになれば……
(無責任に言うことではないのう)
わしは言葉を続けるのをやめる。
「じ、自分は何も知らなかったであります……
ルクセリアは煌びやかな街で、その帝国の華やかな街を案内できると、単純に思っていたであります」
サーシャは小さな声でそう言った。
「帝国の役人が、そんな制度を作って……まるで……」
その先は言わなかった。
じゃが、なんとなく言いたいことは分かる。
サーシャの役人としての立場上、誰も聞いていないとはいえ、言葉にするのは憚れるじゃろうな。
帝国がまるで獣人を奴隷として働かせているようだ──とは。
「まぁ、他国のわしらが口を出して何か出来ることは多分ない。
出来るとすれば《三つ葉の盾》のような慈善事業的な動きだけじゃろう」
「ボニフさんでも、ですか?」
わしがそう言うと、アリアは顔を上げてわしを見る。
「生活状況を改善する。その程度なら可能じゃな。
じゃが、それで改善するのは住みやすくなるだけ。
まぁ、それでも何もしないよりはマシじゃろうが……」
わしは一拍置いて、少し厳しめに伝える。
「わしらは"別の目的がある"じゃろ。
無責任に動くことは出来ぬ。
それに動くことで事態が悪化する可能性もある」
アリアはわしの言葉に拳をギュッと強く握った。
見てしまった、知ってしまった獣人たちの状況。
じゃが、何かをするには短絡的ではいかん。
関わるなら責任を持たねばならん。
それを、わしらには出来ぬ。
伝わったかどうかは知らぬが、アリアは苦虫を噛み潰したような表情をしたものの、それ以上は何も言わなくなった。
「さて、とりあえずドランとフレインの飯も買いに行くかの。
部屋で暇をしておるじゃろうし」
「そ、そうですね! 何か美味しいものを買って帰りましょう」
わしがそう言うと、アリアも元気な声でそう返した。
空元気ではあるじゃろうが、それが今は必要じゃ。
「サーシャ、ルクセリアで買って帰れる美味しい店は知っておるかの?」
「は、はい。美味しいお店なら分かるであります」
サーシャはまだ気持ちの切り替えが出来ておらぬのか、声のトーンは小さかった。
(わしらより、おぬしが動いた方が事態は変わるはずなんじゃがの)
わしは口には出さず、心の中でそう呟いた。
****
サーシャは部屋へ戻って行き、わしとアリアは食事を持ってドランの部屋へ。
「おっ、待ちくたびれたぜ」
部屋へ入ると、ドランはベッドから体を起こし、椅子へと座る。
食事をテーブルに置き、わしらも椅子へと座る。
テーブルには既にフレインも席についておった。
「待たせたの」
「いえ、ドラン殿と有意義な時間を過ごしましたよ」
「まぁな。フレインがいなかったら暇すぎて暴れてたかもな」
ドランは笑いながら、暴れる仕草をした。
「さて、飯でも食って今日の話の共有でもしとくかの」
わしがそう言うと、ドランとフレインは頷きながら夕食の準備を済ませる。
まぁ買ったものを広げるだけじゃが。
「んで、アリアはなんでそんな顔してんだ?」
ドランはアリアを見てそう言った。
「分かりますか?」
取り繕っておったのかもしれぬが、ドランは気付いたようじゃった。
「確かに、口数も少なかったですしね」
フレインもそれに続く。
「まぁ、その辺りも含めてじゃな」
わしは食事をしながら、今日の出来事を話す。
ウーガとの出会い。
《三つ葉の盾》の存在。
獣人族の差別や街の制度変更。
アリアの感情とわしの考え。
一連の内容を共有すると、部屋内は沈黙が流れた。
「確かに同族としてはなんとかしてやりてぇ気持ちもあるな」
「えぇ、私も種族は違いますが憤りを感じます」
ドランとフレインはそう感想を言った。
「だが、ボニフの言う通り下手に動く話でもねぇな」
「えっ? ドランさんもそう思うんですか?」
アリアがドランの言葉にそう返した。
「腹は立つ。だが俺らは所詮部外者だ。
当事者なら何か動いたかもな。
それか、ミナやフィオみたいな子供なら今すぐにでも動く」
「それは、ウーガさんたちが大人だから?」
ドランは少し悩んだ後に、口を開いた。
「俺は細かいことは分かんねぇ。
頭も良くないしな。でも、俺一人が救えるのは二、三人までだな。
種族対街、種族対国ってなると徒党を組んで制度をひっくり返すぐらいのことが必要なんだろ?」
ドランはそう言ってわしを見た。
「それはそうじゃろうな」
わしはそう言って頷いた。
「本音を言えば飛び出していって、すぐにでも助けてやりてぇがな。
同種の俺が騒いでも、多分そいつらの立場がもっと悪くなる……そんな気がするな」
「おぬし、そんなに賢いやつじゃったか?」
「うるせぇ」
わしが言うと、ドランは笑ってそう返した。
「人間の文化や価値観というのは難しい問題ですね。
ですがエルフであっても、差別問題は難しいものです」
フレインは静かにそう言った。
「そう、なんですか?」
アリアはフレインの言葉に聞き返す。
「そもそも、エルフ族は外の種族には排外的です。
ボニフ殿、アリア殿、ドラン殿はそもそもフィオを助けていただいた経緯があります。
教団の脅威と三人への信頼がなければ、そもそも私は森すら出ていませんしね」
「エルフの国でそういった考えを無くす……種族の長い歴史に根付いた文化観を外の種族が変える。
そりゃ確かに難しいじゃろうな」
フレインの言葉に、わしが付け加えた。
「そう、言われると確かに」
まぁ、いきなりの制度変更による差別や搾取と、ただの種族の価値観や歴史を比べるのは少し違うじゃろうがな。
「ま、何かできることがあんならいくらでも協力するがな」
ドランはそう言って最後の飯を口に入れた。
「あれば……ですね」
ドランの言葉にアリアはそれだけ口にした。
「ともかくルクセリアでの調査の体は終わりじゃな。
なるべく早く街を出るぞ」
ドランとフレインはわしの言葉に頷き、アリアも複雑な表情をしつつも頷いた。
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